「日本」が所々に登場
Title:Crack-Up
Musician:Fleet Foxes
前作「Helplessness Blues」が高い評価を得て注目を集めたアメリカ・シアトル出身のフォークロックバンドFleet Foxesの新作。今回のアルバム、作品の要所要所に「日本」が登場してくることが大きな特徴的。まずジャケットの写真、日本の写真家濱谷浩が撮影した東尋坊の写真。さらにアルバムの中には「Third of May/Odaigahara」という曲が登場。ここで言う「Odaigahara」とは奈良と三重の県境に位置する大台ケ原山から取られたそうです。
「日本百名山」のひとつとはいえ、日本国内の観光地として誰もが知っている有名どころ・・・といった感じでもない大台ケ原の名前が楽曲のタイトルとして取られているのが意外な印象を受けます。ただこの9分近くに及ぶこの楽曲、今年3月にアルバムリリースに先立ち公表された楽曲なのですが、アルバムの中のひとつのクライマックスとなっています。
前半はアコースティックなサウンドでフォーキーで美しいメロディーラインを歌い上げるポップな楽曲からスタート。それが後半ではアコギやピアノの音が複雑に入り組み、アコースティックなサウンドで美しい音像を作り上げるドリーミーでサイケな世界が繰り広げられています。この独特な音世界が実に見事。思わずその音の世界に聴きほれてしまいます。
この「美メロ」と「幻想的なサイケフォーク」という音楽性がこのアルバムを通じて強く感じる特徴。そういう意味でもこの楽曲は本作を代表する曲と言えるでしょう。特に美メロという観点では中盤。「-Naidads,Cassadies」「Kept Woman」は美しいハーモニーとアコースティックなピアノやアコギで構成される世界が非常に輝かしくて耳を惹かれます。
その後もその美しいメロディーラインやコーラスを主軸としつつ、分厚いコーラスやアコースティックなサウンドに微妙にエフェクトをかけることによってドリーミーな雰囲気を醸し出しています。「Mearcstapa」や「Fool's Errand」などは特にそんな幻想的な雰囲気をより感じる楽曲になっていました。
そしてラストは表題曲「Crack-Up」で締めくくられるのですが、こちらも美メロと重厚なハーモニーが魅力的な楽曲。最後はホーンの音が鳴り響く中、美しいボーカルの歌声で締めくくるという幻想的で神秘的ですら感じるフィナーレ。最後の最後までどこか神聖さすら感じさせるアルバムの雰囲気を保ったままの締めくくりとなりました。
今回のアルバム、冒頭に「日本」が要所要所に登場と書きましたが楽曲的には日本的な部分はほとんどありません。「Third of May/Odaigahara」も後半に若干エスニックな雰囲気のサウンドが入る程度で明確に日本的な部分はありません。ただ「日本」をテーマとすると、琴や三味線のようないかにもな様式化された日本像にウンザリさせられることも少なくないので(時として邦楽バンドでもありがち・・・)、これはこれでよかったように思います。
とにかく終始、その美メロと幻想的な音世界に惹かれるアルバム。幻想的といっても基本的にはアコースティックな音がメインとなっているため必要以上に仰々しさを感じる部分もなく、そういう点でも大きなプラス要素でした。
既に上半期洋楽ベスト3にも登場させているように今年を代表する名盤でした。最初から最後までその音世界に酔いしれるアルバムでした。
評価:★★★★★
FLEET FOXES 過去の作品
Fleet Foxes+Sun Giant EP
HELPLESSNESS BLUES
ほかに聴いたアルバム
TLC/TLC
90年代、一世を風靡し、日本でも絶大な人気のあった3人組ガールズグループTLC。2002年にメンバーのレフト・アイが交通事故により急逝し、その後は残ったメンバー2人で活動を進めていましたが、アルバムのリリースはありませんでした。そんな中、約15年ぶりにリリースされた本作がこれ。メンバーはこれがラストアルバムと公言しており、事実上、TLCとしての活動に幕が下ろされることになりました。
そんなフェアウェル的なアルバムということもあり楽曲的には90年代そのままのスタイル。ファンにとってはなじみ深い雰囲気の楽曲なのですが、ここ20年の特にブラックミュージックシーンでの音楽的な変化はすさまじいため、今聴くとかなり古臭く感じてしまいます。もっともそういう感想があることをわかった上で、あえて90年代そのままの音でのアルバムをリリースしたのでしょう。そういう意味では完全にかつてのファン向けのアルバム。このアルバムがはじめてのTLC、という方にはお勧めできませんが、90年代にファンだった方はまずは聴いて損のない作品です。
評価:★★★★
Kidal/TAMIKREST
前作「Chatma」が話題となったアフリカ・マリで結成されたバンドTAMIKRESTの新作。Tinariwenと同様に「砂漠のブルース」と呼ばれる彼らの楽曲。今回もそんなブルージーなギターが魅力的。哀愁感あるブルージーなギターを軸にミディアムテンポで独特のグルーヴ感を醸し出しており、また、コールアンドレスポンスを取り入れた楽曲もアフリカのバンドならではといった感じ。シンプルなサウンドでロックからの影響も強く、良い意味で垢抜けたところもありロックリスナーにも聴きやすくなじみやすい音を奏でているのも魅力的でした。
評価:★★★★★
TAMIKREST 過去の作品
Chatma
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