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2017年11月12日 (日)

1日1曲 最終回

今年の年初から何度か紹介してきた日本のポピュラーミュージックの名曲を1日1曲というコンセプトで1年かけて紹介しようという企画「大人のJ-POPカレンダー 365 Radio Songs」。いままで1回毎に3枚ずつ、計第3弾まで紹介してきましたが、今回はついに最終回です。

Title:大人のJ-POPカレンダー~365 Radio Songs~「10月 空と星」

まず10月はDisc1が「失恋ソング」、Disc2は「空と星の歌」となっています。10月のテーマがなぜこれになるのかいまひとつ不明なのですが、10月は音楽的にピッタリと来るような記念日がないから漠然と「秋」のイメージでテーマを設定したのでしょうか。

「失恋ソング」の方はある意味、ポピュラーミュージックの定番中の定番なのですが、なぜか「歌謡曲」が多く、フォーク、ニューミュージック、あるいは「J-POP」と呼ばれて以降の曲があまり選曲されていないのは残念。失恋ソングの定番中の定番、槇原敬之の曲とか選んでほしかったのですが・・・。「空と星の歌」はさすがにこのテーマだとしんみりと聴かせるような楽曲がほとんど。切なさを感じさせる曲も多く、日本人が「空と星」からイメージするのはみんな似たような感じになるのでしょうか?

評価:★★★★

Title:大人のJ-POPカレンダー~365 Radio Songs~「11月 家族」

正直この企画、1月からスタートし、月が進むにつれ、若干だれ気味に感じていた部分もあったのですが・・・この11月については、同オムニバス全12枚のうち文句なしの最高傑作。名曲が並ぶコンピレーションになっていました。

特に「労働の歌」がテーマとなっているDisc1が素晴らしい。もともと「労働歌」はポピュラーミュージックのある種の定番であるものの、歌謡曲やJ-POPではどうしても内容が暗くなりすぎるのか、あまりテーマとして取り上げられずらい分野ではありました。それだけにあえて働く人にスポットをあてた曲というのは作り手の思い入れがあるのか、傑作が多かったように思います。

斉藤和義の「おつかれさまの国」というサラリーマンの応援歌的な曲からスタートし、植木等の「ドント節」は「昭和」を感じる歌。「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」は今でも有名なフレーズですが、高度経済成長期を感じさせる歌詞の内容は今とは隔世の感もある、時代性を感じさせる1曲です。

中盤は岡林信康「チューリップのアップリケ」、高田渡「鉱夫の歌」など社会の底辺に生きる人たちにスポットをあてた曲が並んでおり、胸をうちます。最近では美輪明宏の歌で有名になった「ヨイトマケの唄」は、このコンピでは村上"ポンタ"秀一名義で泉谷しげるがボーカルを担当していますが、こちらもある意味荒々しくも力強いボーカルが曲にマッチしており、名カバーに仕上がっています。

この路線の曲では元ブルーハーツ、今はクロマニヨンズとして活躍している真島昌利の「煙突のある街」が秀逸。こちらも社会の底辺を生きる労働者の声を歌にした内容なのですが、「底辺」に限らず社会の歯車のひとつとして働きつづける私たちにとっても心に響く歌詞になっています。そんな労働者の叫びにレゲエのサウンドがピッタリとマッチ。真島昌利の心の底からはきだすよなボーカルも胸をうつ傑作となっています。

後半には浜田省吾「I am a father」、忌野清志郎「パパの歌」など、父親に捧げる曲が並びます。「労働=父親の役目」というのはちょっと古い価値観では?ここらへんはDisc2の「家族の歌」に収録すべきでは?とも思うのですが、数多く母親に対する歌に対して、あえて父親に捧げる歌を歌うあたり、ミュージシャンの力が入っていることがわかる名曲になっています。

一方Disc2は「家族の歌」。最初はよくありがちな「親に感謝」的な曲が並んでいるのでは?という危惧があったのですが、その手の曲は同コンピの5月に収録されていた「母の歌」に並んでいたようで、こちらは感謝というよりは親、息子、兄弟に対する素直な思いを綴る曲が並んでいました。

そんな思い入れが深い曲が並ぶ中、奥田民生の「息子」のような飄々とした曲が並んでいたのもバランスが良い感じ。で、楽曲自体はよく知っていたのですが、今回ちょっと意外な発見があったのが赤ちゃんソングの定番中の定番「こんにちは赤ちゃん」。純粋な赤ちゃんへの讃歌と思っていたのですが、2番にこんな歌詞が・・・

「こんにちは 赤ちゃん お願いがあるの
こんにちは 赤ちゃん 時々はパパと
ほら 二人だけの 静かな夜を
つくってほしいの」

(「こんにちは赤ちゃん」より 作詞 永六輔)

と、さらっとおそらく夜中の授乳や夜泣きで、夜がなかなか寝られない母親の育児の苦労がさらっと歌われていることに気が付かされます。こういうフレーズを自然に入れてくるあたりがさすが・・・といった感じ。意外な発見でした。

ただ一方で今回、もっとも違和感のあった曲があって、それが樋口了一の「手紙~親愛なる子供たちへ~」。一部で「泣き歌」として話題になったようですが、歌詞の内容を簡単に書くと、「昔、子供たちの世話をしたんだから、老人になったら介護してね」と親から子供にお願いしている歌。いや、これはないだろう。同じ内容を子供から親に歌うのならわかります。ただ、子供を持つ親としては子供に将来、自分の介護で苦労してほしい、なんてことは全く思いません。いや、子供に介護で苦労してほしいなんて願う親ってそんなにいるんでしょうか?もちろん、子供として親に対して思う気持ちは全く違いますよ。でも、私はこの曲、全く泣けず、むしろ引いてしまいました。

逆にDisc2で思わず泣けそうになったのが森本レオの「親父にさよなら」。え?森本レオが歌?と思ったのですが、基本的にインストをバックに彼が語るスタイル。いわゆる「ダメ親父」的な等身大の父親像をコミカルに描きつつも、亡くなった父親への想いを語る曲で、ユニークながらも涙腺がゆるんでしまう名曲でした。

そんな訳で違和感ある曲もありましたが、名曲揃いの本作。このシリーズ、全作通して聴かなくてもこの「11月」だけは聴いてみてほしいと思わるような内容でした。

評価:★★★★★

Title:大人のJ-POPカレンダー~365 Radio Songs~「12月 家族」

で、このシリーズラストを飾るのが本作。Disc1のテーマは「クリスマスソング」なのですが、さすがにテーマ性がテーマ性なだけに「歌謡曲」はゼロ。統一性が取れた内容になっているのですが、J-POPと歌謡曲を同じ俎上にのせて構成されているのが本作の魅力なだけにちょっと残念といえば残念。また、広瀬香美の「Dear...again」と山下達郎の「クリスマス・イヴ」はなぜかカバーで収録。ここらへんは大人の事情でしょうか?「Dear...again」をカバーしたMs.OOJAは、ちょっと癖のあった広瀬香美とは異なり、さらっと歌い上げていて、曲本来の良さを上手く出せていたと思いますが、一方「クリスマス・イヴ」をカバーした坂本冬美は、演歌独特のねちっこい歌い方が元曲にはちょっとあっておらず、違和感の残るカバーになっていたのが残念でした。

Disc2のテーマは「故郷の歌」。テーマ的に歌謡曲がメインかと思いきや、意外とJ-POP以降の作品が多く、時代を問わず歌われるテーマなんだなと感じます。特に注目したいのが畠山美由紀の「わが美しき故郷よ」。気仙沼出身の彼女が、東日本大震災後に発表したこの曲は被災した故郷を思って歌った曲。それだけに故郷の風景を美しく描写した歌詞が心に突き刺さる名曲になっています。

10月とは逆に、こちらは歌謡曲からの選曲が少なく、「クリスマスソング」はともかく「故郷の歌」はもうちょっと歌謡曲からの曲があってもよかったのでは?とは思うのですが、コンピレーションとしては逆に統一感は取れており、名曲も多かったように感じます。最後を飾るのが中島みゆきというのも納得感が。最後の最後を気持ちよく締めることのできたアルバムでした。

評価:★★★★★

そんな訳で今年1年間、全12作、365曲を紹介したコンピレーション。途中、正直似たようなミュージシャンの曲が多くなり、若干中だるみを感じたのですが、ラスト11月12月は直前の失速ぶりを完全に挽回する傑作となっていました。いろいろと知られざる名曲にも出会えた、聴きごたえのある企画で、最初から最後まで日本のポピュラーミュージックの魅力をしっかりと感じることが出来るコンピレーションでした。

大人のJ-POPカレンダー 365 Radio Songs 過去の作品
1月 新年
2月 告白
3月 卒業

4月 桜
5月 東京
6月 結婚

7月 サマーソング
8月 平和
9月 友情

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