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2017年10月

2017年10月31日 (火)

待望のソロアルバム!

Title:AS YOU WERE
Musician:LIAM GALLAGHER

「待望の」のいう表現がピッタリ来るのではないでしょうか。ご存じ元oasisのボーカリスト、リアム・ギャラガー。oasis解散後はBEADY EYEというバンドを結成しアルバム2枚をリリースしましたが解散。その後どうなるかと思ったのですが、ついにソロ名義でのアルバムをリリースし、名実ともにソロデビューとなりました。

まっすぐにこちらを見つめた顔写真のみの武骨なジャケット写真もいかにもソロアルバムといった感じですし、また彼らしい感じ。そしてその肝心な内容ですが・・・これはまずoasisファンにとっては非常にうれしくなってくるような内容だったのではないでしょうか。かつてのoasisを彷彿とさせるような正統派のギターロックの楽曲が並んでいます。

アルバムの1曲目を飾り先行シングルでもある「Wall Of Glass」などはまさにoasis直系のグルーヴィーなギターロックナンバー。途中に入るギターのフレーズなどoasisを彷彿とさせます。

その後も軽快なロックンロールナンバー「Greedy Soul」やリズミカルなドラムでダンサナブルな「You Better Run」、ミディアムテンポのグルーヴィーなロックチューン「Come Back To Me」など比較的シンプルな、ある意味リアムらしいロックナンバーが続きます。oasisの延長線上のような作品ではあるのですが、雑誌のインタビューで「自分にはこういう音楽しか出来ない」ということを言っていたので、リアムらしいといえばリアムらしさを感じます。

アメリカのシンガーソングライターAndrew WyattやMichael Tigheとの共作曲もあるのですが、基本的にはリアムギャラガー本人が手掛ける曲がメイン。oasis時代のリアム曲はノエルの曲と比べると良くも悪くも素人っぽさというか詰めの甘さのようなものを感じたのですが、今回のアルバム曲に関してはおそらくoasisのアルバムの中でノエルの曲と並べても違和感がない出来になっているのではないでしょうか。アルバムの最後を飾る「I've All I Need」などoasisのシングル曲としても十分通用しそうなメロディアスでスケール感あるロックナンバーに仕上がっています。ただ、アルバムの中で特にメロディーの良さが光った「Paper Crown」「Chinatown」がいずれもリアム作曲のナンバーではなかった点、やはりまだまだという部分も感じてしまったのですが・・・。

また歌詞もソロアルバムらしく内省的な歌詞が目立ちます。特に「Greedy Soul」では「一対一で戦ってやる」「俺には金儲けの才がある」とソロ活動での決意を感じさせるような歌詞が見受けられます。ただ一方、「俺のもとへ戻ってこないか」と歌う「Come Back To Me」なんてひょっとしたらお兄ちゃんに対する呼びかけか?なんて思ってしまったりして。ちなみにこのアルバムに関しての某雑誌のインタビューで、近日中にリリース予定の兄、ノエル・ギャラガーのアルバムついて聴かれて「別にどうでもいい」と言いつつも延々とノエルについて語っていて、どこまでお兄ちゃんが好きなんだよ、と思ってしまいました(笑)。

ちなみに同作がリリースされた直後にお兄ちゃんのバンドの先行シングル「Holy Mountain」がリリースされ、その出来の良さに、さすがにソングライターとしての格の違いも感じてしまったのですが・・・ただこのアルバムもoasis好きなら満足できるリアムらしさが出たロックアルバムになっていたと思います。これからのソロ活動も楽しみ・・・と言いたいところだけども早くもっと素直になって、oasisを再開してほしいなぁ、やはり。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Heaven Upside Down/Marilyn Manson

9月30日のニューヨーク公演で舞台セットの下敷きになったというニュースが飛び込んできたマリリン・マンソン。その後しばらく彼の状況についてコメントがなかっただけに心配したのですが、特に生死にかかわるような事故ではなかったようでほっと一安心です。

さて本作はそんな事故の直後にリリースされたアルバム。ノイジーなギターにダイナミックなバンドサウンドという典型的なインダストリアルロック。いかにもマリリンマンソンらしい楽曲の連続で目新しさはないのですが、安定感のある楽曲の連続。ファンなら安心して楽しめるアルバムだと思います。

評価:★★★★

Marilyn Manson 過去の作品
THE HIGH END OF LOW

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2017年10月30日 (月)

突如解散した話題のバンドのリーダーによるソロデビュー作

Title:ノスタルジア
Musician:Okada Takuro

インディーシーンに突如登場し大きな話題となりつつ、わずか2枚のアルバムを残し2015年に解散したバンド、森は生きている。そのバンドの中心人物であり、ギターや作曲、アレンジも担当していた岡田拓郎がOkada Takuro名義でソロアルバムをリリースしてきました。

人気上昇中で大きな話題となっている中の突如の解散となった森は生きているでしたが、フォークやソフトロック、ジャズなどの様々な音楽を取り込みながら独特の幻想的な雰囲気を醸し出す楽曲が特徴的でした。今回のアルバムに関してはやはりそんな森は生きているの延長線上のような作品になっていたと思います。

フィーキーな雰囲気を感じる「アルコポン」からスタートし、「アモルフェ」ではジャジーなサウンドを聴かせてくれます。全体的にはフォーキーな雰囲気を醸し出しつつも現代ジャズ的な要素も感じられる宅録系のポップミュージックを作り上げています。また今回、特に感じたのはソロアルバムということもあり、森は生きているの曲よりも、よりパーソナルな雰囲気の作品に仕上がっているという点。森は生きているも比較的「通向け」を感じる良くも悪くも地味さを感じさせるバンドでしたが、今回のアルバムに関しては、より内向的な雰囲気を感じさせる曲が揃っていました。

サウンドの構成としてももともと岡田拓郎本人がボーカルではなかったこともあってか、ボーカルトラックはほかのサウンドの中に埋もれ、数多いサウンドのひとつであるかのような構成になっています。そのため、基本的にボーカル付の楽曲が並んでいるものの、どこかインストのアルバムであるかのような感覚すら覚えるアルバムになっていました。

それだけに目立つのがフォークロックバンドROTH BART BARONの三船雅也の「アモルフェ」や女性シンガーソングライター優河を迎えた「遠い街角」といったゲストボーカルを迎えたナンバー。いずれもほかの曲と異なりボーカルトラックとメロディーラインを際立たせた「歌モノ」。これらの曲ではほかの曲ではさほど感じられなかった岡田拓郎のメロディーメイカーとしての才も感じさせる作品になっています。特に「遠い街角」はちょっとエキゾチックな雰囲気とフォーキーな優しい雰囲気、そしてジャジーな雰囲気が同居したアルバムのラストにふさわしい独特のポップチューンになっており、ほどよい余韻をかかえつつ、アルバムは幕を閉じます。

ちょっと森が生きているに比べてより内向的になってしまったのが気になる部分はあったのですが、ソロアルバムらしい岡田拓郎がやりたいことをやっているな、と感じさせてくれる傑作。また彼の才能が存分に発揮されたアルバムになっていました。アルバム2枚を残して森は生きているが解散になってしまったのは非常に残念だったのですが、今後は彼の活動に注目したいところ。まだまだ傑作をどんどん世に生み出してくれそうな予感のするソロデビュー作でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

NAMiDA/KANA-BOON

4枚目となるKANA-BOONのニューアルバム。前作に引き続き、押し一辺倒だったアレンジからポップなメロディーラインをきちんと生かした作風にまとめており、楽曲的に安定感が出てきた感じが。ただメロディーにはインパクトがあるものの独自性は薄く感じてしまうのが気になるところ。ルーツレスな部分を含めて、よくも悪くもいまどきのバンドという印象を強く感じます。

評価:★★★★

KANA-BOON 過去の作品
DOPPEL
TIME
Origin

大海賊/サイプレス上野とロベルト吉野

「サ上とロ吉」の略称でも知られるHIP HOPデゥオのメジャーデビューミニアルバム。え?いままでメジャーじゃなかったの?とちょっと意外にすら感じてしまうのですが・・・。ただメジャーデビューしても基本的なスタンスはいままでと同じ。7曲入りのミニアルバムですが、爽快なシティポップ風の「メリゴ」からスタートし、80年代風のファンキーディスコチューン「Walk This Way(アセ・ツラ・キツイスメル)」、ロッキンでダイナミックなトラックが魅力の「GET READY」など、様々なスタイルでサ上とロ吉の魅力を聴かせつつ、全編アップテンポで盛り上がるナンバーが並んでいる彼ららしいアルバムになっています。わずか7曲入りですが、きちんとサ上とロ吉の魅力を伝えるメジャー1枚目らしい傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

サイプレス上野とロベルト吉野 過去の作品
WONDER WHEEL
YOKOHAMA LAUGHTER
サ上とロ吉のINMIX~non stop rental~
MUSIC EXPRES$
TIC TAC
ザ、ベストテン 10th Anniversary Best(紅)
ザ、ベストテン 10th Anniversary Best(白)

コンドル

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2017年10月29日 (日)

マーク・ボランへの愛があふれる

1970年代前半、イギリスにおいてグラムロックのムーブメントを巻き起こしたバンド、T.Rex。今年はそのボーカルでありリーダーであったマーク・ボラン生誕70年かつ没後40年を迎えた年だそうです。それを記念し、今年、T.Rexに関する企画アルバムがリリースされました。

Title:T.Rex Tribute ~Sitting Next To You~

さて、T.Rexによりひとつの流行となったグラムロックは日本においても大きな影響を与えました。最初期には忌野清志郎がグラムロックの影響を受け、自身にもメイクをほどこしていたりしましたし、その後はご存じ、THE YELLOW MONKEYもグラムロックの影響を強く受けたバンド。また、日本においてひとつのジャンルとして確立したヴィジュアル系もグラムロックからの流れを受けています(イエモンもブレイク時は「ヴィジュアル系」にカテゴライズされていたこともありましたし)。

そんなグラムロックに大きな影響を受けた日本のバンドのひとつがマルコシアス・バンプ。アラフォー以上の世代には懐かしいロックバンドのオーディション番組「いかすバンド天国」通称「イカ天」で「グランドイカ天キング」に輝くなど一世を風靡しました。そのボーカル、アキマツネオは日本でも屈指のマーク・ボランフリークとしても知られているそうですが、その彼が総合プロデュースとして製作されたトリビュートアルバムがリリースされました。

本作にはアキマツネオ本人に、もちろんTHE YELLOW MONKEYから吉井和哉や廣瀬"HEESEY"洋一も参加。ほかにもOKAMOTO'SのオカモトショウやThe Collectorsの加藤ひさしにヒダカトオル、ちょっと意外なところではTHE BAWDIESのROYやアイドルグループチャオ ベッラ チンクエッティの橋本愛奈も参加しています。

基本的にT.Rexの音楽はシンプルなロックンロールが多いだけに楽曲もシンプルな曲がメイン。ボーカルとしてもシンプルでポップな歌い方をするボーカリストが曲にピッタリとマッチしていて、典型的なのが「Celebrate Summer」をカバーしたオカモトショウで、時としてあまりに軽すぎることも感じてしまう彼のボーカルも、T.Rexの楽曲に関してはむしろピッタリとマッチしています。

ちょっと意外(?)だったのがチャオ ベッラ チンクエッティの橋本愛奈で、良い意味でアイドルっぽさを感じさせない大人っぽいセクシーさも感じるボーカルで、アキマツネオとのデゥオで「Life's A Gas」にムーディーさを加えて上手くカバーしています。

逆にちょっと残念だったのがTHE BAWDIESのROYによる「Get It On」のカバー。いつもの彼らしいしゃがれ声によるソウルフルなボーカルだったのですが、残念ながら「Get It On」の軽快さを壊してしまうボーカルに。彼はおそらくこういう歌い方しか出来ないのでしょうが、T.Rexの楽曲にはちょっと合っていなかったように思います。

そしてさすがマーク・ボランフリークとして年季の違い(?)を見せつけたのがプロデューサーでもあるアキマツネオ。ほどよくねちっこいボーカルがT.Rexの楽曲にもピッタリとマッチしています。特に絶品だったのがラストを飾る吉井和哉とのデゥオ「Sitting Next To You」。どちらもマーク・ボランに対する愛情を強く感じるボーカルスタイルで、音楽的ルーツに共通項のある2人だけにボーカルとして息もピッタリ。T.Rexへの愛情あふれるカバーに仕上がっていました。

全体的には非常によく出来たカバーが多く、参加者それぞれのマーク・ボラン、そしてT.Rexに対する愛情があふれるトリビュートアルバムになっていたと思います。T.Rexが好きな人もそうでない人も、参加ミュージシャンが好きな人ももちろん、楽しめるアルバムになっていたと思います。特にT.Rexの曲はシンプルでポップで聴きやすいので、洋楽をあまり聴かないリスナー層にも楽しめるアルバムだと思います。

評価:★★★★★

そして本作と同時にリリースされたのがアキマツネオ監修によるT.Rexのベストアルバムです。

Title:BEST OF T.REXXXXXXX
Musician:T.Rex

まずちょっと残念なのは権利の関係か収録されているのがT.Rexに改名してから3枚目のアルバム「The Slider」以降の曲からピックアップされたベスト盤という点。そのため初期の代表曲「Get It On」などは収録されていません。

ただそれでも彼らの活動がもっとも脂になっていたと思われる70年代初頭の楽曲はきちんと収録されていますし、また彼らの楽曲の中には代表曲である「20th Century Boy」「Children of the Revolutin」などシングルリリースのみでアルバム未収録の曲も多く、それらの曲もキチンと抑えられている点、T.Rexの活動を知るためにはこの手のベスト盤が要チェックといった感じでしょう。

T.Rexといえばグラムロックと呼ばれるようなちょっとケバケバしたという印象すらある中性的な外観とは裏腹に楽曲は後のパンクロックへも影響を与えたという、ロックンロールやガレージロックの影響を受けたシンプルな楽曲がメイン。メロディーラインにも非常にわかりやすいものがあり、どの楽曲も非常に聴きやすさを感じます。

ただ、そういう印象をもとに聴き進めると、意外とギターが複雑なフレーズを奏でていたり、サイケやブルースなどの影響を顔をのぞかせたり、シンプルそうに感じても、実は「単純」なわけではないサウンドに気が付かされます。そんなサウンドを取り入れつつ、楽曲の雰囲気としてはむしろシンプルなポップスさを感じさせるあたりにマーク・ボランの才能を強く感じました。

ただ残念ながら後期の楽曲に関してはそういうサウンドのユニークさがちょっと薄れてしまい、単なるシンプルでポップなロックになっていた点が気になったのですが・・・。ただそういう部分を差し引いても名曲揃いのベスト盤。上にも書いた通り、彼らの楽曲はシンプルでポップ、ともすればわかりやすいサビを持っていたりもするのでJ-POPオンリーのリスナーにも聴きやすかったりします。オールタイムベストじゃないのはちょっと残念なのですが、これを機に是非。ブックレットには本作を監修したアキマツネオによる解説文も載っているので、入門盤としても最適なアルバムだと思います。

評価:★★★★★

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2017年10月28日 (土)

アフリカ初のポピュラーミュージック

Title:PALMWINE MUSIC OF GHANA

今回紹介するのは、一部で注目を集めているアフリカ音楽のコンピレーション。アフリカ最初のポピュラーミュージックといわれるパームワインを音楽評論家の深沢美樹氏監修・選曲により収録したコンピレーションアルバムです。ただ本作はその中でも1930年から60年あたりにかけてのSP音源を収録したアルバム。深沢美樹氏秘蔵のSP音源からの収録となるそうなのですが、全50曲中49曲が今回初CD化という驚きの内容。まさに秘蔵中の秘蔵の音源を世に出したアルバムになっています。

パームワイン・ミュージックは西アフリカの港町で生まれた音楽。欧米から帰ってきた解放奴隷たちが持ち込んだ欧米の音楽とアフリカの土着の音楽が融合して生み出された音楽で、「パームワイン」とは「ヤシ酒」のこと。ヤシの実から作った安酒を出すような酒場で演奏されたことからそのような名前が付けられたそうで、まさにアフリカ初のポピュラーミュージックという呼び名にふさわしい誕生の仕方といえるでしょう。

楽曲的には欧米由来のメロウなギターサウンドに、アフリカ由来のポリリズム的なリズムやコールアンドレスポンス、シャウとなどが融合したスタイル。基本的にはさわやかなギターサウンドとメロウなボーカルが前に出てきており、サーフミュージック、あるいはブラジル音楽あたりにつながるような雰囲気を感じさせる楽曲になっています。

今回のコンピレーションはまさにそんなパームワイン・ミュージックの最初期、1930年代の録音から徐々に時代を下る感じで楽曲が並んでいます。そのためパームワイン・ミュージックの成り立ちがよくわかるような構成になっています。個人的に特に魅力的だったのがパームワイン・ミュージックの萌芽ともいえる最初期の作品群。1937年の録音作品、Samの「Kweku Ewoosi」や同じく1937年の録音作品Kwaminの「Wongyam Odede」などはのちの音楽につながるようなメロウなギターサウンドが鳴っているものの、ボーカルは非常に荒々しく、アフリカの土着の音楽から地続きの音楽性を感じます。「Wongyam Odede」などはポリリズム的なリズムもなっており、西洋音楽とアフリカ土着の音楽の融合ということですが、アフリカ音楽的な要素を強く感じる楽曲になっています。

これが時代を下るにつれ、徐々にトライバル的な要素が薄れ、西洋音楽的な要素が強くなってくるのがひとつの特徴。音楽的にどんどんと洗練されていることがこのコンピレーションを聴くと感じることが出来ます。ただ、だからといってアフリカ的、トライバルな要素がなくなったかというとそうではなく、たとえば1952年の録音、Kwaa Mensah And His Bandの「Nana Akunfi Ameyaw」ではポリリズムなパーカッションを聴くことが出来たり、1958年の録音Kwabena Nyamaa&His Band「Mere Dwen Meho」などでもボーカルに強くトライバルの要素を感じたりと、洗練されたギターサウンドの後ろでトライバルなリズム、サウンドが鳴っており、この西洋的な部分とアフリカ的な部分のバランスが非常に魅力に感じられました。

今回のアルバムは、たとえばS.E.ロジーのような現代のパームワイン・ミュージックのミュージシャンにはまった人がそのルーツを知ろうとする時にちょうどよいアルバム、というスタンスなのですが、これがはじめてのパームワイン・ミュージックという方でも十分楽しめる構成になっていたと思います。特にアルバムに同封されているブックレットではパームワイン・ミュージックの歴史や各曲の紹介が細かく記載されており初心者にもピッタリの内容になっていました。アフリカ音楽の奥深さや魅力をより感じることが出来るコンピレーションアルバム。アフリカ音楽が好きなら間違いなく買いの作品です。

評価:★★★★★

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2017年10月27日 (金)

奥田民生になりたいボーイにおくる・・・

Title:奥田民生になりたいボーイに贈るプレイリスト
Musician:奥田民生

「モテキ」の映画監督として話題となった大根仁監督の新作「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」。渋谷直角氏による漫画を原作にした映画で、奥田民生の力の抜けた飾らない生き方にあこがれる男性雑誌編集者が、出会った男性を狂わせる美人と出会い、翻弄される悲喜劇を「業界」ネタを織り交ぜつつ描いた作品。で、本作はその映画に使われた奥田民生の楽曲をまとめたサントラ的な企画盤。タイトル通り、奥田民生にあこがれるようなリスナーに送る奥田民生ガイド的な内容になっています。

で、この選曲がなかなかおもしろい。ベスト盤的な選曲とはちょっと異なりつつ、奥田民生というミュージシャンがどのようなミュージシャンなのかがよくわかる選曲になっています。たとえば「674」「スカイウォーカー」のような曲は脱力感あふれる楽曲になっていて、ちょうど映画の主人公があこがれるような奥田民生像と一致しそうな雰囲気に。かと思えば「海へと」はあえてライブバージョンで入れており、迫力ある力強い演奏は、力の抜けた生き方という奥田民生のイメージとはちょっと異なる雰囲気を出しています。

また決して「知る人ぞ知る」的な曲だけを並べたアルバムではなく、「愛のために」「マシマロ」「月を超えろ」といった代表曲もきちんと網羅されており、きちんとベスト盤らしい役割も担っているアルバムになっています。そういう意味では実によく出来た「プレイリスト」になっていると思います。まさに奥田民生の入門盤としても最適なアルバムといえる1枚でした。

評価:★★★★★

ただ・・・そんな最中にリリースされた奥田民生のニューアルバムが、そんな「奥田民生になりたいボーイ」たちに「全然わかっていない」と冷や水を浴びせかけるようなアルバムになっていたのが、ある意味非常に痛快ですらありました。

Title:サボテンミュージアム
Musician:奥田民生

今回のアルバムは奥田民生のバンド、MTR&Y(奥田民生、小原礼、湊雅史、斎藤有太)によりレコーディングされたアルバム。大きな特徴としてはまずいままで以上にバンド色が強い点。もう一点が、奥田民生のルーツを表に押し出して、かつそのルーツに対して敬意をあらわしたアルバムになっているという点でした。

1曲目「MTRY」はまさに50年代のロックンロールそのままのナンバー。

「おしりに必ず ベイビーをつけて歌えと教わった
感謝してるぜベイビー 先人の教えは守らなきゃ」

(「MTRY」より 作詞 奥田民生)

はおそらく忌野清志郎のことを歌っているんだろうなぁ・・・。さらに「サケとブルース」はまさに王道のブルース。しゃがれ声の歌い方はおそらくハウリン・ウルフあたりの影響でしょうか。魚売りをテーマとしてきちんとワーキングソングになっているのもブルースへの深い敬意を感じます。

また歌詞で奥田民生らしいユニークさを感じたのが「ゼンブレンタルジャーニー」。タイトルからして松本伊代のヒット曲「センチメンタルジャーニー」からの「借り物」なのですが、必要なものはすべてレンタルで補い、「借りるだけ借りて自分を探しに旅に出ようぜ」と歌うこの曲は、ある意味、ひょうひょうとした彼の生き様の根幹にある哲学のように感じられますし、また、禅の精神である「本来無一物」に通じるような精神であるように感じます。

そんなバンドサウンドでルーツ志向の楽曲を重ね、彼のルーツをこれでもかというほど発揮した本作。上で紹介した「奥田民生になりたいボーイ~」の主人公があこがれたように奥田民生といえば力の抜けた飾らない生き方が大きな魅力なのですが、そんな奥田民生の人間像を作り上げた基礎には多くの音楽的なルーツ、あるいは精神的なルーツがあり、そんなしっかりした土台が積みあがっているからこそ、ひょうひょうとした生き方が出来るということを奥田民生自ら示した作品になっています。

もともと「奥田民生になりたいボーイ~」自体、奥田民生の表面的な生き様のみにあこがれている青年をある意味揶揄する部分があるのですが、今回のアルバムはまさに「奥田民生になりたいボーイ~」に対するカウンター的な作品になっていました。このアルバムを聴いてしまうと、奥田民生になりたいボーイは奥田民生の楽曲を何百万回聴いても奥田民生になれず、むしろ奥田民生になりたいのなら、まず彼のルーツとなったロックンロールやブルースを聴きこむべき・・・そんなことを感じてしまいます。

奥田民生本人が、映画を意識していたのかはわかりません。ただ、この映画が出るタイミングで、あえて映画の主人公に対してアンチ的な立ち位置にたつようなアルバムをさらっと出してしまうあたりがまたユニークに感じてしまいます。まあ、それも含めて奥田民生らしいといった感じなのでしょうが。これもまた非常に奥田民生らしさを感じたアルバムでした。

評価:★★★★★

奥田民生 過去の作品
Fantastic OT9
BETTER SONGS OF THE YEAR
OTRL
Gray Ray&The Chain Gang Tour Live in Tokyo 2012
O.T.Come Home
秋コレ~MTR&Y Tour 2015~
奥田民生 生誕50周年伝説“となりのベートーベン"


ほかに聴いたアルバム

COME ALONG 3/山下達郎

「COME ALONG」シリーズはもともとレコード店での販促用として、山下達郎の楽曲をラジオ番組風にノンストップにつないでいくというスタイルでつくりあれたアルバム。その出来にファンからの問い合わせが殺到したものの山下達郎本人はカタログ化に難色を示し、ようやくカセット限定というスタイルで発売されたという曰く付きの企画。その後、同作のLP、CD化や「COME ALONG 2」のリリースを経てリリースされたのが本作。もちろん今回は当初から山下達郎の公認による作品。また「COME ALONG」「COME ALONG 2」と同じくラジオDJを小林克也がつとめ、ラジオを聴く感覚で山下達郎の曲をノンストップで楽しめる内容になっています。

今回のアルバムはどちらかというとちょっとほろ苦さを感じる哀愁感ある夏を表現した楽曲が多いでしょうか。ただ今回も小林克也のDJにのせて爽快な山下達郎サウンドを楽しむことが出来ます。個人的には企画盤的な要素も強く、純粋に山下達郎の過去の代表曲を楽しみたいのならベスト盤かなぁ、とも思います。そういう意味ではファンズアイテム的な要素も多い作品。もちろん、熱心なファンでなくても十分楽しめる選曲だと思いますが。

評価:★★★★

山下達郎 過去の作品
Ray of Hope
OPUS~ALL TIME BEST 1975-2012~
MELODIES(30th Anniversary Edition)
SEASON'S GREETINGS(20th Anniversary Edition)

Big Wave (30th Anniversary Edition)

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2017年10月26日 (木)

1位は圧倒的な強さで

今週のアルバムチャート

http://www.oricon.co.jp/rank/ja/

まず1位は相変わらず高い人気を誇るアイドルグループ、のニューアルバム「『untitled』」が獲得です。初動売上は66万8千枚で2位以下を圧倒しての1位となりました。また前作「Are You Happy?」の63万6千枚(1位)よりもアップという結果となっています。

2位を獲得したのがニコニコ動画への投稿から人気を博したシンガーソングライターまふまふ「明日色ワールドエンド」がランクインです。いままで本人がボーカル+作詞作曲で参加していたユニットAfter The Rainでのランクインはあったものの、ソロ名義でのランクインはこれがはじめて。初動売上7万1千枚でメジャーデビューいきなりのベスト3入りとなりました。

3位初登場は韓国の4人組バンドCNBLUE「STAY GOLD」がランクイン。初動売上は2万8千枚。前作「EUPHORIA」の3万2千枚(2位)よりダウンしています。

続いて4位以下の初登場盤です。4位には名古屋を拠点に活動をするスターダストプロモーションの女性アイドルグループチームしゃちほこのベストアルバム「しゃちBEST 2012-2017」が入ってきています。初動売上は1万1千枚。直近のオリジナルアルバム「おわりとはじまり」の1万2千枚(10位)より若干のダウン。

8位初登場は「THE IDOLM@STER SideM ORIGIN@L PIECES 08」。男性アイドル育成ゲーム「アイドルマスター SideM」の登場キャラクターによるキャラクターソング集。初動売上は9千枚。同シリーズの前作「THE IDOLM@STER SideM ORIGIN@L PIECES 07」の初動7千枚(11位)より若干のアップ。

9位には「PAUSE -STRAIGHTENER Tribute Album-」がランクインです。同作はタイトル通り、メジャーデビュー15周年を迎えるロックバンド、ストレイテナーへのトリビュートアルバム。MONOEYES、THE BACK HORN、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなど同世代の大物バンドがズラリと名前を並べている他、the pillowsのようなベテランやMy Hair is Badなど若手バンドも参加している豪華なアルバムになっています。初動売上8千枚でこの位置にランクイン。

最後10位には人気上昇中の若手ロックバンドフレデリックのミニアルバム「TOGENKYO」がランクイン。なにげにメジャーからリリースされたミニアルバムはこれで4枚目となるそうです。初動売上は6千枚。前作「フレデリズム」の1万枚(7位)よりダウンという結果に。

さて初登場組は以上ですが、今週はロングヒット組も1枚。それは先週10位に返り咲いたDJ和「ラブとポップ ~好きだった人を思い出す歌がある~mixed by DJ和」。今週は売上を5千枚から1万1千枚にのばし5位にランクアップしています。これはおそらく10月17日にフジテレビ「めざましテレビ」に彼が特集されたことが大きな要因のようです。

今週のアルバムチャートは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2017年10月25日 (水)

久しぶりに韓流の「ヒット」か?

今週のHot 100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週は最近話題の韓流女性アイドルグループが1位を獲得しました。

今週1位を獲得したのが韓国の女性アイドルグループTWICE「One More Time」。CDリリースにあわせて先週の7位からランクアップし、ベスト10入り3週目にして1位獲得となりました。最近のK-POPはあきらかに一部の層のみの支持を得てヒットしている形がグループがほとんどで、結果、Hot100はCD売上・ダウンロード・ストリーミング数(以下「実売数」)及びPCによるCD読取数のみが上位で他はランク圏外・・・というケースがほとんど中、彼女たちは実売数、Twitterつぶやき数、You Tube再生回数で1位、PCによるCD読取数こそ19位にとどまりましたが、韓流がほとんど上位に入ってこないラジオオンエア数でも3位を記録と、軒並み上位にランクインしています。ちなみにオリコンでは初動売上20万枚で1位獲得。デビューシングルにしていきなりのヒットとなりました。

2位初登場は名古屋を中心に活動を行っているMAG!C☆PRINCE「YUME no MELODY」がランクイン。こちらは実売数が2位である以外はすべてランク圏外という、典型的な固定ファン以外一切波及していない形でのヒット。オリコンでは初動売上6万2千枚で2位初登場。前作「UPDATE」の4万5千枚(2位)よりアップしています。

3位には乃木坂46「いつかできるから今日から」が先週の1位から2ランクダウンでこの位置となりました。

続いて4位以下の初登場曲です。6位には西野カナ「手をつなぐ理由」が先週の14位からCDリリースにあわせてベスト10入りです。彼女らしいラブバラードなのですが、メロディーラインは彼女のイメージからは一風変わった郷愁感あふれる和風バラードになっています。実売数6位、Twitterつぶやき数17位、ラジオオンエア数20位、PCによるCD読取数22位と実売数以外は伸び悩みました。オリコンでは初動売上1万5千枚で7位初登場。前作「Girls」から初動売上・順位ともにまったく同じという結果となっています。

8位初登場は高槻やよい(仁後真耶子),菊地真(平田宏美),双海亜美・真美(下田麻美),我那覇響(沼倉愛美) 「Light Year Song」。女性アイドル育成ゲーム「THE IDOLM@STER」からのキャラクターソング。実売数5位、PCによるCD読取数6位と上でも書いた通り、典型的な固定ファンのみに支持されたヒット形態に。オリコンでは同作が収録された「THE IDOLM@STER MASTER PRIMAL DANCIN’BLUE(Light Year Song)」が初動売上3万5千枚で5位初登場。本作は「MASTER PRIMAL」というシリーズになるそうですが、同じシリーズの前作「THE IDOLM@STER MASTER PRIMAL ROCKIN' RED」の3万1千枚(4位)から若干のダウンとなっています。

初登場最後は10位。DAOKO×岡村靖幸「ステップアップLOVE」がCDリリースにあわせて先週の19位からランクアップしてベスト10入りしてきました。アニメ「血界戦線&BEYOND」エンディング・テーマ。前作「打上花火」では米津玄師とコラボした彼女ですが、今回はなんと岡村靖幸とコラボ。楽曲は完全に岡村ちゃん節といった感じのカッコいいファンクチューン。そしてなんといってもYou Tubeがカッコいい!

まずいきなり冒頭で岡村靖幸がバスケットボールでロングシュートをDAOKOに決められてビックリする顔をしたシーンからおそらく岡村ちゃんのファンなら「にやり」としそう(いうまでもなく彼の代表曲「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」をモチーフにしています)。そして岡村ちゃんのダンスは50歳過ぎに親父とはとても思えないほどキレッキレでめちゃくちゃカッコいい!思わず見とれてしまいました。You Tube再生回数は62位と奮いませんが、もっと上位に食い込んできてもいいと思うんですけどね。ちなみにオリコンでは初動売上8千枚で8位初登場。前作「打上花火」の1万1千枚(9位)から若干ダウンしています。ちなみにそのDAOKO×米津玄師「打上花火」はHot100ではロングヒットを続けており今週も5位にランクイン。こちらはYou Tube再生回数では3位を記録しており、まだまだロングヒットが続きそう。

今週、初登場曲は以上でしたが、他にベスト10圏外からの返り咲きが1曲。4位にAAA「LIFE」が先週の25位からランクアップ。CDリリースにあわせて3週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。ちなみにオリコンでは初動売上3万5千枚で4位初登場。前作「No Way Back」の3万4千枚(3位)から微増となっています。

またロングヒット組はEd Sheeran「Shape Of You」は先週と変わらず9位にランクイン。You Tube再生回数も先週から変わらず6位をキープしており、まだまだ強さを見せつける結果となりました。

今週のHot100は以上。明日はアルバム評。

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2017年10月24日 (火)

荒々しさと美しさが同居

Title:Visions of a Life
Musician:Wolf Alice

デビューアルバム「My Love Is Cool」が個人的に大ヒットしたイギリスの4人組バンドWolf Aliceの2枚目となるアルバム。私に限らずこのアルバムが壺にはまった方も多いようで、前作はイギリスのナショナルチャートで2位を記録。本作も前作から引き続き2位にランクインとヒットを記録しており、名実共にイギリスを代表するバンドへと成長を遂げようとしています。

今回のアルバムもまず1曲目「Heavenward」の出だしからして震えます。遠くのほうから徐々にホワイトノイズが近寄ってきたかと思えば、ガツンとギターサウンドのカットインでスタート。ノイジーなギターが鳴り響く中、ボーカルEllie Rowsellの澄んだ歌声が聴こえてくる・・・。マイブラからの影響を強く感じるこの楽曲はおそらく前作が気に入った方なら一発で気に入る楽曲になっているのではないでしょうか。

ただ今回、シューゲイザー色を強く押し出したドリームポップ的な曲は前作ほどは多くありません。続く「Yuk Foo」は80年代のインディーギターロック風の荒々しいパンキッシュなナンバー。さらに「Beautiful Unconventional」はロックンロール風の軽快なリズムが楽しいポップチューンになっています。

とはいってもアルバム全体として前作で感じたWolf Aliceの魅力はしっかりと残されていました。Ellie Rowsellによる美しいボーカルはもちろん本作でも健在。メロディーラインもポップで魅力的なフレーズを聴かせてくれます。特にそんな魅力が全面的に出ているのが「After The Zero Hour」。アコースティックギターをメインに彼女の美しいボーカルとメロディーを聴かせるシンプルなポップチューン。アルバムの中でも異色なナンバーなのですが、シンプルだからこそむしろWolf Aliceの魅力がより伝わるような楽曲になっています。

またガレージ風のノイジーなギターでパンキッシュに聴かせるナンバーも大きな魅力。「Space&Time」などはまさに全面的に歪んだギターが鳴り響くパンクチューン。ただ意外とメロディーラインに関してはポップにまとまっているのもまた彼女たちらしいといった感じでしょう。「St.Purple&Green」もまた、最初、美しいコーラスラインからスタートしつつ、途中からいきなりへヴィーなギターサウンドを軸とした分厚いバンドサウンドがガツンと入ってくるのも魅力的。そんな分厚いサウンドを展開しながらもクリアで美しいボーカルとメロディーのフレーズは続いており、へヴィーさと美しさが同居するWolf Aliceらしい楽曲になっています。

そういう意味ではタイトルチューンでもある最後を締めくくる「Visions Of A Life」も同様。ダイナミックでへヴィーなバンドサウンドを奏でつつ、一方で非常に美しいメロディーとボーカルを聴かせる、その対比がおもしろいナンバー。まさにWolf Aliceらしい楽曲での締めくくりとなっています。

前作に比べると(80年代インディーロックっぽい楽曲やシューゲイザー系からの影響は感じるものの)80年代っぽさは薄れた感じがします。またドリームポップよりもガレージロック寄りにシフトしたのも本作の特徴でしょうか。ただそれでもまた前作同様、Wolf Aliceの魅力をしっかりと感じることができた傑作になっていました。前作に引き続き、またもや本年度のベスト盤候補!今回も個人的におもいっきり壺にはまってしまいました。

評価:★★★★★

Wolf Alice 過去の作品
My Love Is Cool


ほかに聴いたアルバム

Wonderful Wonderful/The Killers

アメリカ・ラスベガス出身の4人組ロックバンド。ただアメリカよりもイギリスで人気が先行したようで、イギリスではデビュー作以降本作まで5作連続の1位を獲得。ただこのアルバムではついにアメリカでも1位を獲得しています。

楽曲はミディアムテンポのナンバーがメイン。以前聴いた「Day&Age」もそうだったのですが、スタジアムバンドの風格すら漂うスケール感のある作品を聴かせてくれます。メロディアスな作風は日本人にもマッチしそうな感じもするのですが。

評価:★★★★

The Killers 過去の作品
Day&Age

V/THE HORRORS

イギリスのインディーギターロックバンドによるタイトル通り5枚目となるアルバム。彼らはエレクトロサウンド色の強い「SKYING」、フィードバックノイズを多く取り入れた「Primary Colours」、そして両者を折衷した「LUMINOUS」とアルバム毎に少しずつそのスタイルを変えてきました。本作はノイジーなサウンドが目立ちつつも、基本的にはエレクトロサウンドが主軸となっています。ただ全体的にはサイケの要素を強く感じますし、またインダストリアル的な要素が強い「Machine」やアコースティックな要素が強い「Gathering」など幅広い音楽性への挑戦も感じられるアルバム。ただ全体的にはドリーミーなポップチューンが心地よいアルバムに仕上がっていたと思います。

評価:★★★★★

THE HORRORS 過去の作品
Primary Colours
SKYING
LUMINOUS

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2017年10月23日 (月)

アルビニっぽい音だなぁ、と思ったら

Title:24-7 Rock Star Shit
Musician:THE CRIBS

イギリスのスリーピースロックバンドによる新作。2008年に元The Smithsのジョニー・マーが加わり大きな話題となり、さらにその後リリースされた「Ignore the Ignorant」は高い評価を受けました。ジョニー・マーは残念ながら(予想通り)、その1枚のみの参加だったようですが、その後もコンスタントに活動を続けている彼ら。特にフジロックには過去3度も参加しており、なじみの深いミュージシャンの一組のようです。

彼らについて私が聴いたのは話題になったアルバム「Ignore the Ignorant」のみ。その後のアルバムについては正直スルーしていたのですが、前作から約2年5ヶ月ぶりとなるニューアルバムを久しぶりに聴いてみました。

以前のアルバムもいかにもイギリスのインディー系ロックバンド然とした作品だったのですが、今回のアルバムもいきなりノイジーに歪みまくった音、さらに荒々しくシャウト気味のボーカルが聴いてみてまず「あ、スティーヴ・アルビニっぽい」と好感触を持ちました。で、アルバムを聴いた後、このアルバム評を書く前にはじめて知ったのですが、全面スティーヴ・アルビニプロデュースなんですね・・・。ある意味、一発でアルビニとわかるような音作りをしていました。

そんな訳で、まさにPIXIESあたりが好きなら壺をつきまくりそうなアルバム。先行シングルにもなった「Year of Hate」もノイジーなギターとシャウト気味なボーカルで非常に荒々しいナンバーに。そしておそらくアルビニサウンドが好きならたまらないと思うのが、同じく先行シングルとなった「In Your Palace」「Dendrophobia」あたりではないでしょうか。荒々しいギターサウンドが展開されるも、メロディーラインは至ってポップというアンバランスさが楽しい楽曲。80年代のインディーギターロックが今の再現されたような内容になっています。

後半はアコースティックな色合いの強い「Sticks Not Twigs」や静かに聴かせる「Dead at the Wheel」みたいな曲もありつつ、基本路線は「Rainbow Ridge」「Partisan」というノイジーギターを中心としたダイナミックなバンドサウンド+ポップなメロディーラインという構成で変わりません。最後の「Broken Arrow」も軽快でポップなメロを主軸としたアルバム。曲名を冒頭に持ってくるサビが顔を見せるある意味、非常にわかりやすいナンバー。カラッとした雰囲気はどこかアメリカテイストなのですが、アルバムの最後を締めくくるにふさわしいロックチューンに仕上がっています。

全体的には決して目新しい感じもありませんし、楽曲のバリエーションも限られています。ただ全10曲36分という「短さ」がちょうどよいアルバムになっていました。とにかく難しいこと抜きにインディーギターロックの楽しさを味わえるアルバムだったと思います。PIXIESやDinasour Jr.あたりの80年代インディーギターロックが好きなら必ず気に入る1枚です。

評価:★★★★★

THE CRIBS 過去の作品
Ignore the Ignorant


ほかに聴いたアルバム

Concrete and Glod/FOO FIGHTERS

いきなりアコギ弾き語りで静かにスタートするFOO FIGHTERSの新作は本人たち曰く「モーターヘッドが『サージェント・ペパーズ』を鳴らしたような作品」だそうで、彼ららしいパンキッシュな作品は少ないのですが、全体的にポップなメロディーがキラリと光っていますし、楽曲によってメタルちっくだったりハードコアだったり、かと思えばポップな作品になっていたり・・・「Happy Ever After(Zero Hour)」なんて完全にビートルズを彷彿とさせるフレーズが飛び出したりと、非常に凝った作品に仕上がっていました。いつものフーファイを期待すると若干期待はずれになってしまうかもしれませんが・・・バンドとして一段階上に来たように感じさせるような傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

FOO FIGHTERS 過去の作品
ECHOES,SILENCE,PATIENCE&GRACE
GREATEST HITS
WASTING LIGHT
Saint Cecilia EP
SONIC HIGHWAYS

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2017年10月22日 (日)

爽快なダンスポップが並ぶ

Title:Awesome City Club BEST
Musician:Awesome City Club

最近は爽快なシティポップを奏でるミュージシャンが話題となっていますが、このAwesome City Clubというバンドもその一組でしょう。男性3人、女性2人からなる5人組バンド。いままでアルバム4枚をリリースしており本作は初となるベスト盤。以前から名前は知っていたのですが、ベスト盤リリースを機に、はじめて音源を聴いてみました。全然関係ないバンドなのですが、個人的には時々、Yogee New Wavesとごっちゃになります。シティポップのバンドということと、英語3文字のバンドという点以外に全く共通点はないのですが・・・(^^;;

さて今回はじめて音源を聴いてみたAwesome City Club。まず第一印象としては非常に聴きやすい、いい意味でいやらしさのないポップチューンという印象を受けました。シティポップというと、ジャズやファンク、ソウルなどの要素を上手く取り入れたポップチューンというイメージなのですが、洋楽的要素を多く取り入れた結果として良くも悪くもスノッブ臭がついてしまうというバンドも少なくありません。彼らの楽曲についてはそんなスノッブ臭はほとんど感じません。彼らの楽曲は非常にストレートなポップチューン。ジャズやソウルなどの要素ももちろん取り入れているのですが、それ以上に良い意味でのベタさを感じる部分が多く、その「ベタ」な部分が楽曲に聴きやすさを与えていました。

具体的に言えば例えば「Don't Think, Feel」。まあブルース・リーの有名なセリフからタイトルを取っている自体ベタですし、ディスコチューンにこういうタイトルをつけるあたり良くも悪くもひねりはありません。楽曲自体もストレートなダンスチューンで、特に楽曲全体を流れるストリングスのフレーズは「どこかで聴いたような」というイメージを強く抱きそう。ただ、それだけに非常に聴きやすいポップチューンになっており、ダンサナブルなリズムを素直に楽しめるナンバーになっています。

また楽曲もダンサナブルなディスコチューンがメインになっているのも聴きやすさを与える大きな要素。ただそれだけだと単調になってしまいますが、ちょうど良い具合に、例えば「GOLD」のようなバンド色が強い楽曲が入って来たり、「涙の上海ナイト」のようなエスニック色を入れてきたり、「Lesson」のようにファンク色を強くしたりとほどよくバリエーションを出してきています。そこらへんのバランスの良さも楽曲を聴きやすくする大きな要素になっていました。

そして彼らの楽曲のもうひとつ大きな魅力は、メンバーに男性ボーカル、女性ボーカルが入っており、男声、女声を上手くつかっている点でしょう。基本的には男性ボーカルのatagiがメインを張っているようですが、女性ボーカルのPORINとのデゥオを効果的に用いていますし、「Vampire」のようなPORINがメインを取っている曲もあります。ここらへん、男女ボーカルがバンドにいる点が、楽曲にバリエーションとインパクトを与えています。

全編爽快なダンスチューンがメインとなるベスト盤。良い意味で非常にポップで聴きやすく、おそらく万人受けしそうな楽曲が並んでいたと思います。若干、「通受け」しなさそうという点で音楽誌等で大きく取り上げられずらい部分があるのかもしれませんが、ヒットチャート上位で十分戦えそうなポテンシャルを持ったバンドだと思います。「シティポップ」という枠組みにとらわれずポップス好きなら要チェックのアルバム。全13曲1時間1分という長さもちょうど良いですし、入門盤としては最適なアルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

僕にできることはないかな/忘れらんねえよ

2人組になって初のフルアルバム。フルアルバムとしては約2年ぶりですが、昨年リリースされたミニアルバムからはわずか11ヵ月というインターバルでのリリースとなりました。ただ今回のアルバム、全体的に爽快なサウンドが目立ちパンク色は薄めに。「いいひとどまり」のようなメッセージ性の強い楽曲もあるのですが、彼らの持ち味だった変態的な歌詞はありまえん。それでもそれなりにインパクトがあって聴かせてしまうあたりバンドとしての基礎体力をつけていたように感じるのですが・・・忘れらんねえよのアルバムとしては少々薄味に感じてしまう1枚でした。

評価:★★★★

忘れらんねえよ 過去の作品
忘れらんねえよ
空を見上げても空しかねえよ
あの娘のメルアド予想する
犬にしてくれ
忘れらんねえよのこれまでと、これから。
俺よ届け

人間の土地/ラブリーサマーちゃん

奇妙なミュージシャン名が一度聴いたら忘れられませんが、今、ネットを中心に話題になっている宅録系女性シンガーソングライター。今回はじめてミニアルバムを聴いてみました。わずか4曲入りなのですが、1曲目「FLY FLY FLY」はギターにシンセの音を重ねた非常に分厚いサウンドが特徴的なダンスチューン。2曲目「海を見に行こう」は渋谷系を彷彿とさせる爽快なポップナンバー。3曲目「ファミリア」も分厚いギターのギターロックナンバー。さらにラスト「High and Dry」はRADIOHEADのカバーで、原曲の雰囲気に近いカバーに仕上げています。

楽曲的には2000年代初頭の下北系のギターロックバンドあたりの影響を感じる音。サウンドは非常に分厚い一方、メロディーは意外なほどポップにおさめています。個人的には好みな感じなのですが、一方、メロディーはちょっとひねりがなさすぎる感じも。またサウンドも音をつめすぎてもうちょっと引いた部分があった方が良いのでは?ただ非常におもしろさは感じたので、次のフルアルバムは聴いてみたいとは思いました。

評価:★★★★

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2017年10月21日 (土)

デザイナー三栖一明を向井秀徳が語る・・・・・・ではなくて。

本日も音楽関連の書籍の紹介。今回は、元NUMBER GIRL、現在はZAZEN BOYSとして活躍している「This is 向井秀徳」こと向井秀徳著による「三栖一明」です。

おそらくかなり熱心な向井秀徳ファン以外にとっては、「誰?三栖一明って?」という感じでしょうが、三栖一明は向井秀徳の学生時代からの友人で、向井秀徳と共に上京し、NUMBER GIRLやZAZEN BOYSのジャケットやパンフレットなどのデザインを担当しているデザイナー。本作は向井秀徳名義なのですが、インタビュアーが向井秀徳にインタビューする形で進んでいきます。そして向井秀徳が三栖一明について語ったのが本作・・・・・・・という建付けなのですが、実際は向井秀徳の自伝。一応は三栖一明について語っているような建て前がインタビューの要所要所に入るのですが、最初の質問は「向井さんはどういった家庭環境の中で生まれたのでしょうか?」ですし、基本的には彼の出生から学生時代、ナンバガ結成前夜からナンバガ結成後、そしてナンバガ解散、ZAZEN BOYS結成を経て今に至るまでが向井秀徳の口から語られています。

同書でなによりも興味深いのはやはり向井秀徳生誕からナンバガ結成、デビューまでの時期でしょう。特に彼が佐賀出身ではなく大阪生まれで幼少期を大阪で過ごした事実は今回はじめて知りました。根っからの九州男児だと思っていたのでこれはちょっと意外な。また、同書の書評で、真面目眼鏡君な風貌からは考えられないほどの不良さにショックを受けるファンもいるかも・・・なんてことを書いているサイトを見かけたので、ちょっと心配(?)しながら読み進めたのですが、ただこの点については杞憂。確かに高校生からデビュー前夜にいろいろな悪いこともしていたようですが、完全にぐれていた訳じゃなくて「ちょっと悪いこともしちゃってました」程度のお話で、彼のイメージから大きく逸脱するものではありませんでした。

それよりも印象的だったのが向井秀徳のコイバナ。彼曰く、女の子に恋をすると頭の中でラーズの「ゼア・シー・ゴーズ」が流れるらしいのですが、恋愛に対するスタンスは非常に純情そのもの。ただ恋がある程度成就すると覚めてしまうという、典型的な「恋に恋する乙女」タイプ(笑)。ただ、この恋に恋するような純情さは、特に初期のNUMBER GIRLの曲の歌詞からよく感じることが出来ましたし、そういう意味では向井秀徳のイメージ通りといった印象も受けました。

ただ、この向井秀徳のコイバナもそうなのですが、これと決めたらとにかく行動に移す向井秀徳の行動力には驚かされました。デモテープをアメリカの超有名なインディーレーベル、サブポップに送り、さらに電話までかけたという話にはただただビックリ。普通ならとてもできません。このくらの肝の太さがないとやはり音楽業界では成功できないんだろうなぁ・・・多分。

そんな訳で、NUMBER GIRLのデビューに至るまでの話は非常におもしろく、またその後の向井秀徳の音楽に影響を与えたであろう部分も大きく、ファンとしては興味深く読み進むことが出来ました。一方、NUMBER GIRLデビュー以降の話についてはあまり意外性はなかったような。どこかで聞いたような話だったり、音楽を聴けばある程度想像できるような話だったりして、もちろんこれはこれでおもしろかったのですが、興味深く読めたかというとデビュー前ほどではなかったかな、と感じてしまいました。

そして最後に、「特別収録」としてタイトルになった三栖一明本人のインタビューが載っています。正直、こちらはほとんど期待しないで読んでみたのですが・・・これがまた非常におもしろいく興味深い内容になっていました。こちらは三栖一明から語られる向井秀徳なのですが、おそらく向井秀徳本人では到底語られないような内容があったり、特にナンバガ解散時の会議の話なんか、実は田渕ひさ子とアヒト・イナザワはナンバガとしての活動を続けたがっていたというのはちょっと意外にすら感じましたし、解散を決めた時のメンバーの表情など、ファンとしては胸につまるものすらありました。

本の全体的なボリュームからすると2,800円(+消費税)というのは若干高いかな?という感じもするのですが、向井秀徳のファンならまず読んでおきたい自伝。彼の音楽的なルーツもよくわかり、非常に興味深い一冊。これを読んだら久しぶりにNUMBER GIRLの曲が聴きたくなりました。

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2017年10月20日 (金)

え?これがハープ?

Title:ライヴ・イン・モントリオール
Musician:上原ひろみ×エドマール・カスタネーダ

いつも様々なミュージシャンとコラボを行う上原ひろみ。今回はエドマール・カスタネーダというミュージシャンとのコラボ作を発表しました。一方は言わずとしれた日本を代表するジャズピアニスト上原ひろみ。そしてもう一方のエドマール・カスタネーダは南米コロンビア出身のミュージシャンで世界最高峰のジャズ・ハープ奏者だそうです。もともとは2016年のカナダ・モントリオールでのジャズフェスで知り合った両者。本作はそのカナダのモントリオールでのジャズフェスで再び出会い、共演した音源を収録した作品です。

ジャズ・ハープ・・・?といっても正直言っていまひとつピンとこない方も多いのではないでしょうか。ハープという楽器は典型的にクラシック音楽向けの楽器というイメージがあり、ジャズに使われているというケースは珍しいのではないでしょうか。ハープのあの優雅な音色がジャズにどうやってマッチするの?かなり疑問に感じつつアルバムを聴いてみました。

でも、そんなハープに抱いていたイメージは本作の開始早々に打ち砕かれます。まずあらわれるのは弦を激しく叩きつけるような音色。おそらく、ハープの優雅な音色を想像しているとそのギャップの大きさに驚かされるかもしれません。本作の1曲目を飾る「ア・ハープ・イン・ニューヨーク」ではまさに優雅というイメージのハープの音色からほど遠い、非常にアグレッシブな音が繰り広げられます。それに対抗するのが上原ひろみの奏でる、時には優しいメロを奏でつつ、アグレッシブに激しく繰り広げられるピアノの奏で。この両者がガッチリと対峙したこの曲はまさに緊張感あふれる作品になっており、ひと時も耳を離せられません。

続く2曲目「フォー・ジャコ」もフリーキーなハープとピアノの音がガッチリと組み合わさった、1曲目に続き緊張感の高い作品になっています。特にハープの音色はまるでギターを思わせるような激しい演奏を見せつつも、時折ハープらしい美しい音色が混じったりして非常に魅力的。良い意味でハープらしさとハープらしくない部分が混じり合った演奏となっていました。

その後は基本的にはメロディアスな曲調のナンバーが続きます。「月と太陽」など、まさにピアノとハープの美しい演奏が重なり合う、メロディアスなナンバー。こちらはピアノの音色はもちろんハープにどこか琴を彷彿させるような和風の香りが漂っています。もともとは上原ひろみが矢野顕子との共演作において作曲したナンバーですが、ハープの音色にもピッタリとマッチしていました。

後半では「ジ・エレメンツ」と題された4部作からなる組曲が披露されます。基本的にはメロディアスな作品ながらもここでもピアノもハープも非常にアグレッシブな演奏を聴かせてくれます。特に第3部「アース」ではフリーキーな演奏を聴かせてくれたり、最後の第4部「ファイアー」ではラテンテイストも感じさせるナンバーになっていたりと、ピアノとハープのみで非常に幅広い作風の楽曲を聴かせてくれます。

最後を締めくくるのはタンゴのスタンダードナンバー「リベルタンゴ」のカバー。こちらは哀愁感漂うメロディーをハープが奏でるナンバー。歌うようなハープの音色が実に魅力的。もちろんそこにからむように聴かせる上原ひろみのピアノも実に魅力的です。

今回のアルバム、上原ひろみとエドマール・カスタネーダとのコラボ作で、もちろん作中、宇原ひろみのピアノも強いインパクトを持っていたのですが、それ以上にやはりエドマール・カスタネーダの奏でるハープの音色が強く印象に残る作品になっていました。なによりもクラッシック音楽の演奏では絶対聴けないようなハープの奏法を次々と繰り出しており、それによりハープという楽器の持つ隠された魅力を次々と引き出しているような演奏になっていたと思います。いや、ハープってこんなおもしろい楽器だったんですね、ビックリしました。両者の緊張感あふれる対峙もたまらないし、またメロディアスな曲では息もピッタリあっているし、本当に魅力的なコラボ作だと思います。最後までひと時たりとも耳を離せない傑作でした。

評価:★★★★★

上原ひろみ 過去の作品
BEYOUND THE STANDARD(HIROMI'S SONICBLOOM)
Duet(Chick&Hiromi)
VOICE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
MOVE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
ALIVE(上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
SPARK
(上原ひろみ THE TRIO PROJECT)


ほかに聴いたアルバム

LOVE YOUR LOVE/LOVE PSYCHEDELICO

結成20周年を迎えたLOVE PSYCHEDELICO。途中、ベスト盤やライブ盤のリリースはあったものの純粋な新譜としては約4年3ヶ月ぶりと久々となってしまったニューアルバム。今回のアルバムはいい意味で肩の力の抜けたような爽快なポップスが並んでいます。雰囲気としては前々作「ABBOT KINNEY」に近い感じでしょうか?同作もいい意味で肩の力が抜けて、アメリカ西海岸の空気を感じるカラッとした作品でしたが今回のアルバムもそれに似たような雰囲気を持った作品に仕上がっていました。

評価:★★★★★

LOVE PSYCHEDELICO 過去の作品
This Is LOVE PSYCHEDELICO~U.S.Best
ABBOT KINNEY
IN THIS BEAUTIFUL WORLD
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST Ⅱ

15th ANNIVERSARY TOUR-THE BEST-LIVE

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2017年10月19日 (木)

貫録の1位だが・・・

今週のアルバムチャート

http://www.oricon.co.jp/rank/ja/

ベテランユニットの約3年ぶりの新譜が1位獲得です。

今週第1位はDreams Come True「THE DREAM QUEST」。途中、ベスト盤リリースを挟みましたがオリジナルアルバムとしては約3年ぶりとなる新譜となります。さすが貫録の強さといった感じですが、初動売上6万9千枚はオリジナルアルバムとしては前作「ATTACK25」の9万2千枚(1位)からダウンしてしまいました。また直近のリリースである裏ベスト「DREAMS COME TRUE THE ウラBEST! 私だけのドリカム」の10万8千枚(1位)からもダウンしています。

2位は韓流男性アイドル。WOOYOUNG(From 2PM) 「まだ僕は…」が初登場でランクイン。ミュージシャン名通り、男性アイドルグループ2PMからのソロミニアルバム。初動売上2万7千枚は前作「Party Shots」の2万4千枚(2位)よりアップ。

3位は先週1位Hi-STANDARD「The Gift」が2ランクダウンながら2週連続のベスト3入り。根強い人気を感じます。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位には有安杏果「ココロノオト」がランクイン。女性アイドルグループももいろクローバーZのメンバーによるソロデビューアルバムです。初動売上2万1千枚でこの位置にランクイン。

5位にはロックバンドSPYAIR「KINGDOM」が入ってきました。約2年ぶりとなるニューアルバム。初動売上2万枚は前作「4」(6位)から横バイ。

6位初登場はご存じ甲本ヒロトと真島昌利率いるロックバンド、ザ・クロマニヨンズ「ラッキー&ヘブン」。ほぼ毎年アルバムをリリースしている彼らですが、本作も前作から約1年のインターバルをおいてのリリースとなります。初動売上は1万6千枚は前作「BIMBOROLL」(5位)から横バイ。これで4作連続初動売上は1万6千枚となっており、良くも悪くも一定の固定ファンに支えられたヒットとなっています。

7位には男性声優蒼井翔太「0」がランクイン。蒼井翔太名義では3枚目となるオリジナルアルバム(うち1枚はミニアルバム)。初動売上1万1千枚は前作「UNTITLED」の1万4千枚(7位)からダウン。

初登場組最後は8位のcoldrain「FATELESS」。今年結成10周年を迎え、来年2月にはキャリア初となる日本武道館ワンマンを控える彼ら。初動売上1万枚は前作「VENA」の8千枚(9位)よりアップしています。

最後に1枚、ベスト10圏外からの返り咲き組が。10位にDJ和「ラブとポップ ~好きだった人を思い出す歌がある~mixed by DJ和」が先週の17位からランクアップ。売上も3千枚から5千枚にアップし、10月2日付チャート以来、3週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。9月30日から東名高速道路の海老名サービスエリアでポップアップショップが出店され、さらに10月7日、9日と同SAで行われた実演DJイベントが売り上げ増の要因になっているようです。

今週のアルバムチャートは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2017年10月18日 (水)

強いぞ!米津玄師

今週のHot 100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週はまず、ロングヒットを続けるDAOKO×米津玄師「打上花火」から。今週は先週の3位からワンランクダウンして4位。You Tube再生回数も2位にダウンしてしまいました。ただまだまだ根強い人気は続けており、ロングヒットは続きそう。

そして今週、米津玄師「灰色と青(+菅田将暉)」が3位初登場。米津玄師はこれで2曲同時ランクインとなり、その人気のほどを感じさせる結果となりました。同作は11月1日にリリース予定のアルバム「BOOTLEG」からの先行配信。タイトル通り、俳優の菅田将暉とのコラボ作となっています。CD販売・ダウンロード・ストリーミング数(以下「実売数」)で7位、Twitterつぶやき数では1位を獲得。ほかにYou Tube再生回数でも5位を獲得し、見事のベスト3入りとなりました。

実は今週、もう1人、2曲同時にランクインさせたミュージシャンがいます。それが女性シンガーAimer「ONE」が2位、「花の唄」が6位にそれぞれ初登場でランクインしています。「ONE」は実売数2位、PCによるCD読取数2位、ラジオオンエア数16位、Twitterつぶやき数18位を記録。一方「花の唄」は映画「劇場版「Fate/stay night[Heaven’s Feel]」主題歌。こちらは実売数3位、Twitterつぶやき数は7位にランクインしていながらもほかはランク圏外となっています。

「ONE」は比較的シンプルなアレンジの洋楽テイストが強い作風。逆に「花の唄」はギターサウンドやストリングスでこれでもかというほど分厚いアレンジで叙情感を醸し出しているサウンド。アニメ的にはこういうくどいほどのアレンジが好まれる傾向にあるようですが、ある意味対照的な2曲といった感じになっています。ちなみにオリコンでは両作を両A面扱いとしたシングルが2位初登場。初動売上2万8千枚は前作「茜さす」の1万3千枚(8位)からアップしています。

さて上位に戻ります。まず今週1位は乃木坂46「いつかできるから今日できる」がCDリリースにあわせて先週の9位からランクアップし1位獲得。実売数およびPCによるCD読取数1位、Twitterつぶやき数6位、ラジオオンエア数7位、You Tube再生回数28位を記録しています。オリコンでは初動売上85万枚で1位獲得。前作「逃げ水」の88万枚(1位)よりダウンしています。

5位には3代目J Soul BrothersのHIROOMI TOSAKAによる配信限定シングル「DIAMOND SUNSET」が初登場でランクイン。タイトル通り、トライバルな雰囲気も加えた非常にスケール感あるサウンドをバックにのびやかに聴かせるナンバーになっています。実売数4位、Twitterつぶやき数5位でこの位置に。

初登場あと1曲は韓流。男性アイドルグループU-KISS「FLY」が8位初登場。実売数5位、Twitterつぶやき数42位以外はランク圏外というのが一部の固定ファンに支持される韓流アイドルらしい傾向に。オリコンでは初動売上1万2千枚で5位初登場。前作「PaNiC!」の2万8千枚(5位)から大きくダウンする結果となりました。

そして今週のロングヒット組。Ed Sheeran「Shape Of You」は6位から9位にダウン。実売数は7位から8位、You Tube再生回数は4位から6位にダウンし、厳しい状況になってきました。ここからの盛り返しはあるのでしょうか。

今週のHot100は以上。明日はアルバムチャート。

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2017年10月17日 (火)

20年目の彼ら

Title:ROADSIDE PROPHET
Musician:GRAPEVINE

デビュー以来、ほぼ毎年のようにアルバムをリリースし、しかもどの作品も一定以上のクオリティーを誇った「はずれ」のない作品をリリースし続けるという、ある意味驚異的ともいえる活動を続けるGRAPEVINE。デビュー20年という記念すべき年となる今年も前作から1年7ヶ月というスパンでニューアルバムがリリースされました。

さてGRAPEVINEといえば、ソウルやR&Bから色濃く影響を受けたグルーヴ感あるサウンドをストレートなバンドサウンドにのせて演奏しているグループ。アルバムによって濃いグルーヴ感を前に出した作品と爽快なギターサウンドを前に出した作品があるのですが、ここ最近は比較的爽快な作品が続いています。今回のアルバムに関してもその方向性を踏襲した作品。比較的爽やかな作風の曲が目立っていたように感じます。

特に1曲目の「Arma」では軽快なトランペットやトロンボーンの音を入れており、いままでのGRAPEVINEの曲とはちょっと異なった雰囲気もある明るいポップチューンに仕上げています。その後も「Chain」のような軽いギターサウンドの楽曲が目立ちつつも、後半にかけてはノイジーなギターでゆっくり聴かせる「The milk(of human kindness)」などダウナーな雰囲気に展開していきます。

ただ最後を飾る「聖ルチア」もまたバンドサウンドが爽快な楽曲に仕上がっており、イメージ的には一廻りしてスタートに戻ってきたような感覚でしょうか。全体的な流れとしても上手く構成されたアルバムになっていました。

さてGRAPEVINEのもうひとつの大きな特徴といえばギターボーカルの田中和将の書く歌詞の世界。歌詞の意味というよりもリズム感を重視したような歌詞なのですが、リスナーの深読みを誘うにような文学的な歌詞も大きな魅力となっています。

ただこちらもここ最近の傾向として比較的意味のわかりやすい歌詞が登場してくるのは本作も共通。「Arma」では

「このままここで終われないさ
先はまだ長そうだ
疲れなんか微塵もない
とは言わないこともない
けど」

(「Arma」より 作詞 KAZUMASA TANAKA)

という前向きなメッセージ性ある歌詞を書いています。ただそのままなメッセージではなくちょっとひねってあるのが彼らしいのですが。また「Chain」でも

「声にならないわずかなエコーを
拾いあげて
こわれそうなそれをどうやって
うたうのだろう」

(「Chain」より 作詞 KAZUMASA TANAKA)

なんていう社会の片隅で孤独を抱えている人たちに対するメッセージを感じる歌詞を書いてきています。また前作と同様、社会に対して皮肉ともとれるメッセージも目立ちました。

「自国の愛ゆえ 自分を応援します
差別も虐待なども対岸の火事で」

(「Shame」より 作詞 KAZUMASA TANAKA)

「筋金入りのリベラルが格差を断つ
血も涙も無いワイドショーのポストトゥルース」

(「聖ルチア」より 作詞 KAZUMASA TANAKA)

などとある意味前作以上に強いメッセージ性を感じます。アジカンの後藤正文みたいなストレートに社会派なコメントを出していないのですが、田中和将もまた今の社会の情勢に対して疑問を感じているのでしょうか。

そんな感じで、前作同様、基本的にはここ最近のGRAPEVINEの方向性を引き継いだようなアルバムになっていました。もちろん今回のアルバムもいつもと同様、いい意味での安定感のある傑作アルバム。20年目のベテランバンドの彼らですが、まだまだその勢いは続きそうです。

評価:★★★★★

GRAPEVINE 過去の作品
TWANGS
MALPASO(長田進withGRAPEVINE)
真昼のストレンジランド
MISOGI EP
Best of GRAPEVINE
愚かな者の語ること
Burning Tree
BABEL,BABEL


ほかに聴いたアルバム

BIZARRE CARNIVAL/GLIM SPANKY

ジャケット写真からしていかにもなのですが、70年代ロックをそのまま伝えるガレージロックデゥオ、GLIM SPANKYの新作。いままでSuperflyとの近似が気になっていたのですが、今回のアルバムではさらにルーツ寄りに進み、独自色が増した感じに。またボーカル松尾レミのしゃがれ声のボーカルもより効果的に使われています。徐々にGLIM SPANKYとしての完成形に近づいているような感じ。これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★

GLIM SPANKY 過去の作品
ワイルド・サイドを行け
Next One
I STAND ALONE

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2017年10月16日 (月)

人気のアメリカインディーバンド

Title:Sleep Well Beast
Musician:The National

今回紹介するのはアメリカのインディーバンド、The Nationalのニューアルバム。The Nationalは2001年にデビューし、アメリカはブルックリンを拠点に活動している5人組バンド。2005年にリリースされた「Alligator」が絶賛を受け一躍注目を集め、前作「Trouble Will Find Me」も各所で絶賛を集め大きな話題となりました。売上的にも前作はインディーズでありながらもアメリカビルボードチャートで3位を記録するなど絶大の支持を受けているバンドです。

個人的には彼らの名前は以前から知ってはいたのですが、アルバムをちゃんと聴くのは今回がはじめて。ほとんど前情報がない状態で聴いたのですが、このアルバムで彼らの魅力にはまってしまいました。

彼らの楽曲についていえば比較的シンプルでポップなメロディーラインを聴かせるといった感じでしょうか。サウンド的にもピアノやシンセを取り入れつつも、比較的シンプルにまとめています。今回の楽曲で前半はピアノの音を取り入れて美しくしんみりと聴かせるような楽曲が目立ちます。1曲目を飾る「Nobody Else Will Be There」も美しいピアノのリフをメインとした曲作りとなっていますし、「The System Only Dreams in Total Darkness」などもピアノの音を軽快にならしたポップスにしあがています。

ただピアノの音をメインでしんみりと聴かせる前半から一転するのは中盤に待ち構える「Turtleneck」。ガレージロック風のギターが鳴り響く、ちょっとレトロな雰囲気もするダイナミックなロックチューン。ちょっと雰囲気が変わったな、と思えば続く「Empire Line」「I'll Still Destroy You」はエレクトロ系のミュージシャンを思わせるような打ち込みによるユニークなリズムが耳を惹きます。メロディーの方は序盤と変わらず至ってシンプルでポップなのですが、ここらへん、ユニークなサウンドに耳を惹かれるような楽曲が並びます。

これが再び終盤に来ると「Carin at the Liquor Store」はピアノがメインに美しいメロディーラインを聴かせるバラードナンバー、「Dark Side of the Gym」も同じくピアノの音にシンセの音が加わりながらも美しく聴かせるナンバーとメロディーラインを聴かせるようなポップチューンが並びます。最後を飾るタイトルチューン「Sleep Well Beast」はまたエレクトロのリズムが印象的なナンバーなのですが、こちらもしっかりとメロディーラインを聴かせてアルバムは幕を下ろします。

サウンドのバリエーションも魅力的なのですが、それ以上にやはり大きな魅力だったのがどこか哀愁感も帯びたフレーズも魅力なメロディーライン。サウンドにしろメロにしろ派手さはないのですが、しっかり心に残るメロディーを聴かせてくれました。比較的シンプルなメロに、若干実験性も加えたサウンドがバランス良く配合されたアルバム。毎回、アルバムが大きな話題となる彼らですが、本作もまた傑作アルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

All The Light Above It Too/Jack Johnson

夏のビーチがいかにも似合いそうなオーガニック系ミュージシャンの代表格Jack Johnsonのニューアルバム。楽曲的にはいつものJack Johnsonらしいアコースティックギターで聴かせるメロディアスなポップ。ある意味目新しさは皆無なのですが、そのメロディーラインの美しさはやはり抗えない魅力がありました。

評価:★★★★

Jack Johnson 過去の作品
SLEEP THROUGH THE STATIC
To The Sea

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2017年10月15日 (日)

多彩な「ダンサナブル」

Title:ダンサブル
Musician:Rhymester

前作「Bitter,Sweet&Beautiful」ではメッセージ性が強く、アルバム全体のコンセプト性が強かったアルバムをリリースしてきたRhymester。ここ最近(に限らないかもしれませんが)、彼らの楽曲には非常に強いメッセージ性を感じる作品が少なくありません。

そんな中リリースされた約2年ぶりとなるアルバムは、タイトル通り「ダンサブル」なアルバム。メッセージ性やコンセプト性が強く若干地味だったイメージの前作と比べると、リスナーの身体に対してダイレクトにヒットして楽しめるようなダンサナブルな曲が並んでいます。

特に序盤から3曲目にかけて聴いていていきなりアゲアゲとなってきます。「スタイル・ウォーズ」はテンポはミディアムテンポで若干ハードコア風の日本語ラップなのですが、強いビートのリズムが心地よい楽曲に。続く「Future Is Born」は軽快なディスコ調のナンバーが楽しく、「Back&Forth」もちょっとジャズっぽいドラミングが耳を惹くダンサナブルなナンバーとなっています。

その後の「梯子酒」にジャジーな「Don't Worry Be Happy」はコミカルな歌詞が印象的なポップで楽しいナンバー。さらに「ゆれろ」では「とかく縦ノリが好きなお国柄ってみんな信じ込みすぎ」というパンチラインが楽曲の方向性をあらわしている横ノリのナンバーで、ダンスチューンの中にもバリエーションを持たしてきています。

後半もサイプレス上野やHUNGERがゲストとして参加しマイクリレーを聴かせるタイトル通りダイナミックなサウンドが印象的な「爆発的」や、逆にKIRINJIが参加し爽快なシティポップ風のサウンドを聴かせる「Diamonds」など、同じダンサナブルであることをテーマにしながら様々なバリエーションを聴かせてくるあたり、Rhymesterのミュージシャンとしての実力を感じます。

最後のラッパーとしての決意を歌う「マイクの細道」はアルバムの最後を飾るにふさわしいような彼ららしい熱いメッセージを持ったナンバーになっていましたが、基本的に最初から最後までテンポよいダンサナブルな楽曲が並んでいた本作。いい意味で非常に聴きやすいポップなアルバムに仕上がっていました。またダンサナブルをテーマにしつつRhymesterの様々な魅力をきちんとおさめているアルバムだったと思います。そういう意味でもRhymesterをいままで聴いたことない人がまず聴いてみるアルバムとしてもお勧めできそうな1枚。今回のアルバムも文句なしの傑作でした。

評価:★★★★★

RHYMESTER 過去の作品
マニフェスト
POP LIFE
フラッシュバック、夏。
ダーティーサイエンス
The R~The Best of RHYMESTER 2009-2014~
Bitter,Sweet&Beautiful

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2017年10月14日 (土)

知る人ぞ知るブルース曲を集めたコンピ盤

Title:Do The Blues 45s!-The Ultimate Blues 45s Collection

今回紹介するのはブルースのコンピレーションアルバム。聴いてみるきっかけとなったのはブルースとソウルミュージックの専門誌「BLUES&SOUL RECORDS」の紹介記事。ディスクユニオンの秋元伸哉氏監修・選曲によるアルバムで、1950年代から60年代のブルース20曲を選曲。ただこのコンピの特徴はマイナーレーベルからリリースされた音源がメイン。いわば「知る人ぞ知る」的な楽曲を集めたコンピレーションになっています。

楽曲的には、前述の「BLUES&SOUL RECORDS」の紹介文にも書いていたのですが、全体的にダウンホーム(=南部的)な感覚の強いギターが特徴的。特に1曲目George Smithの「Trap Meat」は、楽曲の名義こそハーピストのGeorge Smithなのですが、むしろ目立つのはバックのマーシャル・フックスとジミー・ノーランの火を吹くようなアグレッシブなギターサウンド。4曲目Fention And The Castle Rockers「The Freeze」でも、こちらは楽曲のミュージシャン名義となっているフェントン・ロビンソンのギターが非常に力強く印象に残る内容になっています。

楽曲的にはEddie Hope&Manish Boysの「A Fool No More」やJames Walton And His Blues Kings「Leaving Blues」のように8小節の繰り返しでボーカルとそれに呼応するギターを聴かせるような、いわば王道的なカントリーブルースのナンバーが多い反面、Smokey Johnson「It Ain't My Fault Pt.1」はムーディーな雰囲気がカッコいいジャジーなナンバーとなっていますし、Monte Easter And His Band「Weekend Blues」も泣きのギターでしんみり聴かせる哀愁感あふれるジャジーなナンバーになっています。

Wiley Terry「Follow The Leader Pt.1」のJBばりにファンキーなボーカルも非常にカッコいいですし、Levi Seabury And His Band「Boogie Beat」も軽快なブギウギのビートが楽しくなってくるようなナンバー。全体的にダウンホームな色合いを主軸にしつつ、バリエーション富んだ作風にブルースというジャンルの包容力の大きさを感じさせるコンピレーションとなっています。

全体的にはインストのナンバーも多く、ダウンホームなギターの音に反して軽さを感じさせるようなナンバーもあったりしたのですが、どの曲もそれぞれの魅力を感じさせる選曲がされており、マイナーレーベルの楽曲でこんな知られざる名曲が残されていたのか、と驚きすら感じてしまうコンピレーション。CDの帯には甲本ヒロトの推薦文が書かれており、ジャケットデザインは本秀康となかなか豪華なメンバーが協力しているアルバムなのですが、それだけ力の入っているコンピということなのでしょう。その力の入った結果として文句なしの名コンピになっていたと思います。ブルースリスナー要チェックの1枚です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

american dream/LCD Soundsystem

DJ、音楽プロデューサーとしても活躍しているJames Murphyのソロプロジェクト、LCD Soundsystem。2011年に突然活動を休止するも2015年に活動を再開。約7年ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。

基本的にはエレクトロ主体としたポップアルバム。活動休止前のアルバムがロック色の強い作品だっただけに、その方向性のベクトルを少々変えてきた形となります。聴いていて心地よいし素直に楽しめる感じのアルバムですが、インパクトや目新しさは少々薄めに感じてしまいました。

評価:★★★★

LCD Soundsystem 過去の作品
This Is Happening

Every Country's Sun/MOGWAI

ベスト盤やサントラ盤などのリリースがあったためあまりそんな感覚はなかったのですが、純粋なオリジナルアルバムとしては3年ぶりとなるMOGWAIの新作。前作「Rave Tapes」はエレクトロサウンドを入れつつも基本的にはいつものMOGWAIらしさもしっかり感じられる作品になっていました。

久々となる今回の作品はノイジーなギターサウンドをベースにダイナミックで重いバンドサウンドで構成される良くも悪くもいつものMOGWAIらしさが全開となった作品。「Party in the Dark」「1000 Foot Face」のようなポップな歌モノもあり、全体的には聴きやすさも感じさせてくれる内容になっています。ファンにとっては安心して楽しめる内容。それがバンドにとって必ずしもプラスなのかは不明ですが。

評価:★★★★

MOGWAI 過去の作品
The Hawk Is Howling
HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL
Live at All Tomorrow's Parties,9th April 2000
Earth Division EP
Rave Tapes
Les Revenants
CENTRAL BELTERS
ATOMIC

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2017年10月13日 (金)

日本語ラップに対する愛情あふれる一冊

もともとは同人誌として発行されており、その頃から気にはなっていたのですが同人誌に書き下ろしも加えて商業誌として発売された日本語ラップのガイド本を購入してきました。

70年代の少女漫画風という今となってはちょっと珍しい画風で「ジャンプスクエア」などで連載を持っていた漫画家、服部昇大氏による「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」。このタイトルだけでアラフォー世代以上にはピンと来るかもしれませんが、70年代から90年代まで少女漫画などの裏表紙によく見かけたがくぶん総合教育センターのボールペン習字通信講座の宣伝漫画「日ペンの美子ちゃん」のパロディー漫画。懐かしの少女漫画風な画風はもちろんのこと、9コマ漫画で話の流れ関係なくむりやりボールペン字講座ならぬ日本語ラップを薦めてくる流れは本家同様。「美子ちゃん」の漫画の下についていた「体験者の声」のコーナーまでパロディーとして再現されており、アラフォー世代以上にはある種の懐かしさすら感じる漫画になっています。

ちなみに作者の服部昇大氏はそのパロディー漫画の出来の良さから、なんと本家「日ペンの美子ちゃん」の6代目作者として採用されるという驚きの展開に。以前のような雑誌への広告ではなくWebサイト上での展開がメインのようですが、こちらも時事ネタを含みつつ、かなり尖ったユニークな漫画を展開しています。

さてこの漫画は「美子ちゃん」ならぬ「美ー子ちゃん」が日本語ラップとは何かを紹介したり、日本語ラップに対する偏見に対して反論を展開したりしつつ、日本語ラップの名盤(珍盤)を紹介するギャグ漫画になっています。

まず本作を読んでまず感じるのは、作者の日本語ラップに対する惜しみない愛情。とにかくいろいろなシチュエーションに対してお勧めする日本語ラップのアルバムが列挙されており、そこからはとにかくいろんなタイプの人に日本語ラップを聴いてほしいという情熱が感じられます。最新のラップ事情もしっかりフォローされており、個人的にもかなり勉強になりました。また「ラップリスナーは基本的にめんどくさい」と言いつつも、お勧めしているアルバムはかなりポップス寄りも含めて幅は広い感じ。SEAMOとかDOBERMAN INFINITYとかも「アリ」なんだ・・・(いや、個人的にSEAMOは好きなんですが)。あと水曜日のカンパネラも紹介されていますが、あまり「ラップ」という括りでは聴いていなかったので、ここで紹介されていたのはちょっと意外でした。

また本作では様々なタイプの日本語ラップを紹介しています。以前から今の日本において(というか世界規模でも)ラップあるいはHIP HOPというジャンルは最も勢いがあり、自由度の高いジャンルであると思っていたのですが、本作を読んでその個人的な認識が裏付けられました。ここでも紹介したことのある「メシ物ラップ」のDJみそしるとMCごはんやら、吉田沙保里だけをテーマに作られたMC松島の「She's a hero」なんてアルバムもあったりと、この幅広さ、ジャンルの許容量の大きさが日本語ラップの大きな魅力でしょう。

特に今回はじめて知ったのがGOMESSという自閉症のラッパー。自らの障害を武器にしているのも素晴らしいですし、こういうラッパーが登場してくるという日本語ラップの幅の広さに驚かされます。本書の表紙に「ラップが今 日本でもっともまともな音楽よ」というよくよく考えればかなり挑発的なセリフが登場してくるのですが、確かにこういう様々なタイプのラッパーが登場してきて自由に自らを表現できるシーンというのは、今、日本語ラップくらいではないでしょうか。それだけに「まともな音楽」という表現は間違いない事実だと思います。

思えばいままでは今の日本語ラップの位置にいたのがロックだったのでしょう。ただここ最近のロックは正直なところ、おもしろいと思えるミュージシャンが少なくなってしまいました。出てくるバンドの多くがいわゆるフェス受けを狙うだけのパンク風ポップバンドがメイン。雑誌のインタビュー記事などを読んでもインタビュアーとなれ合ったような「おしゃべり」ばかり。一方、ラップ系のミュージシャンは見た目が不良っぽくでもインタビュー記事などを読むと、自分たちがやっている音楽に対して非常に意識的に、真摯に取り組んでいることがわかるような記事が多く、読み応えあるインタビュー記事がほとんど。漫画の中で日本語ラップに対する偏見として「ラッパー=DQNという指摘」をあげています。確かに見た目不良っぽいラッパーが多いのは事実ですが、音楽に対する姿勢という意味ではむしろロック系よりも「真面目」な人が多いように感じます。

本書では日本語ラップの魅力を主にパンチラインの側面から語ったものが多く、トラックの魅力について言及した記事が少ないのはちょっと残念なのですが、日本語ラップの魅力をこれでもかと感じられる漫画になっていました。漫画という読みやすさを含めて日本語ラップについて知りたい、何から聴けばよいかわからないという方には最適な一冊。作者の日本語ラップに対する愛情が最初から最後までこれでもかというほどあふれだしている一冊でした。

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2017年10月12日 (木)

新旧キッズ/ヘッズ対決(?)

今週のアルバムチャート

http://www.oricon.co.jp/rank/ja/

かつての「キッズ」が大騒ぎとなったアルバムが1位獲得となりました。

今週1位を獲得したのはHi-STANDARD「The Gift」。昨年10月、16年半ぶりとなるニューシングル「Another Starting Line」を前告知なしにCD屋店頭に並べ大きな話題となった彼ら。今回は、既に日本ロック史に残る名盤となった「MAKING THE ROAD」以来、実に18年4ヶ月ぶりの新譜となりました。初動売上は12万1千枚。その前作「MAKING THE ROAD」の25万6千枚(3位)から半減以下という結果となりましたが、ただ18年前といえばCDバブルの真っただ中だった時期。その時期から半減程度のダウンでとどめているというのは、驚きですらあります。

今回もネットなどでの告知一切なく、いきなり街頭看板が街にあらわれてCD販売の告知という手法が大きな話題となりました。CD店頭での告知という「Another Starting Line」と同様、ある意味ネット時代の逆を行くような手法が特徴的。ちなみに本作はダウンロード販売もされていないようで(もっとも「Another Starting Line」もいまではダウンロード販売されているので、後日、ダウンロードでも販売するかもしれませんが)、あくまでもフィジカルにこだわる姿勢を感じます。

ただ・・・「Another Starting Line」の時のチャート評でも書いたのですが彼らのスタンスは正直言うと「パンク」を感じるかというと若干の疑問があります。フィジカルにこだわる姿勢というのはネット社会へのアンチとも取れなくはないのですが、むしろ姿勢としては非常に保守的。本来、「パンク」というのは「大人」が顔をしかめるような既存の概念の破壊行為だったはずですが、彼らがやっていることはむしろ昔の概念の復活。「パンク」な姿勢とは真逆に感じてしまいます。

今週は偶然かもしれませんが、かつてのキッズに支持されたハイスタとは対照的、今、もっとも若い世代を賑わせているラップの分野で、今のヘッズたちに支持されている新人ラッパーのアルバムがランクインしています。それが7位にランクインしたPUNPEE「MODERN TIMES」。Rhymesterや宇多田ヒカルの楽曲に参加し徐々に知名度を上げてきた彼。デビューアルバムである本作が初動売上1万枚を記録し、いきなりのベスト10入りとなりました。

別に彼がネットに対して積極的に親和的という訳ではありませんが、本作はSpotify含めてもちろんダウンロード・ストリーミングでもリリースされており、そういう意味でもハイスタとは対照的と言えるかもしれません。ハイスタの今のファンの年齢層のメインがどのあたりなのか不明なのですが・・・今後10年、彼らの人気がどのように動いていくのか、気になります。

また、「今時を代表」という意味では今週9位にランクインしたネット発のシンガーソングライター伊東歌詞太郎「二天一流」もそうかもしれません。ニコニコ動画の「歌ってみた」コーナーで人気を博したシンガーソングライター。ただ初動売上8千枚は前作「二律背反」の1万4千枚(6位)からダウンしています。

ちなみに逆にハイスタ世代と微妙にかぶりそうなアラフォー世代直撃のアルバムが10位初登場、LIAM GALLAGHER「AS YOU WERE」。ご存じ90年代に一世を風靡したロックバンドoasisのボーカリストによるソロアルバム。oasis解散後はBEADY EYEとして活動をしていましたがアルバム2枚で解散。その後リリースされたソロアルバムが本作となります。初動売上は7千枚。ちなみにBEADY EYEのラストアルバム「BE」は初動1万1千枚(10位)でしたのでそこからはダウンという結果となりました。

さて、ベスト3に戻りまして・・・2位初登場はNMB48山本彩のソロアルバム「identity」がランクイン。2位は自己最高位。ただし初動売上3万6千枚は前作「Rainbow」の5万枚(3位)からダウン。

3位と4位にはイケメン役者養成ゲーム「A3!」のキャラクターによるミニアルバム「A3! Blooming SPRING EP」が3位に、「A3! Blooming SUMMER EP」が4位にそれぞれランクインしています。初動売上はそれぞれ2万4千枚と2万3千枚。同ゲームからのアルバムの前作は「A3! First AUTUMN EP」「A3! First WINTER EP」でそれぞれ3万2千枚(3位)、2万8千枚(5位)なので、そちらからはそれぞれダウンしています。

5位初登場はアニメソング中心に活動を続ける人気女性声優南條愛乃とミュージシャン八木沼悟志のユニットfripSide「crossroads」がランクイン。本作は結成15周年を記念してリリースされたセルフカバーアルバムだそうです。初動売上は1万1千枚。直近のオリジナルアルバム「infinite synthesis 3」の1万8千枚(5位)からはダウン。

最後8位にはDreamやE-girlsのメンバーとしても活動するDream Ami「Re:Dream」がランクイン。本作はアルバムとしてはデビュー作となります。初動売上9千枚で見事ベスト10入りです。

今週のアルバムチャートは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2017年10月11日 (水)

デッドヒートの1位2位

今週のHot 100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週は男女アイドルグループの1位争いが激化しました。

結果、Hot100で1位を獲得したのがモーニング娘。'17「邪魔しないでHere We Go!」。CD販売・ダウンロード・ストリーミング数(以下「実売数」)で1位、PCによるCD読取数で7位を記録。ただしTwitterつぶやき数14位、ラジオオンエア数は94位に留まっており、正直、一部の固定ファン層以外に広がりを感じない限定的なヒットの様相となっています。

一方2位にはジャニーズ系Sexy Zone「ぎゅっと」が初登場。実売数2位の他、PCによるCD読取数及びTwitterつぶやき数で1位を獲得。ラジオオンエア数でも21位とジャニーズ系としては比較的高順位。日テレ系ドラマ「吾輩の部屋である」主題歌。

ちなみにオリコンではSexy Zoneが初動11万8千枚で1位、モーニング娘。が初動11万1千枚で僅差ながらも順位が逆転しています。ただ、ビルボードのTop Single Salesチャートだとモーニング娘。が17万8千枚、Sexy Zoneが11万5千枚という結果に。オリコンといえば普段からジャニーズ系に妙に肩入れが激しい媒体なだけに今回の結果についても若干疑念を抱いてしまいます。いわばジャニーズ系に忖度した結果なんじゃないかと・・・。もっともモーニング娘。の方も相変わらずの7種同時リリースと、売上枚数が素直に人気と結びついているのか疑問な部分は否めないのですが。

なおSexy Zoneは前作「ROCK THA TOWN」の11万9千枚(1位)から若干のダウン。モーニング娘。'17は前作「BRAND NEW MORNING」の7万9千枚(2位)よりアップしています。

3位は相変わらず強い、DAOKO×米津玄師「打上花火」がワンランクダウンでベスト3をキープ。実売数4位、PCによるCD読取数3位のほか、You Tube再生回数では今週も1位を誇っており、人気を維持しています。

続いて4位以下の初登場曲です。まず4位に欅坂46「風に吹かれても」が先週の15位からランクアップしベスト10入り。10月25日リリース予定の新譜ですが、Twitterつぶやき数及びYou Tube再生回数で2位を記録し、ベスト10入りしてきました。

7位にはEXILE TAKAHIRO「Eternal Love」が初登場でランクイン。ハウステンボス「光の王国」CMソング。感情たっぷりの王道歌謡バラード。実売数は5位でしたが、ラジオオンエア数69位、PCによるCD読取数13位、Twitterつぶやき数35位が足をひっぱりこの順位に。ちなみにオリコンでは初動2万枚で4位初登場。前作「Love Story」の5万4千枚(3位)から大幅減。ソロデビュー作以降、初動売上が8万3千枚→5万4千枚→2万枚と順調に(?)ダウンしています。

8位初登場は女性アイドルグループBiS「I can't say NO!!!!!!!」。実売数3位を獲得したものの、PCによるCD読取数84位、Twitterつぶやき数63位だったほか、ラジオオンエア数では圏外という結果に。完全に一部の固定ファンのみのヒットという形に。オリコンでは初動売上1万4千枚で5位初登場。前作「SOCiALiSM」の7千枚(13位)よりアップしています。

初登場組最後は10位に韓国の女性アイドルグループTWICE「One More Time」がランクイン。軽快なEDMチューン。10月18日リリース予定のシングル。Twitterつぶやき数4位、You Tube再生回数8位でこちらもシングルリリースに先立ちベスト10入りしてきました。

他のロングヒット組ではEd Sheeran「Shape Of You」が先週から変わらず6位をキープ。実売数は5位から7位に、You Tube再生回数は3位から4位にダウンしましたが、まだまだ根強い人気を見せています。一方星野源「Family Song」は12位にランクダウン。ベスト10入りは7週に終わりました。

今週のHot100は以上。アルバムチャートはまた明日に!

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2017年10月10日 (火)

20年目のオールタイムベスト

Title:CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST 愛の世界
Musician:クレイジーケンバンド

今年、結成20周年を迎えたクレイジーケンバンドのオールタイムベスト。クレイジーケンバンドといえば、妙にベスト盤が多いミュージシャンで、非公式な集計とはいえWikipediaによると、これが11枚目のベスト盤。特に目立つのがミュージシャンや音楽評論家の選曲による編集盤で、MIX CDを含めてこの手の編集盤が6枚もリリースされています。

それは彼らがいわば「通受け」をするようなミュージシャンと言えるかもしれませんし、ファンがそれぞれ異なる「クレイジーケンバンド像」を持っており、自らの選曲によるベストアルバムを作りたくなるような、様々なタイプの名曲が多いミュージシャンだから、ということかもしれません。

実際、このベスト盤に関してのインタビュー記事の中でも、ファン投票を実施しても見事に票が分かれるという話がありました。今回のオールタイムベストにしても全55曲入りというフルボリュームのベスト盤なのですが選曲にはかなり苦労したようで、「知る人ぞ知る」的な名曲も収録されている一方、シングル曲が選曲からはずれていたりもして、ファン全員の平均値というよりも横山剣独断と偏見による選曲になっているようです。

確かに今回のベスト盤に収録されている55曲を聴いてみても、クレイジーケンバンドというバンドに様々な側面があることに気が付きます。彼らの一般的なイメージを言うと「昭和歌謡風」ということになり、確かにその側面も強いのですが、同時にディープなソウル色が強かったり、ファンクだったり、かといえばラテン、ファンク、AOR、ロック、ジャズ、中華、アジアン、和風・・・実に様々な要素を感じます。

歌詞にしても真面目なラブソングからコミカルな歌詞、大人な歌詞やらエロ歌詞やら様々。クレイジーケンバンドというバンドのどんな側面を切り取るかによって、ファンそれぞれにとってのベスト盤が生み出されそうな、そんなバラエティー富んだ作風がひとつの大きな魅力となっています。

ただその一方でメロディーラインやサウンドに関してはぬぐうことの出来ない横山剣カラーがしみついているのも大きな特徴。横山剣は他のミュージシャンへのカバーも多いのですが、誰のカバーでも一発で「横山剣の曲だな」とわかるような個性を持っています。この横山剣の持つ強烈な個性がバリエーション豊富なクレイジーケンバンドの楽曲に統一感を与えています。

ちなみに本作、いわゆるオールタイムベストということで20年前の曲もさることながら、タイトルチューンとなった「愛の世界」やDisc1の1曲目に持ってきている「スージー・ウォンの世界」は横山剣の前身バンド時代の曲だとか。横山剣自体、クレイジーケンバンド結成前にすでにベテランと言えるキャリアを持っていただけに、結成段階で既に楽曲が高い完成度を誇っていましたし、デビュー前の作品に関しても今の楽曲と比べてもほとんど違和感がありません。オールタイムベストというと時代により楽曲の雰囲気が異なるミュージシャンがよくいるのですが(もちろんそれはそれで悪いことではありませんが)、彼らの場合はデビュー当初から既にその世界観を確立させています。さらにその世界観で20年間活動していても全く色あせていないのも驚くべきこと。それだけ実力を持ったバンドということなのでしょう。

冒頭にも書いた通り、既に何枚もベスト盤をリリースしている彼らですが、区切りの20年でのオールタイムベストということもあり、これから先は入門盤としてはこのアルバムをお勧めしたい集大成的なベスト盤になっていたと思います。全55曲3枚組というフルボリュームながらもほとんどだれることなく一気に聴ききれてしまう魅力いっぱいのアルバム。クレイジーケンバンドの世界にひたれるベスト盤でした。

評価:★★★★★

クレイジーケンバンド 過去の作品
ZERO
ガール!ガール!ガール!
CRAZY KEN BAND BEST 鶴
CRAZY KEN BAND BEST 亀

MINT CONDITION
Single Collection/P-VINE YEARS
ITALIAN GARDEN
FLYING SAUCER
フリー・ソウル・クレイジー・ケン・バンド
Spark Plug
もうすっかりあれなんだよね
香港的士-Hong Kong Taxi-

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2017年10月 9日 (月)

ボーカリストとしての包容力を感じる

Title:Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2
Musician:平井堅

2005年にリリースされた「Ken Hirai 10th Anniversary Complete Single Collection '95-'05 歌バカ」以来となる平井堅のベスト盤。今回は初回版が2形態にわかれており、初回版Aは全4枚組で2005年にリリースされた「歌バカ」に収録された楽曲を含む全シングルが収録された形態。初回版Bは全3枚組+Blu-rayで、「歌バカ」以降の楽曲が収録されたCDにMVを収録したBlu-rayが付く形。通常版は初回版BにBlu-rayが付かない形となります。

「歌バカ」を持っているファンにとっては「歌バカ」とのかぶりを避けることが出来る一方、「歌バカ」を持っていない方にとっては、MV集を買うためには2種類買う(あるいは「歌バカ」をあらためて買う)必要があるのはちょっと・・・。全4枚組+Blu-rayの形もあってもいいと思うのですが・・・。

さて今回のベスト盤、もちろん彼の過去のシングル曲をあらためて通して聴くことが出来るのが大きな魅力なのですが、それ以上に大きな魅力となっているのが初回版、通常版共通に付属されるSpecial Disc「歌バカだけに」。これは平井堅が敬愛するミュージシャンたちが彼のために書き下ろした曲を歌っているアルバム。全曲新曲で事実上、ニューアルバム的な1枚となっているだけに、すべてのシングルを持っているファンにとってもうれしい企画ではないでしょうか。

そしてこのSpecial Discが非常におもしろい内容になっていました。参加しているのはtofubeats、スピッツの草野正宗、TOKOこと古内東子、クレイジーケンバンドの横山剣、槇原敬之、石野卓球、BONNIE PINK、LOVE PSYCHEDELICO、中田ヤスタカ、そしてKAN面子。ジャンルがバラバラなのがまずは平井堅らしさを感じます。

さらにその楽曲たちが、それぞれ個々のミュージシャンの個性を色濃く残しているのが大きな特徴。おそらく曲を聴けばどの曲をどのミュージシャンが提供しているのか一発でわかるような曲が多いのではないでしょうか。そしてそんなバラバラな作風の曲を平井堅がしっかりと違和感なく歌い上げています。このボーカリストとしての包容力の大きなさが平井堅の大きな魅力なのではないでしょうか。

特に素晴らしかったのは槇原敬之が書いた「一番初めての恋人」。タイトル通りの歌詞で、メロディーもいかにもなマッキー節なのですが、平井堅のボーカルにピッタリとマッチ。平井堅と槇原敬之の楽曲に共通項が多いことは以前から感じていたのですが、それを裏付ける結果となっています。

さらに平井堅のボーカリストとしての包容力を感じるのが「Don't感・Don't恋」。石野卓球提供のナンバーで、まんま電気グルーヴな曲なのですが、平井堅のボーカルが非常にマッチ。これ、電気グルーヴにゲスト参加してもいいんじゃない?というくらいの相性の良さを感じてしまいます。

逆にKANの書いた「歌」は本人のコメントでも述べているようにKANの個性よりも平井堅の良さを押し出した名バラードナンバー。平井堅の楽曲のパロディー的な感じを入れつつ、平井堅の魅力を存分に押し出しているのがKANちゃんらしいねぇ。さすがです。

このSpecial Discを聴くためだけでもおすすめできる本作なのですが、もちろんベスト盤の方も名曲揃い。歌謡曲調のナンバーからアコースティックで聴かせるバラード、安室奈美恵と組んだEDMチューン「グロテスク」も名曲。この楽曲のバリエーションの広さにも、Special Discで感じた平井堅のボーカリストとしての包容力の大きなを感じます。また、ここ数年はかつてのような大ヒット曲のはなかなか恵まれていない彼ですが、初期の作品から通して聴いても、ここ最近の曲に関しても全く勢いは劣っていません。

ただ一方、このボーカリストとしての振れ幅の大きさが、彼の知名度、大ヒット曲の多さに比べると、いまひとつ固定ファンが少なく感じてしまう要因のように感じてしまいます。かつては大ヒット曲を出しても次のシングルがいまひとつ売れなかったり、楽曲によって売上に大きな幅がありました。もっとも下手な固定ファンがついていないからこそ変な色もつかなかったからこそ、要所要所で大きなヒットを生むことが出来たのかもしれませんが・・・。

平井堅をはじめて聴くという方も、ここ最近聴いていないけど昔は聴いていた、という方も文句なしにお勧めできるベスト盤。特にSpecial Discは熱心なファンも要チェックの内容になっていました。あらためて平井堅というミュージシャンの魅力を強く感じることが出来るベスト盤でした。

評価:★★★★★

平井堅 過去の作品
FAKIN' POP
Ken's Bar II
Ken Hirai 15th Anniversary c/w Collection '95-'10 ”裏 歌バカ”
JAPANESE SINGER
Ken's Bar III
THE STILL LIFE
Ken Hirai 20th Anniversary Special!! Live Tour 2016

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2017年10月 8日 (日)

歌詞には怖いものがありますが

Title:兵隊さんの汽車 幻の戦時童謡 1934~1942

ここのサイトでも何度も紹介している戦前SP盤の復興専用レーベルぐらもくらぶ。戦前の貴重な音源を数多く紹介し、非常に興味深い企画盤を次々とリリースしてくるレーベルですが、今回も非常に興味深い企画盤をリリースしてきました。今回リリースされたのはサブタイトルに記載がある通り、戦前にリリースされた童謡をまとめた1枚。それも明治大正期の今でも歌い継がれているようなおなじみの唱歌や童謡ではなく、昭和11年から昭和17年という戦時色が強くなる最中に発売された童謡を収録しています。

今回の目玉となるのはタイトルにもなった「兵隊さんの汽車」。一度聴けばすぐわかると思うのですが、この曲、いまではだれもが知っている童謡「汽車ポッポ」の元歌。歌詞の内容は出征していく兵隊さんを見送るという非常に戦時色の強い内容になっています。それを戦後、作詞家の富原薫自ら書きなおしたらしいのですが、今では完全に忘れ去れたオリジナルの音源ということで貴重な1曲となっています。戦時色が色濃い戦前の楽曲も、メロディーが良ければ内容を改変して歌い継がれているんだな、ということを感じさせます。

この「兵隊さんの汽車」もそうなのですが、基本的に子供向けの童謡ということもあってメロディーは非常にシンプルかつフックの強い楽曲が並んでいます。歌詞にしても口ずさみやすくかつわかりやすい曲が多いため、一度聴いただけで思わず口から歌が出てしまうようなインパクトの強い楽曲が並んでいます。そのため、70年以上前の楽曲ながらも今聴いても十分楽しめるような楽曲がほとんど。実際、「兵隊さんの汽車」のように姿を変えて今に歌い継がれる曲があるように、時代がかわっても心に残るフレーズというのは変わらないんでしょうね。

ただ一方で歌詞に関しては戦時色が強くかなり物騒な内容となっています。純粋に歌詞の出来の良さという観点から言えば、例えば戦時中に自らの愛馬へと思いを語る「愛馬進軍歌」など今聴いても戦争の美化という点を抜きにすれば心に響いてくるような曲もあります。しかし、「敵の夜襲」などは楽曲に銃声が入っている上に

「ねらいはよいぞ 薙ぎ倒せ
バタバタ倒れる 敵の奴
バラバラ逃げ出す 敵の影」

なんて歌詞を平気で子供に歌わせようとする感性が、今となっては信じられません。「時代が違う」といってもたかだか70年程度昔の話。これを歌っていた子供たちのうちにはまだご存命な方も少なくありません。そう考えると、時代がちょっと変わると、人間の善悪の感性なんて簡単に変わってしまうかもしれない、と怖いものを感じてしまいます。

そんな怖さを感じつつもその内容については非常に興味深いものがあり、また純粋に音楽としても軽快なポップミュージックを楽しめ1枚となっていました。歌詞は戦時色が強く戦争賛美の内容のため、その出来がいくらよくても鵜呑みするのは危険であり、そのためこの手の軍歌CDと同様、聴き手のリテラシーを求められる「取扱い注意」な部分はあるのですが、企画自体も素晴らしい内容でしたし、とても楽しめた企画盤でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

The Moonlight Cats Radio Show Vol. 1/Shogo Hamada & The J.S.Inspirations

The Moonlight Cats Radio Show Vol. 2/Shogo Hamada & The J.S.Inspirations

浜田省吾が2枚同時にリリースしたR&Bをカバーしたミニアルバム。名義が「浜田省吾」ではなく「Shogo Hamada&The J.S.Inspirationsとなっているようにインスト曲があったり、女性ボーカルがメインの曲があったりと、浜田省吾は主役というよりもあくまでもバンドの中の「一員」的な役割に徹しており、「浜田省吾」的なものを期待して聴くとちょっと肩すかしを喰らうかもしれません。

ラジオ番組という形態を取っており、DJを浜田省吾がつとめるというスタイルもユニーク。楽曲はマーヴィン・ゲイの「What's Going On」、テンプテーションズ「My Girl」やスプリームスのメドレーなど、モータウンの楽曲がメインとなっており、バリバリのソウルというよりは軽快なシティーポップ的な楽曲。アレンジも原曲からさらに爽やかなカバーにしあげており、若干爽やかすぎるような気もしたのですが、大人な雰囲気の漂うカバーに仕上がっていました。

評価:どちらも★★★★

浜田省吾 過去の作品
the best of shogo hamada vol.3 The Last Weekend
Dream Catcher
Journey of a Songwriter~旅するソングライター

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2017年10月 7日 (土)

大味な感じも目立つベスト盤

Title:BESTMAMA
Musician:BIGMAMA

今年、現在のメンバーとなってから10周年を迎えるロックバンドBIG MAMA。10月15日には彼ら初となる武道館ワンマンも控えていますが、そんな記念すべき年に初となるオールタイムベストがリリースされました。2枚組ながらも1枚あたり20曲入りというボリューミーな内容。2006年から2010年までにリリースされた曲をDisc1に収録し、それ以降の作品および新曲をDisc2に収録する内容になっています。

今回のベスト盤はその発表時期にあわせてDisc1とDisc2に収録されているためその音楽的な変遷を知ることができる内容になっています。個人的にBIGMAMAは2008年にリリースされた「Dowsing For The Future」以降、基本的に大体のオリジナルアルバムを聴いてきました。それでも今回のベストアルバムであらめて気が付かされたことがいくつかありました。

まずBIGMAMAというバンドのイメージとしてキャッチーなメロディーを奏でるポップバンドというイメージがありました。ただ今回のアルバムを聴くと、特にDisc1の楽曲についてはバンドサウンドを前に出したロックテイストの強い作品やメロコア寄りの作品が多いことにあらためて気が付きました。たとえばデビューアルバムの記念すべき1曲目を飾る「Look at me」など完全にメロコアな楽曲ですし、「Paper-craft」などもノイジーなギターサウンドが前に押し出された楽曲になっています。Disc2に収録されている比較的最近の曲に関してはこのロック寄りな作風が後ろに下がってしまったのは残念なのですが、ベスト盤を聴くと彼らが意外と骨太さを感じるロックバンドである、ということを再認識することが出来ます。

ただ一方でここ最近のアルバムでも感じていた彼らの「難点」については初期からほとんど変わっていないことに気が付きます。それは彼らの楽曲の中でバイオリンの音が浮いてしまっているという点。このロックサウンドにバイオリンと取り入れているというのが彼らの大きな特徴だとは思うのですが、どうもこのバイオリンの音の扱いに大味なものを感じてしまいます。個人的にこのバイオリンの取り扱いが彼らの欠点だと思っているのですが、これに関しては初期からあまり解消されていません。

また大味といえば「Cinderella~計算高いシンデレラ~」「Swan Song」などクラシックを楽曲に取り入れている楽曲が何曲かありますが、これがまた非常に大味。彼らは過去にロックとクラシックの融合をめざし、楽曲にクラシックを取り入れた企画アルバムをリリースしており、これらの楽曲はそのアルバムからの収録なのですが、この企画がどうも上手くいっているような気がしません。クラシックのフレーズは非常に強度が強いだけに単純に楽曲に織り込むと、クラシックのフレーズだけ浮いてしまい違和感だけが残る結果となるのですが、彼らの楽曲を聴くと完全にこの「罠」に陥っているように思います。

メロディーは悪くないし、インパクトもあるバンドなのですが、バイオリンやクラシックの取り扱いなど全体的に雑さも目立つベスト盤だったと思います。ただ一方でアルバム全体としては思っていた以上にロックテイストも強く、ダイナミックなバンドサウンドも楽しめたベスト盤。個人的にはもっとロック寄りに進んでほしい印象を受けたのですが・・・。いろいろな意味で惜しいバンドに感じてしまったベスト盤でした。

評価:★★★★

BIGMAMA 過去の作品
Dowsing For The Future
君がまたブラウスのボタンを留めるまで
君想う、故に我在り
Synchronicity(HY+BIGMAMA)
Fabula Fibula


ほかに聴いたアルバム

THUNDERBOLT~帰ってきたサンダーボルト~/RIZE

途中、シングルやベスト盤、配信限定のミニアルバムのリリースはあったものの、オリジナルアルバムとしては7年ぶりとなるRIZEのニューアルバム。久々のアルバムでまさに「帰ってきた」というサブタイトルがピッタリ来るアルバムと言えるでしょう。そして久しぶりのアルバムということもあり、楽曲の内容は愚直なまでもいままでのRIZEの路線を引き継ぐミクスチャーロック路線。目新しさはほとんどありませんが、安心して聴ける内容になっています。ただちょっと気になるのは全17曲という長さ。久々のリリースとあってその間のつくりためた曲を放出したのでしょうが、もうちょっと絞ってほしかったかも。最後の方はちょっとだれてしまいました。

評価:★★★★

RIZE 過去の作品
K.O.
EXPERIENCE
FET BEST

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2017年10月 6日 (金)

「伝説のバンド」のベスト盤

Title:人間山脈の旅~ローザ・ルクセンブルグ ベスト20
Musician:ローザ・ルクセンブルグ

デビュー曲「在中国的少年」が、矢野顕子と細野晴臣に大絶賛を受けて一躍注目を浴び、80年代に活躍したロックバンド、ローザ・ルクセンブルク。そのシングル曲をひっさげて1986年にデビューしたもののメンバー間の音楽的相違によりわずか1年、アルバムをわずか2枚のみひっさげて解散してしまいました。

そんな非常に短い活動期間ながらもこのバンドの知名度を押し上げているのが、メンバーのうち2人がその後、BO GUMBOSを結成し、80年代後半から90年代にかけて活躍。大きな話題となり、いまなお多くのファン、ミュージシャンたちの支持を得ているから。要するに、BO GUMBOSのどんとと永井利充の前身バンドがこのバンド。デビューから解散までわずか1年弱ということもあり、いまや一種の「伝説のバンド」になっています。

今回リリースされたのは解散から30年を経てリリースされたベストアルバム。メンバーであった玉城宏志自らの選曲によるアルバムで、タイトル通り、彼らの代表曲20曲が収録されています。個人的にBO GUMBOSは音源を何枚か聴いたことあるのですが、ローザ・ルクセンブルグは全く音源も聴いたことなく、このアルバムではじめて彼らの楽曲に触れました。

そもそもローザ・ルクセンブルグというバンドが短命に終わった要因、Wikipediaによるとルーツ・ミュージックに傾倒するどんと、永井とロック志向の玉城の間に音楽性の相違を理由とする軋轢が生まれたというのが大きな理由だとか。ただ今回のベスト盤を聴くとその音楽的な相違という解散理由が痛いほどわかりました。

それは楽曲的にあきらかにルーツ・ミュージック志向の楽曲とパンク、ロック志向のアルバムが入り混じっていたから。たとえば「在中国的少年」はお祭り囃子風であきらかにルーツ・ミュージック志向。「あらはちょちんちょちん」なども軽快なピアノがニューオリンズ風であきらかに後のBO GUMBOSの楽曲のルーツを感じさせます。

一方で「おいなり少年ゴン」はパンキッシュなギターサウンドが前に出ていてパンクロック志向の強い作品ですし、「虹のまりちゃん」などもブルースロック志向が強く出たロック寄りの作品になっていました。

ただその結果として楽曲としてはむしろBO GUMBOSの楽曲以上にごった煮的な要素が強くバラエティーに富んだ作風になっていたと思います。前述の通り、ルーツ・ミュージック志向の曲とロック志向の曲が入り混じっているのですが、両者は必ずしも曲毎にわけられているわけではなく、ロック志向とルーツ・ミュージック志向がひとつの曲の中に入り混じっています。結果としては楽曲として雑多な感じは否めないものの、ぎゃくにごちゃごちゃな感じがBO GUMBOS時代の楽曲よりおもしろくすら感じる部分もありました。

歌詞にもユーモラスで個性的な歌詞が多く、特に耳を惹くのが「おしり」というナンバー。タイトル通りのエロ歌詞なのですが、この曲、同性愛者の認められない愛に関する悲哀を描いた作品。ある意味マイノリティーからの視点を感じさせる曲で、いまでもテーマ性を含めて耳を惹くナンバーになっていました。

わずかデビューから1年程度の活動ながらも80年代の日本音楽史に燦然たる足跡を残した伝説のバンドのベスト盤なだけに、今聴いても全く古さを感じない魅力あふれるアルバムでした。BO GUMBOSが好きな方はもちろん、そうでなくても日本のロック史の中で要チェックな楽曲ばかりだと思います。これを機に、是非。

評価:★★★★★


そのほかに聴いたアルバム

VESTIGE-40th HISTORY ALBUM/CASIOPEA

日本を代表するフュージョンバンドの結成40年を記念してリリースされたオールタイムベストアルバム。フュージョンというジャンルは正直言って「そこらへんのBGMとして流れている音楽」的なイメージが強く、いままで積極的に聴いてこなかったのですが、私でも名前を知っている日本を代表するバンドのオールタイムベストということで、聴かず嫌いはよくない、ということもありはじめて聴いてみました。

で、その感想をしては率直に言ってしまうと良くも悪くも耳触りのよいメロディアスなインストという印象はぬぐえず、積極的にはまることはないな、というのが感想。ただ一方で、無味無臭のBGMという先入観があったのですが聴いてみると思った以上にジャジーに凝ったサウンドを楽しめ、決してBGM的に聴き流すだけの音楽ではないということにあらためて気が付かされました。「FIGHTMAN」みたいにどこかで聴いたことあるような曲も要所要所にあり、そういう意味でも思ったより楽しめたアルバム。フュージョンというジャンルを聴いたことない私にとってはちょうどよいベスト盤でした。

評価:★★★★

愛の休日/柴田聡子

注目のシンガーソングライター柴田聡子の1年8か月ぶりとなるニューアルバム。前作に引き続き、山本精一がプロデュースを手掛けているほか、くるりの岸田繁もプロデュースに参加しています。全編アコースティックのシンプルなサウンドでさわやかなポップソングを聴かせてくれます。言うまでもなく「良質なポップス」という印象を強く受ける楽曲なのですが、その一方でもうちょっとひっかかりがほしい感じも受けてしまいました。

評価:★★★★

柴田聡子 過去の作品
柴田聡子

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2017年10月 5日 (木)

韓流だらけ

今週のアルバムチャート

http://www.oricon.co.jp/rank/ja/

今週のアルバムチャートは韓流男性アイドルが目立つチャートとなりました。

今週1位を獲得したのはBTS(防弾少年団)「Love Yourself 承‘Her’:5th Mini Album」。先週の2位からワンランクアップしての1位獲得。売上は5万2千枚で先週の1万6千枚からアップ。国内盤のリリースがなく輸入盤のみの販売ですが、異例の1位獲得となっています。

今週は他にもK-POPの男性アイドル勢として3位にVIXX「ラララ~愛をありがとう~」、4位にWanna One「1X1=1(TO BE ONE)」がそれぞれランクインしています。VIXXは6人組となる男性アイドルグループ。初動売上1万6千枚で初のベスト3ヒット。直近作はミニアルバム「桃源境」で、初動売上1千枚(37位)から大幅アップ。ただしフルアルバムとしては前作「Depend On Me」の1万7千枚(4位)よりは若干のダウンとなっています。

Wanna Oneはこれがデビュー作となる11人組男性アイドルグループ。韓国のオーディション番組「PRODUCE 101」から誕生したグループだそうです。先週のベスト50圏外からランクアップし、売上1万3千枚でベスト10ヒットとなりました。

2位初登場は女性シンガーソングライターAriana Grandeの日本独自企画のベスト盤「THE BEST」がランクイン。今年5月、イギリスマンチェスターでのライブ公演の際に自爆テロが起こり多くの犠牲者を出すという痛ましい事故がありました。その後、今年8月には日本公演もありましたが厳重な警備の中でしたが大盛況で盛り上がったようです。このベスト盤も初動売上2万3千枚で見事ベスト3入り。直近のオリジナルアルバム「Dangerous Woman」の2万枚(2位)を上回る結果となりました。

続いて4位以下の初登場盤ですが、まず5位に「劇場版KING OF PRISM -PRIDE the HERO-Song&Soundtrack」がランクイン。タイトル通り、アニメ映画「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」のサントラ盤。もともとはゲーム「プリティーリズム」から派生したアニメの映画版だそうです。初動売上1万1千枚。「KING OF PRISM」関連としては前作はキャラソン集「KING OF PRISM Music Ready Sparking!」(2位)で初動売上は横バイ。また、同アニメ映画の前作のサントラ「劇場版KING OF PRISM by PrettyRhythm Song&Soundtrack」の1万9千枚(4位)よりダウンしています。

7位初登場はロックバンドKANA-BOON「NAMiDA」。初動売上7千枚は前作「Origin」の2万1千枚(6位)から大幅ダウンという結果になりました。デビュー直後はかなり話題となったバンドですが、その後、いまひとつ伸び悩んでいるなぁという印象を受けていたのですが、今回のアルバムはかなり厳しい結果となっています。

8位には久保田利伸のライブアルバム「3周まわって素でLive!~THE HOUSE PARTY! ~」がランクイン。今年6月からスタートしているライブハウスツアーからベストアクトを収録した作品。30年以上のキャリアを誇る彼ですが、意外なことに本作が初となるライブアルバムだそうです。初動売上6千枚。直近作はコラボ作を集めた企画盤「THE BADDEST ~Collaboration~」で、こちらの初動1万2千枚(5位)からダウンしています。

続く9位にナユタン星人xSou「ナユタン星への快爽列車」が入ってきています。初音ミクをつかった楽曲を動画サイトにアップしているいわゆるボカロP、ナユタン星人と、動画サイトの「歌ってみた」コーナーで人気の「歌い手」、Souのコラボアルバム。初動売上6千枚。ナユタン星人はこれが初のランクイン。Souは単独名義の前作「水素レグルス」の3千枚(27位)から大幅アップ。

最後10位にはSKE48(teamE)「SKEフェスティバル」がランクイン。「SKEフェスティバル」はSKE48(teamE)の劇場公演で、そこで使用された楽曲を収録したアルバム。初動売上5千枚。SKE48(teamE)の前作「逆上がり」の3千枚(22位)よりアップ。

今週のアルバムチャートは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2017年10月 4日 (水)

話題のミュージカルからのシングル作が1位

今週のHot 100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週は話題のミュージカルからのシングル作が1位獲得です。

今週1位は刀剣男士 formation of 三百年「勝利の凱歌」が初登場で獲得。ゲーム「刀剣乱舞」を基にしたミュージカル「刀剣乱舞 ~三百年の子守唄~」から登場したユニットによるシングル作。初登場で1位獲得しました。CD販売・ダウンロード・ストリーミング数(以下「実売数」)及びPCによるCD読取数で1位、Twitterつぶやき数で5位を獲得した一方、ラジオオンエア数では圏外という結果に。なおオリコンでも初動売上9万枚で1位獲得となっています。

2位は先週1位のDAOKO×米津玄師「打上花火」がワンランクダウンながらもまだ2位をキープ。You Tube再生回数では1位に返り咲いており、まだまだ強さを見せつける結果となっています。

3位はEXILEの弟分ユニットEXILE THE SECOND「Route 66」が獲得。ガリバーCMソング。アメリカの田舎を舞台にしたようなMVがいかにも地方のヤンキー志向の彼らの雰囲気とピッタリ。実売数2位、PCによるCD読取数8位を獲得した一方、ラジオオンエア数23位、Twitterつぶやき数24位が足を引っ張った形に。オリコンでは初動3万6千枚で3位初登場。前作「Summer Lover」(2位)より横バイ。

続いては4位以下の初登場曲です。4位はロックバンドTHE ORAL CIGARETTES「BLACK MEMORY」がランクイン。哀愁感あふれるサビのメロがいかにも歌謡曲チックな良くも悪くもJ-POPらしいロックチューン。実売数とラジオオンエア数が4位、PCによるCD読取数5位、Twitterつぶやき数9位と各種チャートバランス良く上位に食い込んでいます。オリコンでは初動1万7千枚で3位初登場。前作「トナリアウ」の1万4千枚(6位)から若干のアップ。ベスト3入りはシングルでは初となります。

9位には家入レオ×大原櫻子×藤原さくら「恋のはじまり」が初登場でランクイン。3月12日にパシフィコ横浜で開催された「ビクターロック祭り 番外編 IchigoIchie Join 6 家入レオ×大原櫻子×藤原さくら」披露された楽曲が配信限定でリリースされたもの。実売数7位、Twitterつぶやき数23位のほか、ラジオオンエア数3位と高い順位を記録しています。

今週の初登場曲は以上。一方ロングヒット曲ですが、Ed Sheeran「Shape Of You」が先週7位から6位に再びランクアップ。実売数5位は先週から変わらず。You Tube再生回数3位は先週の4位からアップしており、まだまだ根強い人気が続いています。
星野源「Family Song」は4位から7位にランクダウン。PCによるCD読取数は2位ですが、その他は実売数10位、ラジオオンエア数18位、Twitterつぶやき数28位、You Tube再生回数27位といまひとつ奮わず、今後の状況はちょっと厳しいかもしれません。

今週のHot100は以上。アルバムチャートはまた明日に!

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2017年10月 3日 (火)

「GLORIA」のイメージが強いが。

Title:SINGLE COLLECTION
Musician:ZIGGY

今年、メジャーデビュー30周年を迎えるロックバンドZIGGY。主に80年代から90年代にかけて一世を風靡し、特にアラフォー世代にとっては1989年にドラマ主題歌として大ヒットした「GLORIA」のイメージが強いのではないでしょうか。その後も90年代に深夜番組の時間帯に大量に放映され、タイアップ曲が数多くのヒット曲を生んだ「カメリアダイアモンド」のCMソング「Jealousy~ジェラシー」や、今でも数多くのヒット曲を生んでいる日テレ系アニメ「名探偵コナン」の初代エンディングテーマ「STEP BY STEP」など、数多くのヒット曲を世に送り出しました。

その後はメンバーの入れ替え等もありつつ、継続的な活動をつづけたものの2008年に活動を休止。ただし2014年に活動を再開し、このたびメンバーがボーカルで作詞作曲を主に手掛ける森重樹一一人になってしまったものの本格的に活動を再開。それに伴いメジャーデビュー30周年を記念してリリースされたベスト盤が本作。タイトル通り、彼らのシングルが網羅されたシングルコレクションとなっています。

実は私、ZIGGYの音源をまとめて聴くのは今回がはじめて。もちろん上に書いたヒット曲については知っていたものの、基本的には「GLORIA」のバンドというイメージを強く持っていました。そのため「GLORIA」が展開なのですが、典型的なJ-POPのビートロックバンドというイメージが強く、今回、シングルベストのリリースということでせっかくなので聴いてみよう、程度の感覚だったのですが、正直言って内容的には典型的な90年代J-POPが並んでいるだろうな、という予測の元、「ロックバンド」としての期待はほとんどありませんでした。

そんなイメージで聴き始めた今回のベスト盤だったのですが、聴き始めてビックリしました。めちゃくちゃカッコいい!当初の予想通りのJ-POP的な曲ももちろん少なくないのですが、基本的な路線としてはハードロック、ブルースロックの影響をかなり強く受けた、ルーツ志向のバンドサウンドがきちんとなっている本格的なロックナンバーがメイン。「典型的な90年代ビートロックバンド」という彼らに勝手に持っていたイメージは完全に覆されました。

例えば「GLORIA」の一つ前のシングル「ONE NIGHT STAND」はギターリフがかなり前面に出ておりメロディーラインはかなりポップなのですが、後ろに鳴っているギターはかなり本格志向。「SHOUT IT OUT LOUD」もかなりハードロック志向の強いナンバーですし、「BOOGIE WOOGIE TRAIN」のようなタイトル通り、ブギウギを取り入れたロックンロール志向の強いナンバーもあります。特に初期のナンバーについてはThe Rolling Stonesからの影響を強く感じ、「MIDNIGHT TRIPPER」などはパーカッションを取り入れ方にあきらかに「悪魔を憐れむ歌」からの影響を強く感じさせます。

「GLORIA」のヒット後、あきらかにヒットを求められたDisc2の頃の作品に関しては、確かに私が彼らに関してイメージしていた「J-POP的なビートロック」な楽曲も目立つのですが、全体の流れの中に、「GLORIA」や「STEP BY STEP」のようなヒット曲はむしろ彼らの楽曲としては異質なものを感じます。この頃の楽曲でも「月が昇る頃には」のようなブルースロック色の強い曲もあり、ルーツ志向を強く感じます。

特にDisc3あたりから、SNAKE HIP SHAKES名義で活動していた頃の楽曲から再びブルースロック色が強くなってきます。おそらく初期のギタリストでブルースロック志向の強かった松尾宗仁の復帰が大きな影響を与えているのでしょう。この頃のZIGGYはセールス的にはあまり奮わなかったようですが、楽曲的にはむしろ彼らの活動を通じてもっとも充実していたようにも感じます。

ただ一方、そんな本格志向、ルーツ志向のバンドサウンドと反して、森重樹一の書くメロディーラインは意外とベタでポップステイストが強いものとなっており、ある意味「J-POP的」。だからこそ「GLORIA」のようなヒット曲をリリースできたのでしょう。このルーツ志向のバンドサウンドとベタでポップなメロディーの対比というのがこれがまたなかなかおもしろく、本格志向のハードロックの楽曲ながらもロックリスナーではなくても非常に聴きやすい楽曲に仕上がっていました。

80年代を代表するビートロックバンドといえばBOOWYが有名で、彼らはロックに日本人がなじみやすいメロディーラインを取り入れて、ある意味日本流のロックを確立したバンドと言えるのですが、彼らもまた、本場アメリカのロックと日本的なメロを融合させて、日本流ロックを確立させたバンドといえるのかもしれません。よりインパクトあるメロディーが強く、本格志向が後ろに下がったBOOWYと比べて、ブルースロック、ハードロック志向が強かった彼らは残念ながらBOOWYほど日本のロックシーンへ与えたインパクトは強くないのかもしれませんが、このベスト盤を聴くと「日本におけるロック」を感じさせてくれる内容になっていました。

そんな訳でいままでのZIGGYに抱いていたイメージから一転、実はかなりカッコいいロックバンドだったんだ、ということを再認識させられたベスト盤。いや、はっきりいって完全に見直しました。今年になり本格的に活動を再開し、オリジナルアルバムのリリースも予定されているようですが、こちらもチェックしてみたくなりました。「GLORIA」のイメージにとらわれず、ハードロック、ブルースロック好きなら要チェックのベスト盤です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

新しい森/tacica

2組となったtacicaですが、本作はサポートメンバー2名を迎え、あえて「4人組」にこだわったニューアルバム。ただ基本的にはいつもの彼らと同様、良くも悪くも「無難な」ギターロック。それなりにメロディアスな楽曲は耳を惹くもののインパクトは薄く、これといった特徴が薄い印象が。個人的には好みの音のタイプのバンドなのでアルバムはチェックしているのですが・・・。

評価:★★★

tacica 過去の作品
jacaranda
jibun
HOMELAND 11 blues
LOCUS
HEAD ROOMS

Red Blue Green/BAZRA

個人的にはバンド名に懐かしさも感じる彼ら。2002年にインディーズデビュー、さらには2005年にメジャーデビューも果たし、当時は期待のバンドとして注目を集めるもののボーカル井上鉄平の持病の悪化のため不定期な活動となっていた彼ら。ただ結成20年を迎えた今年、バンドとしては久々の新譜をリリースしました。

内容的には新曲6曲、セルフカバー6曲という内容。しゃがれ声のボーカルで力強いパンキッシュな内容は昔とほとんど変わりはありません。そういう意味では非常に懐かしさを感じます。ただ、久しぶりに聴くと、同じような方向性のバンド、具体的にはサンボマスターやら忘れらんねえよあたりと比べてしまうと、今一歩、「しゃがれ声のボーカルで力強い演奏を聴かせるパンクバンド」というフォーマット以上のプラスアルファに欠けた感があるのが残念。もちろんインパクトは十分あるし、いいバンドだとは思うのですが・・・。

評価:★★★★

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2017年10月 2日 (月)

カントリー色が強くなった新作

Title:Hearts That Strain
Musician:JAKE BUGG

セルフタイトルのデビューアルバムが大きな話題となってから早5年。そして早くも4作目となるイギリスのシンガーソングライター、JAKE BUGGのニューアルバムがリリースされました。本作はアメリカのナッシュビルでレコーディング。ジョニー・キャッシュのスタジオエンジニアでもあった、デヴィッド・ファーガソンをプロデューサーとして迎えた作品となっています。

まずちょっとビックリするのは楽曲の雰囲気が今回のアルバムでガラリと変わっているということ。フォーク系の楽曲という基本的なスタンスは変わらないものの荒々しいギターの音色は消えて、非常に爽やかなギターが目立つ作品が並んでいます。まず1曲目「How Soon The Dawn」はThe Black KeysのDan Auerbachがギターでコラボしているものの、サウンドは爽やか。心地よいパーカッションやピアノ、さらにはファルセットボイスまで飛び出すフォーキーながらも清涼感あふれるポップスに仕上がっています。

その後も「Southern Rain」「In The Event Of My Demise」「This Time」もアコースティックギターがメインに爽やかでフォーキーな楽曲を聴かせてくれます。デビュー当初のような攻撃性あるサウンドはなく、やはり今回ナッシュビルでのレコーディングで、ジョニー・キャッシュのエンジニアがプロデュースという影響でしょうか、カントリーからの影響も強く感じます。

また「Waiting」では著名なカントリー歌手であるBilly Ray Cyrusの娘、Noah Cyrusとデゥオをしているのですが、スモーキーな楽曲に仕上がっており、NoahのボーカルはどこかNorah Jonesっぽさすら感じます。

ただ後半、「Burn Alone」「Indigo Blue」などはグルーヴ感あるギターサウンドも聴かせてくれ、デビュー当初の彼の姿を彷彿とさせるような部分も。最後を飾る「Every Colour In The World」も切ないメロを聴かせるのフォーキーなナンバーなのですが、哀愁感あるサウンドはいつものJAKE BUGGという雰囲気を感じさせます。

さてそんないままでのJAKE BUGGのイメージとは異なる今回のアルバム。正直言うと最初はかなり違和感を覚え、受け入れがたいものがありました。ただ、アルバムを聴き進め、さらに何度か聴くうちに違和感が徐々に薄れ、JAKE BUGGのアルバムとしてむしろ傑作ではないか、という印象が徐々に強くなっていきました。

特に今回のアルバムではサウンドがより爽やかになり結果メロディーラインが前に出てきたことによりJAKE BUGGの書くメロディーの良さ、美しさがよりはっきりしたアルバムになったように感じます。そのためアルバムの雰囲気としてはいままでの彼の作品とはちょっと異なる雰囲気を持ちつつも、JAKE BUGGの良さはしっかりとあらわれた傑作アルバムになっていたように思います。

前作「On My One」は幅広い作風に挑戦した結果、アルバム全体としてはむしろチグハグさを感じさせる作品になってしまいましたが今回の作品はアルバムとしての統一感もあり、そういう意味でもよく出来たアルバムになっていたと思います。アルバムを試聴しただけだと抵抗感がある方も多いかと思いますが・・・間違いなくJAKE BUGGの魅力がしっかりとつまった傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

JAKE BUGG 過去の作品
JAKE BUGG
SHANGRI LA
On My One


ほかに聴いたアルバム

POWER OF PEACE/THE ISLEY BROTHERS & SANTANA

いずれも50年を超えるキャリアを誇り、方やロック、方やファンク界の大御所としてその名声をほしいままにしているカルロス・サンタナとThe Isley Brothers。その両者がまさかのコラボを果たしリリースされたアルバムが本作。基本的にはスタンダードナンバーのカバーがメインなのですが、サンタナ主導のロック色の強いナンバーと、The Isley Brothers主導のソウル、ファンク色の強いナンバーが並んでいます。ただサンタナが主導しているロック色の強いナンバーにもファンク的な要素が強く感じられたり、逆にソウル色強いナンバーにもダイナミックなサンタナのギターが登場してきたりと、本当の意味でロックとソウル/ファンクを融合させたカバーになっています。この相性の良さはちょっと意外な感じ。個人的にはもうちょっとソウル色が強い方が好みだったのですが、メンバーいずれも60歳を超えるこのコラボ。ただ若造にはまだまだ負けないというパワフルさを感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★★

Santana 過去の作品
Guitar Heaven:The Greatest Guitar Classics Of All Time

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2017年10月 1日 (日)

浅草オペラ第2弾

Title:あゝ浅草オペラ 女軍出征100年と魅惑の歌劇

以前、このサイトで戦前に一世を風靡した和製オペレッタのムーブメント「浅草オペラ」に関する書籍と、浅草オペラの楽曲を収録したアルバムを紹介しました(戦前の「インチキ」歌劇文化)。今回紹介するのはその第2弾ともいえるアルバム。前作同様、浅草オペラ研究の第一人者小針侑起氏が監修・選曲を行い、ここでも何度か取り上げた戦前のSP盤復刻を専門とするレーベル「ぐらもくらぶ」からリリースされたアルバムです。

まず今回のアルバムで「核」となるのが「喜歌劇 女軍出征」。上記サイトで紹介した書籍「あゝ浅草オペラ」によると「浅草オペラ史を通して最も多く上演された演目」だそうで、初演が大正六年(1917年)の1月。そういう訳でサブタイトルの通り、今年はこの「女軍出征」からちょうど100年が経過した年となる訳です。

今回は冒頭で「女軍出征」が東京レコードとオリエントレコードという2つの異なるレコード会社から発売されたレコードが収録されています。あらすじはどちらもほぼ同じで、時代はちょうど第一次世界大戦の真っ最中。戦争で男性が少なくなってしまったので女性が兵隊として出征してきたというネタ。劇の内容はいまから聴くと筋書も演技も拙く感じてしまうのですが、各国の女性兵士としてズラリと女優が登場したこの題目は、当時の男性陣の目をくぎづけにしたのでしょう。前述の書籍によると、連日大満員だったようです。

ただ第一次世界大戦をネタにしているあたりも時代性を感じるのですが、オチとして「女性は女性の本分に戻るべき」という男尊女卑的な内容は今聴くと厳しいものがあります。一方で最後は日本賛美で締めくくられており、こちらに関してはここ最近の日本国内の情勢と重なるような部分もあり、少々うすら寒いものを感じてしまいました。いずれにしろ、いまから100年前の世相を強く感じさせる歌劇となっていました。

一方、その後の収録曲に関しては独唱による歌がメイン。以前紹介した「和製オペレッタの黎明」は歌劇がメインだったのですが、こちらは100年前の和製オペラ歌手の貴重な歌声を聴くことが出来ます。

まだ洋楽が日本に入ってきて間もない黎明期の歌唱だけあって、声量もいまひとつ。歌い方に民謡らしいこぶしが入ってくるような曲もあったりして、こちらも不安定さを感じてしまいます。

もっとも、「オソレ・ミヨ」「お蝶夫人」を力強く歌い上げる大津賀八郎や、「歌劇リゴレットの一節(主義の歌)」などで伸びやかなソプラノを聴かせる原信子など実力を感じさせる歌手も浅草オペラの底力も感じさせます。ちなみに原信子は日本を代表するソプラノ歌手として活躍。日本人初のミラノスカラ座専属歌手になるなどの実力派。確かにこのアルバムを聴くと、その実力は頭ひとつ出ているように感じます。

今回のアルバムも前作「和製オペレッタの黎明」と同様、浅草オペラの魅力を感じる選曲になっていました。ただ今回のアルバムは歌の独唱、それも洋楽のカバーが多いため、当時の風俗を知るという観点からすると若干物足りなく感じました。また今回のアルバムで気になったのはとにかく音の悪さ。全体的にノイズがかなり強くかかっており、それだけ貴重な音源を収録したということなのでしょうが、正直なところ聴いていて少々辛く感じてしまう部分もありました。

企画のすばらしさ、選曲の良さなどからすると間違いなく5つの仕事ぶりですし、「浅草オペラ」に興味がある方なら間違いなく聴くべきアルバムだと思います。ただそうではなく広い層へのお勧めという意味では以下のような評価に・・・。どちらかというと前作「和製オペレッタの黎明」の方が最初の1枚としてお勧めといった感じ。そういう意味でも「通」向けの1枚だったかもしれません。

評価:★★★


ほかに聴いたアルバム

SUMMERDELICS/GLAY

いきなり「太鼓の達人」的なナレーションが入って少々ビックリしてしまうGLAYの今回のアルバム。そんなコミカルな「シン・ゾンビ」(「太鼓の達人」とのコラボ作)からはじまる本作は全体的にいつものGLAYらしさをベースとしつつ、ポップで少々コミカルさも感じるアルバムになっています。またビートロックの作品はGLAYらしさを感じつつ、ギターサウンドは若干オルタナ系寄りになっているような印象も。GLAYっぽさは維持しつつ、今時のギターロックへのアップデートへの試みも感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★

GLAY 過去の作品
GLAY
JUSTICE
GUILTY

MUSIC LIFE

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