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2017年11月 7日 (火)

観客ふくめてみんながメンバー!

Title:TOWN
Musician:清竜人TOWN

シンガーソングライターの清竜人といえば、もともとは正統派のシンガーソングライターとしてデビューしたものの、アルバム「MUSIC」リリース直前のライブでいきなりミュージカル風なステージを披露したり、かと思えば清竜人25というアイドルグループをいきなり立ち上げたりと、その奇抜な活動でも大きな話題となりました。

そんな清竜人25を活動している最中にいきなり発表されたのがこの「TOWN」というプロジェクト。プロジェクト名と同時に公開されたのが上のジャケットにも使われている写真で、モヒカンに背中一面の入れ墨姿という、アイドルユニットというイメージからほど遠い姿に衝撃が走りました。そしてこのTOWNというプロジェクトが非常にユニーク。演者と観客という垣根を取り払い、観客を含めてバンドメンバーという思想のもと、みんなでひとつの曲を作り上げようというプロジェクト。プロジェクト発表後、ネット上にTOWNの楽曲が無料で公開され、ファンはその曲を事前に聴いた上でライブで一緒に演奏するというスタイルが取られました。

ライブは東京で5公演行われた後、名古屋や大阪などをまわる全国ツアーが6公演+CLUB CITTA'でツアーファイナルという全12か所でライブが行われました。このライブもあくまでも参加した人が全員メンバー。当日は楽器の持ち込みも自由で、もちろん大声で歌うことを前提としたステージ。メンバーからお金は徴収できないということで、全箇所無料という赤字覚悟のプロジェクトになっています。

ちなみに本サイトでも以前ライブレポートで紹介しましたが、私もこのプロジェクトに参加してきました!そんな訳で私も列記としたTOWNのメンバーの一人なわけで(笑)、TOWNのメンバーは全員、本CDのブックレットに名前が記載されているのですが、私の名前もしっかりと記載されていました(笑)。

本作はそんなプロジェクトTOWNの最初で最後となるアルバム。2枚組となるアルバムは1枚目にはみんなで演奏したライブ音源が収録、もう1枚はネットで無料公開された清竜人演奏による「デモ音源」が収録されています。

さて、そんなCDの1枚目となる「本編」。普通のライブ音源とはことなり、全12か所のライブ公演の音をすべて重ね合わせ、さらにみんなの演奏、歌声もきちんと拾い上げた録音となっています。そのため当日の迫力がそのまま伝わってくる音源。楽曲は基本的にみんなで声をあげて歌えるようなシンプルでわかりやく、ポップなパンクナンバーがメインとなっているのですが、演奏も声も重ね合わせているだけにとにかく分厚い音になっています。

非常にエモーショナルな音源を聴ける一方、あまりに音を重ね合わせた結果、音楽としては破たん寸前な内容になっています。それでも楽曲としてちゃんと聴ける内容になっているのは、「天才」の呼び声も高い清竜人のソングライターとしての実力により、足腰のしっかりとしたポップソングが歌われているからでしょう。正直、純粋に音楽的な観点から言えば決して「成功した」と言えないのかもしれません。ただ、演者と観客が一体となって音楽を作り出そうという情熱はアルバムからいやというほど伝わってきます。そういう意味ではプロジェクトとしては十分「成功した」と言えるでしょう。

ただ残念だったのが楽曲のうちの1曲「おい!ハゲ!ボケ!カス!」の歌詞の一部が問題視されたみたいで、本編でもデモ音源の方でも完全に音が消されてしまっている点。「いてまうぞ」「殺したる」のような攻撃的な歌詞が問題視されたようですが・・・ただ、差別語でもありませんし、そんなに問題視するような内容かぁ??あまりに危険回避的すぎる「言葉狩り」は非常に残念でした。

もうひとつ残念だったのが初回版に収録されたドキュメンタリー。TOWNのプロジェクトのスタートから最後のライブの模様まで収録されているのですが、基本的にスナップショット的な映像を羅列しただけ。個人的にはもっとTOWNというプロジェクトにかける清竜人へのインタビューが聴きたかったなぁ。冒頭に「TOWN」というプロジェクト名の意味など、軽いインタビューはあったものの、内容は薄く表面的なものだけ。曲の持つ意味、なんでこういうプロジェクトをやろうと思ったのか、また清竜人25との関係性などについてももっと突っ込んで話を聴いてほしかったです。

また、今回のプロジェクトに関して彼は背中いっぱいに和彫りの入れ墨を入れています。ドキュメンタリーでも彼が入れ墨を入れているシーンもしっかりとおさめています。正直、入れ墨が本物かプリントかは若干不明なのですが(入れ墨を入れているシーンも本当かどうかわかりませんし)、単なるファッション的なタトゥーではなく、本格的な入れ墨を、社会的な立場や今後の活動の制約、あるいは病気といったリスクがある中、わざわざこのプロジェクトのために入れているのかいまひとつ彼の意図がわかりません。だからこそドキュメンタリーというからには、このプロジェクトのために入れ墨を入れた意図をしっかりと聴かせてほしかったのですが・・・そういう意味でも「ドキュメンタリー」といいながら、非常に通り一辺倒の単なる「スナップ映像集」になっていたのはとても残念です。

そんな訳で、いろいろな「残念」な部分も多かったですし、正直、大味なライブ音源となっている楽曲自体も幅広く無条件でお勧めできるかというと微妙な部分も。ただ、そこらへんを差し引いてもなお、このプロジェクトのおもしろさと、それを実際にやってしまった清竜人の行動力、発想力に敬意を表して以下の評価で。ちなみにドキュメンタリーDVD付の初回版は6,500円+消費税というちょっと高い印象もしますが、ただプロジェクト自体、大赤字だったらしいので、本作のちょっと高めの値段設定に関しては仕方ないな、という感じもします。同プロジェクトは残念ながらこのアルバム1枚で終わりのようですが、今度もおもしろいプロジェクトを次々と立ち上げてくれそう。清竜人のこれからの活躍からも目が離せなさそうです。

評価:★★★★★

清竜人 過去の作品
WORLD
MUSIC
WORK
BEST
WIFE(清竜人25)


ほかに聴いたアルバム

indoor/おいしくるメロンパン

ミュージシャン名が一度聴いたら忘れられなさそうな3ピースバンドおいしくるメロンパンの2枚目となるミニアルバム。ただ、いかにも軽快でキュートなポップソング、あるいは今時のハードコア風なギターロックバンドを想像したのですが、楽曲的にはシンプルなギターロック。ちょっとノスタルジックな雰囲気もある哀愁感あるメロディーラインと中性的なボーカルがインパクト。この中性的なボーカルはちょっと川谷絵音に近い感じがしますし、歌謡曲テイストも感じるメロをあわせてIndigo la endに近いものを感じるのですが・・・。ただメロディーラインにはインパクトもありセンスも感じますし、独特の雰囲気も醸し出しており今後の成長次第ではおもしろいバンドになりそうな予感も。とりあえず次にリリースされるかもしれないフルアルバムでどんな姿を見せてくれるのか、楽しみです。

評価:★★★★

前へ/□□□ feat.the band apart

□□□(クチロロ)とthe band apartがまさかのコラボ。確かに□□□もシティポップ的要素の強いユニットだけに、両者のコラボも不思議ではないのかもしれませんが・・・。the band apartからの流れで聴いてみた本作ですが、基本的にはthe band apartのアルバムというよりは□□□のアルバム。□□□らしいコミカルで良くも悪くもちょっと斜めからの視点を感じるようなポップソングが並んでいます。the band apartの「Eric.W」にいとうせいこうがラップをのせた「お前次第ってことさ」はある意味、コラボらしいコラボといった感じですが、いとうせいこうのラップも含めて癖の強いリアレンジとなっておりthe band apartファンにとっては賛否わかれそうな作品に。the band apartが全面的に参加しているもののthe band apartのファンにはちょっと薦めずらい部分もあるアルバムです。

評価:★★★★

□□□ 過去の作品
TONIGHT
everyday is a symphony
CD
マンパワー

the band apart 過去の作品
Adze of penguin
shit
the Surface ep
SCENT OF AUGUST
街の14景
謎のオープンワールド
1(the band apart(naked))
Memories to Go

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