ボーカリストとしての実力を発揮
Title:ベター・ハーフ
Musician:中村中
中村中のニューアルバムは5曲入りとなるミニアルバム。本作は鴻上尚史の作・演出による同タイトルの舞台に出演している彼女が劇中で歌う歌をまとめたサントラ的なミニアルバム。彼女自身の曲「愛されたい」以外についてはすべてカバーとなっています。
このサイトでも何度か彼女については紹介してきましたが、彼女は個人的にもっと売れてもいいと思っているミュージシャン。ある種の情念が感じられる力強い歌声が心に響いてくるミュージシャンなのですが、今回のカバーに関してはまさにそんな彼女のボーカリストとしての実力が最大限発揮された作品になっていました。
まずは選曲がやはりそんな彼女のボーカルにピッタリという選曲。1曲目は森田童子の「たとえばぼくが死んだら」。高音を生かした歌い方なのですが、比較的シンプルな歌い方の中にも力強さを感じるカバーに。そして2曲目はかの中島みゆき「誕生」のカバー。中村中のスタイルは中島みゆきに通じる部分があるだけに相性は抜群。中島みゆきに比べると抑揚は少な目ながらも、こちらは逆に低音を力強く聴かせるカバーで、情熱的なボーカルが胸につきささります。
そして個人的にちょっと懐かしいのが橘いずみ「愛してる」のカバー。1993年に「失格」がヒットを記録し一躍注目を集めた女性シンガーソングライターのアルバム収録曲という知る人ぞ知るような楽曲なのですが、リアルタイムで橘いずみにはまっていた時期があった私にとっては懐かしさを感じます。これでもかというほど感情を込めて歌い上げる原曲に対してカバーの歌い方はシンプル。ただサビではそれまで抑えていたものを解放するかのように感情をぶつけており、このギャップが大きなインパクトとなっています。
最後はカバーとしては定番曲ともいえる「サン・トワ・マミー」。こちらも伸びやかに聴かせるカバー。感情的には抑え気味のボーカルなのですが、その抑えた感情の中からにじみ出てくるような悲しさが胸に響いてきます。
全体的に彼女のカバーのスタイルは感情をぶつけるというよりは、感情は最小限に抑えた感じのスタイル。もともと彼女のボーカルは地声が太く、低音を聴かせるスタイルのためあまり感情を込めてしまうと感情過多になってしまう可能性が大きいためこのようなスタイルになっているように感じます。ただこの抑え気味のボーカルの中から彼女の情念がにじみだしており、これが非常に心に響いてくるボーカルになっています。
またそんな彼女のボーカルを支えるアレンジも、ピアノで聴かせるスタイルながらも途中にダイナミックなバンドサウンドが入ってきています。この静かなピアノとダイナミックなバンドのバランスも絶妙。ほどよく彼女のボーカルを盛り上げるアレンジとなっており、感情過多にもならず彼女のボーカルの力強さを押し上げるサウンドに仕上がっていました。
わずか5曲入りのミニアルバムとはいえ彼女のボーカリストとしての魅力を最大限に発揮させていた傑作のカバーアルバムだったと思います。本作も魅力的でしたが、このカバーが使われた舞台の方も見てみたかったかも、とも思ってしまいました。上にも書きましたが、これほどの実力を持ったボーカリストなだけにもっと売れてもいいと思うんですけどね。
評価:★★★★★
中村中 過去の作品
私を抱いて下さい
あしたは晴れますように
少年少女
若気の至り
二番煎じ
聞こえる
世界のみかた
去年も、今年も、来年も、
ほかに聴いたアルバム
MISIA SOUL JAZZ SESSION/MISIA
昨年、横浜赤レンガ倉庫で開催された「Blue Note Jazz Festival in Japan 2016」での共演をきっかけに、世界的なトランぺッター黒田卓也を迎えて作成された彼女初のジャズアルバム。彼女の代表曲がジャズアレンジでカバーされているほか、甲斐バンドの「最後の夜汽車」のカバーも収録されています。
純粋にアルバムとしては悪くありません。ジャジーな演奏をバックに彼女の力強い歌声が響く聴かせるアルバムです。ただ、アレンジはコンテンポラリーなアレンジがほとんどでジャズのイメージは薄く、無難にポップなセルフカバーといった感じで、ジャズらしくボーカルにフェイクが入るわけでもなければアドリブ的な要素も薄く、そういう側面でのおもしろさはあまりありません。MISIAというボーカルをジャズという側面から生かし切れていないように感じました。普通にポップのアルバムとして聴く限りではいいアルバムだとは思うのですが・・・。
評価:★★★
MISIA 過去の作品
EIGHTH WORLD
JUST BALLADE
SOUL QUEST
MISIAの森-Forest Covers-
Super Best Records-15th Celebration-
NEW MORNING
MISIA 星空のライヴ SONG BOOK HISTORY OF HOSHIZORA LIVE
ヤンキーとKISS/モーモールルギャバン
エレピとガレージ風のへヴィーなバンドサウンドが奏でる、ブラックミュージックからの影響を感じつつパンキッシュなサウンドが耳を惹くモーモールルギャバンの新作。今回も「贖罪」「OTOMI」のような狂気を秘めたようなラブソングも魅力的。「ガラスの三十代」のようなそろそろアラフォーに差し掛かるゲイリー・ビッチェの素直な心境を吐露するような曲も。良くも悪くもモーモールルギャバンらしいアルバムになっていました。
評価:★★★★
モーモールルギャバン 過去の作品
クロなら結構です
BeVeci Calopueno
僕は暗闇で迸る命、若さを叫ぶ
モーモールル・℃・ギャバーノ
シャンゼリゼ
PIRATES of Dr.PANTY
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2017年」カテゴリの記事
- 20周年イヤーの最後を締めるアルバム(2017.12.26)
- 5曲中3曲がタイアップ(2017.12.25)
- チャメ~!(2017.12.23)
- 4枚組豪華オールタイムベスト(2017.12.17)
- 赤裸々な本音を強烈なガレージサウンドで(2017.12.16)
コメント