歌詞には怖いものがありますが
Title:兵隊さんの汽車 幻の戦時童謡 1934~1942
ここのサイトでも何度も紹介している戦前SP盤の復興専用レーベルぐらもくらぶ。戦前の貴重な音源を数多く紹介し、非常に興味深い企画盤を次々とリリースしてくるレーベルですが、今回も非常に興味深い企画盤をリリースしてきました。今回リリースされたのはサブタイトルに記載がある通り、戦前にリリースされた童謡をまとめた1枚。それも明治大正期の今でも歌い継がれているようなおなじみの唱歌や童謡ではなく、昭和11年から昭和17年という戦時色が強くなる最中に発売された童謡を収録しています。
今回の目玉となるのはタイトルにもなった「兵隊さんの汽車」。一度聴けばすぐわかると思うのですが、この曲、いまではだれもが知っている童謡「汽車ポッポ」の元歌。歌詞の内容は出征していく兵隊さんを見送るという非常に戦時色の強い内容になっています。それを戦後、作詞家の富原薫自ら書きなおしたらしいのですが、今では完全に忘れ去れたオリジナルの音源ということで貴重な1曲となっています。戦時色が色濃い戦前の楽曲も、メロディーが良ければ内容を改変して歌い継がれているんだな、ということを感じさせます。
この「兵隊さんの汽車」もそうなのですが、基本的に子供向けの童謡ということもあってメロディーは非常にシンプルかつフックの強い楽曲が並んでいます。歌詞にしても口ずさみやすくかつわかりやすい曲が多いため、一度聴いただけで思わず口から歌が出てしまうようなインパクトの強い楽曲が並んでいます。そのため、70年以上前の楽曲ながらも今聴いても十分楽しめるような楽曲がほとんど。実際、「兵隊さんの汽車」のように姿を変えて今に歌い継がれる曲があるように、時代がかわっても心に残るフレーズというのは変わらないんでしょうね。
ただ一方で歌詞に関しては戦時色が強くかなり物騒な内容となっています。純粋に歌詞の出来の良さという観点から言えば、例えば戦時中に自らの愛馬へと思いを語る「愛馬進軍歌」など今聴いても戦争の美化という点を抜きにすれば心に響いてくるような曲もあります。しかし、「敵の夜襲」などは楽曲に銃声が入っている上に
「ねらいはよいぞ 薙ぎ倒せ
バタバタ倒れる 敵の奴
バラバラ逃げ出す 敵の影」
なんて歌詞を平気で子供に歌わせようとする感性が、今となっては信じられません。「時代が違う」といってもたかだか70年程度昔の話。これを歌っていた子供たちのうちにはまだご存命な方も少なくありません。そう考えると、時代がちょっと変わると、人間の善悪の感性なんて簡単に変わってしまうかもしれない、と怖いものを感じてしまいます。
そんな怖さを感じつつもその内容については非常に興味深いものがあり、また純粋に音楽としても軽快なポップミュージックを楽しめ1枚となっていました。歌詞は戦時色が強く戦争賛美の内容のため、その出来がいくらよくても鵜呑みするのは危険であり、そのためこの手の軍歌CDと同様、聴き手のリテラシーを求められる「取扱い注意」な部分はあるのですが、企画自体も素晴らしい内容でしたし、とても楽しめた企画盤でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
The Moonlight Cats Radio Show Vol. 1/Shogo Hamada & The J.S.Inspirations
The Moonlight Cats Radio Show Vol. 2/Shogo Hamada & The J.S.Inspirations
浜田省吾が2枚同時にリリースしたR&Bをカバーしたミニアルバム。名義が「浜田省吾」ではなく「Shogo Hamada&The J.S.Inspirationsとなっているようにインスト曲があったり、女性ボーカルがメインの曲があったりと、浜田省吾は主役というよりもあくまでもバンドの中の「一員」的な役割に徹しており、「浜田省吾」的なものを期待して聴くとちょっと肩すかしを喰らうかもしれません。
ラジオ番組という形態を取っており、DJを浜田省吾がつとめるというスタイルもユニーク。楽曲はマーヴィン・ゲイの「What's Going On」、テンプテーションズ「My Girl」やスプリームスのメドレーなど、モータウンの楽曲がメインとなっており、バリバリのソウルというよりは軽快なシティーポップ的な楽曲。アレンジも原曲からさらに爽やかなカバーにしあげており、若干爽やかすぎるような気もしたのですが、大人な雰囲気の漂うカバーに仕上がっていました。
評価:どちらも★★★★
浜田省吾 過去の作品
the best of shogo hamada vol.3 The Last Weekend
Dream Catcher
Journey of a Songwriter~旅するソングライター
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