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2017年9月19日 (火)

THE COYOTE BAND名義での4作目は・・・

Title:MANIJU
Musician:佐野元春&THE COYOTE BAND

佐野元春&THE COYOTE BAND名義となる4作目のアルバム。THE COYOTE BANDとの名義となったアルバムはいずれも若々しさにあふれた勢いのあるギターロックとなっているのが大きな特徴でした。しかし今回のアルバムに関してはむしろ若々しい勢いというよりは大人の雰囲気を感じるアルバムに仕上がっていました。

フィリーな雰囲気の「悟りの涙」やバイオリンを入れてアコースティックに聴かせる「蒼い鳥」、ちょっとエキゾチックな音を入れた「天空バイク」など、「新しい雨」「禅ビート」など、前作同様ギターロックの路線が根底にありつつも全体的にはソウルやブラックミュージック的な要素を多く含んだ作風となっており、いままでのTHE COYOTE BANDの作品と比べると落ち着いたという印象を受けるアルバムになっていました。

もっとも「落ち着いた」といっても悪い意味でベテランらしい保守的な作品に仕上がった、といった感じではありません。メロディーラインはポップで勢いがあるし、THE COYOTE BANDの演奏は前作までの作品同様、若々しさも感じます。

そして本作もメッセージ性が強く、世の中を鋭く切り裂くような歌詞は健在。例えば「現実は見た目とは違う」では

「本物の聖者は
名前がない
見せかけの聖者は
名前しかない

本物の聖者は
真実を問う
見せかけの聖者は
裏切りに沿う」

(「現実は見た目とは違う」より 作詞 Motoharu Sano)

と昨今世の中を席巻しているポピュリズムを皮肉るような歌詞が特徴的。さらに「朽ちたスズラン」では

「あのひとの嘘はもつれた災いを招くだろう
偽りの涙に愛の海は氷で埋まるだろう
気取った奢りが果てしない争いを誘うだろう
あのひとの金と時間はやがて石になるだろう」

(「朽ちたスズラン」より 作詞 Motoharu Sano)

とデマにまみれた昨今の社会情勢を鋭く批判しています。

さらに今回のアルバムでユニークな試みだったのが1曲目「白夜飛行」と10曲目「夜間飛行」同じ歌詞の曲を全く別のアレンジで収録しています。「白夜飛行」はテンポよいギターロック、「夜間飛行」はジャズ風に仕上げており、両者、全く異なった感覚の楽曲になっています。ある意味アルバムの中で交錯する2つの音楽的な世界観を切り取った、本作を象徴するようなアルバムになっていました。

ここ最近のアルバムとはちょっと異なった雰囲気のアルバムを作り上げながらも今回も傑作に仕上げてきた作品に佐野元春のミュージシャンとしてのキャパの大きさとその実力をあらためて感じた傑作アルバム。彼のすごさをさらに実感させられました。

評価:★★★★★

佐野元春 過去の作品
ベリー・ベスト・オブ・佐野元春 ソウルボーイへの伝言
月と専制君主
ZOOEY
BLOOD MOON


ほかに聴いたアルバム

Tiny Screams/鬼束ちひろ

昨年行われた彼女のライブの模様を収録した初となるライブアルバム。ピアノ、チェロ、パーカッションのみというシンプルなアレンジに、基本的に彼女らしい歌い上げるバラードナンバーが並んだ選曲になっています。そのため似たような曲が多いのですが・・・そのことが全く気にならない内容。楽曲としてクオリティーの高さもさることながら、その力強く感情たっぷりで胸をうつ彼女のボーカルでシンプルなアレンジをバックとして歌い上げられているからこそ同じような曲が並んでいても全く飽きることがなく楽しめるアルバムになっているのでしょう。ボーカリスト鬼束ちひろの実力がよりクリアにあらわれたアルバムでした。

評価:★★★★★

鬼束ちひろ 過去の作品
LAS VEGAS
DOROTHY
ONE OF PILLARS~BEST OF CHIHIRO ONITSUKA 2000-2010
剣と楓
FAMOUS MICROPHONE
GOOD BYE TRAIN~ALL TIME BEST 2000-2013
シンドローム

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