奥田民生になりたいボーイにおくる・・・
Title:奥田民生になりたいボーイに贈るプレイリスト
Musician:奥田民生
「モテキ」の映画監督として話題となった大根仁監督の新作「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」。渋谷直角氏による漫画を原作にした映画で、奥田民生の力の抜けた飾らない生き方にあこがれる男性雑誌編集者が、出会った男性を狂わせる美人と出会い、翻弄される悲喜劇を「業界」ネタを織り交ぜつつ描いた作品。で、本作はその映画に使われた奥田民生の楽曲をまとめたサントラ的な企画盤。タイトル通り、奥田民生にあこがれるようなリスナーに送る奥田民生ガイド的な内容になっています。
で、この選曲がなかなかおもしろい。ベスト盤的な選曲とはちょっと異なりつつ、奥田民生というミュージシャンがどのようなミュージシャンなのかがよくわかる選曲になっています。たとえば「674」や「スカイウォーカー」のような曲は脱力感あふれる楽曲になっていて、ちょうど映画の主人公があこがれるような奥田民生像と一致しそうな雰囲気に。かと思えば「海へと」はあえてライブバージョンで入れており、迫力ある力強い演奏は、力の抜けた生き方という奥田民生のイメージとはちょっと異なる雰囲気を出しています。
また決して「知る人ぞ知る」的な曲だけを並べたアルバムではなく、「愛のために」「マシマロ」「月を超えろ」といった代表曲もきちんと網羅されており、きちんとベスト盤らしい役割も担っているアルバムになっています。そういう意味では実によく出来た「プレイリスト」になっていると思います。まさに奥田民生の入門盤としても最適なアルバムといえる1枚でした。
評価:★★★★★
ただ・・・そんな最中にリリースされた奥田民生のニューアルバムが、そんな「奥田民生になりたいボーイ」たちに「全然わかっていない」と冷や水を浴びせかけるようなアルバムになっていたのが、ある意味非常に痛快ですらありました。
Title:サボテンミュージアム
Musician:奥田民生
今回のアルバムは奥田民生のバンド、MTR&Y(奥田民生、小原礼、湊雅史、斎藤有太)によりレコーディングされたアルバム。大きな特徴としてはまずいままで以上にバンド色が強い点。もう一点が、奥田民生のルーツを表に押し出して、かつそのルーツに対して敬意をあらわしたアルバムになっているという点でした。
1曲目「MTRY」はまさに50年代のロックンロールそのままのナンバー。
「おしりに必ず ベイビーをつけて歌えと教わった
感謝してるぜベイビー 先人の教えは守らなきゃ」
(「MTRY」より 作詞 奥田民生)
はおそらく忌野清志郎のことを歌っているんだろうなぁ・・・。さらに「サケとブルース」はまさに王道のブルース。しゃがれ声の歌い方はおそらくハウリン・ウルフあたりの影響でしょうか。魚売りをテーマとしてきちんとワーキングソングになっているのもブルースへの深い敬意を感じます。
また歌詞で奥田民生らしいユニークさを感じたのが「ゼンブレンタルジャーニー」。タイトルからして松本伊代のヒット曲「センチメンタルジャーニー」からの「借り物」なのですが、必要なものはすべてレンタルで補い、「借りるだけ借りて自分を探しに旅に出ようぜ」と歌うこの曲は、ある意味、ひょうひょうとした彼の生き様の根幹にある哲学のように感じられますし、また、禅の精神である「本来無一物」に通じるような精神であるように感じます。
そんなバンドサウンドでルーツ志向の楽曲を重ね、彼のルーツをこれでもかというほど発揮した本作。上で紹介した「奥田民生になりたいボーイ~」の主人公があこがれたように奥田民生といえば力の抜けた飾らない生き方が大きな魅力なのですが、そんな奥田民生の人間像を作り上げた基礎には多くの音楽的なルーツ、あるいは精神的なルーツがあり、そんなしっかりした土台が積みあがっているからこそ、ひょうひょうとした生き方が出来るということを奥田民生自ら示した作品になっています。
もともと「奥田民生になりたいボーイ~」自体、奥田民生の表面的な生き様のみにあこがれている青年をある意味揶揄する部分があるのですが、今回のアルバムはまさに「奥田民生になりたいボーイ~」に対するカウンター的な作品になっていました。このアルバムを聴いてしまうと、奥田民生になりたいボーイは奥田民生の楽曲を何百万回聴いても奥田民生になれず、むしろ奥田民生になりたいのなら、まず彼のルーツとなったロックンロールやブルースを聴きこむべき・・・そんなことを感じてしまいます。
奥田民生本人が、映画を意識していたのかはわかりません。ただ、この映画が出るタイミングで、あえて映画の主人公に対してアンチ的な立ち位置にたつようなアルバムをさらっと出してしまうあたりがまたユニークに感じてしまいます。まあ、それも含めて奥田民生らしいといった感じなのでしょうが。これもまた非常に奥田民生らしさを感じたアルバムでした。
評価:★★★★★
奥田民生 過去の作品
Fantastic OT9
BETTER SONGS OF THE YEAR
OTRL
Gray Ray&The Chain Gang Tour Live in Tokyo 2012
O.T.Come Home
秋コレ~MTR&Y Tour 2015~
奥田民生 生誕50周年伝説“となりのベートーベン"
ほかに聴いたアルバム
COME ALONG 3/山下達郎
「COME ALONG」シリーズはもともとレコード店での販促用として、山下達郎の楽曲をラジオ番組風にノンストップにつないでいくというスタイルでつくりあれたアルバム。その出来にファンからの問い合わせが殺到したものの山下達郎本人はカタログ化に難色を示し、ようやくカセット限定というスタイルで発売されたという曰く付きの企画。その後、同作のLP、CD化や「COME ALONG 2」のリリースを経てリリースされたのが本作。もちろん今回は当初から山下達郎の公認による作品。また「COME ALONG」「COME ALONG 2」と同じくラジオDJを小林克也がつとめ、ラジオを聴く感覚で山下達郎の曲をノンストップで楽しめる内容になっています。
今回のアルバムはどちらかというとちょっとほろ苦さを感じる哀愁感ある夏を表現した楽曲が多いでしょうか。ただ今回も小林克也のDJにのせて爽快な山下達郎サウンドを楽しむことが出来ます。個人的には企画盤的な要素も強く、純粋に山下達郎の過去の代表曲を楽しみたいのならベスト盤かなぁ、とも思います。そういう意味ではファンズアイテム的な要素も多い作品。もちろん、熱心なファンでなくても十分楽しめる選曲だと思いますが。
評価:★★★★
山下達郎 過去の作品
Ray of Hope
OPUS~ALL TIME BEST 1975-2012~
MELODIES(30th Anniversary Edition)
SEASON'S GREETINGS(20th Anniversary Edition)
Big Wave (30th Anniversary Edition)
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2017年」カテゴリの記事
- 20周年イヤーの最後を締めるアルバム(2017.12.26)
- 5曲中3曲がタイアップ(2017.12.25)
- チャメ~!(2017.12.23)
- 4枚組豪華オールタイムベスト(2017.12.17)
- 赤裸々な本音を強烈なガレージサウンドで(2017.12.16)
コメント