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2017年11月27日 (月)

甘茶ソウル全開

Title:Mr.Brown Eyed Soul
Musician:Sunny&The Sunliners

今回紹介するのはサニー・オズナというメキシコ系アメリカ人歌手が率いるバンド、Sunny&The Sunlinersが1966年から72年にかけて、キーロックというレーベルに吹き込んだ音源を収録した編集盤。「BLUES&SOUL RECORDS」誌に大きく取り上げられ興味を持ち、今回聴いてみました。

サニー・オズナは1943年にテキサス州はサンアントニアに生まれたチカーノ歌手。チカーノとはテキサス出身のメキシコ系アメリカ人のこと。もともと50年代にチカーノがよく聴いていたのが黒人向けのラジオ局だったようで、そんなチカーノが歌い出したソウルミュージックはチカーノ・ソウルという名前で呼ばれるようになったとか。本作はまさにそんなチカーノ・ソウルの曲を思う存分収録したアルバムになっています。

最初、「チカーノ・ソウル」という言葉を聴いた時に、メキシコ系のソウルということでブラックミュージックながらもラテンの影響を色濃く受けたような、そんな音楽が流れてくるのでは、そう思いながらアルバムを聴き始めました。

しかし実際に聴いてみるとラテン的な要素は皆無。むしろある意味、ソウルミュージック以上にソウルらしい楽曲が並んでいます。よく、とにかくメロウでスウィーティーなソウルミュージックのことを「甘茶ソウル」という言い方をするのですが、彼らの音楽はまさにそれ。例えば「Cross My Heart」の鼻に抜けるようなボーカルとコーラスライン、さらにはそんなボーカルを支える甘いギターやホーンの音色、「Smile Now Cry Later」「Forever」で聴くようなとろけるようなボーカルとメロディーライン。ここらへんを聴けば、おそらく「甘茶」という表現がよくわかるのではないでしょうか。聴いていて、そんなあま~い雰囲気が大好きなソウルリスナーの壺をつきまくるようなボーカルにサウンドが並んだアルバムになっています。

そんな甘いボーカルを聴かせるかと思えば、一方では「The One Who's Hurting Is You」ではJBばりのファンキーなボーカルを聴かせたりしますし、また「Get Down」も印象的なギターリフとホーンセッションでムード感たっぷりのファンキーなサウンドを聴かせてくれるなど、甘い側面のみならず男っぽいファンキーな側面ものぞかせたりするのもおもしろいところ。

かと思えば「Give It Away」はもっとフィリーな雰囲気で、むしろポップス的な要素を感じたり、「I Have No One」はジャジーなスタンダードポップな雰囲気を感じるムーディーなナンバーだったりと、全体的にあま~いメロとサウンドを展開させつつもソウルに留まらない音楽的要素を感じるのもユニークに感じました。

これは個人的な勝手な想像なのですが、チカーノ・ソウルは歌っているシンガーがチカーノというブラック・コミュニティーの外に居るため、むしろソウルミュージシャン以上にソウルっぽい曲が歌われているのではないでしょうか。ともすればあるコミュニティーの内側にいるよりも外にいる人の方が、そのコミュニティーの特徴をより良く捉えていたりするケースは少なくありません。またコミュニティーの外に居るからこそ、逆にソウルに留まらずに様々なジャンルの音楽を取り入れることが出来るという面もあるかもしれません。

そういう意味ではこのアルバムはチカーノ・ソウルの作品だからこそ、ソウル以上にソウルっぽく、かつソウルっぽくない側面も見ることが出来た作品になっていたのかもしれません。ともかく、終始あま~いボーカル、サウンドにとろけそうになる傑作アルバムでした。個人的には今年であったアルバムの中では屈指の傑作。チカーノ・ソウルの魅力にすっかりはまってしまった1枚でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Red Pill Blues/Maroon5

約3年ぶりとなる新作。前作「V」同様にエレクトロサウンドで軽快なポップチューンが主体となるアルバム。インパクトあるメロディーラインで楽しめるポップチューンなのはさすがなのですが、全体的にいろいろなジャンルがごちゃまぜだった以前の作品と比べるとすっきりとした「普通の」ポップソングが増えてきてしまい、ちょっと薄味な印象が。いまひとつバンドの「顔」が薄れているような印象も。

評価:★★★

Maroon5 過去の作品
OVEREXPOSED
V

Luciferian Towers/Godspeed You! Black Emperor

カナダのポストロックバンドによる新作。毎作、ダイナミックなバンドサウンドが耳を惹く彼ら。今回もゆっくりとしたギターノイズを響かせるのですが、バイオリンの美しい奏でやホーンセッションの静かなサウンドが流れてきて、ダイナミックさは薄め。逆に美しいそのメロディーラインが耳を惹く内容になっており、彼らのメロディーメイカーとしての意外な才に気が付かされるアルバムになっていました。もちろん聴けば聴くほどはまりこみ、聴き入ってしまう複雑な構成は健在。何度も聴いてみたいアルバムになっています。

評価:★★★★★

Godspeed You! Black Emperor 過去の作品
'Allelujah! Don't Bend! Ascend!
Asunder, Sweet and Other Distress

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