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2017年8月24日 (木)

35年の集大成

Title:コイズミクロニクル~コンプリートシングルベスト1982-2017~
Musician:小泉今日子

今年、デビュー35周年を迎えた小泉今日子。それを記念してリリースされたベスト盤が本作。デビュー作「私の16才」から2014年にリリースされた「T字路」まですべてのシングルを網羅したタイトル通りのコンプリートシングルベスト。それもリリース順に収録されており、彼女の歩みがわかる内容となっています。

そんな彼女のいままでのシングル曲が3枚組のCDに収録されていますが、この3枚のCDに収録されている曲がちょうど活動の変化に重なるようになっているのが興味深いところ。Disc1はデビュー作「私の16才」から1985年の「魔女」まで収録されていますが、この時期の曲は典型的なアイドル歌謡曲。起用している作家陣も豪華な面子なのですが、筒美京平とか馬飼野康二とかいわば王道路線を行っているような曲が目立ちます。

これがDisc2になると一気に「個性派アイドル」路線に突き進みます。そのきっかけになったのがまさに1曲目の「なんてったってアイドル」でここで歌われるメタ視点の歌詞は今から考えるといかにも秋元康的な歌詞。メタ的な視点をおもしろがる今の音楽シーンの流れの源流のひとつとも、今となっては感じてしまいます。

他にも「100%男女交際」というアイドルソングとしては挑発的な曲があったり、「見逃してくれよ!」のようなユニークなコミックソング風の曲などもあったりして、まさに個性的な曲が並んでいます。また後半では藤原ヒロシ、屋敷豪太が作曲した「La La La...」やスカパラの林昌幸、青木達之が作曲した「丘を越えて」のような曲があったりして、その後のサブカルアーティスト路線のはじまりを感じさせる曲も収録されています。

そしてDisc3はアイドル路線を完全に脱却してアーティスト路線を目指したような曲が並んでいます。作家陣も小林武史や奥田民生といった面子が目立つようになっており楽曲の雰囲気もグッと大人な雰囲気を漂わせた曲になっています。この頃はいわゆる「アイドル冬の時代」と言われた時期なのですが、それにも関わらず「あなたに会えてよかった」「優しい雨」といったキャリアを代表するヒット曲を出せたのも、この路線が大当たりしたということでしょう。

さて、そんな35年の活動の中、その方向性を徐々に変化させていった彼女ですが、以前から彼女の楽曲に関して強く感じていたことがありました。それは小泉今日子って、歌はすごく下手なのに曲には恵まれているよな、という点。今回のベスト盤を聴いて、そのイメージはさらに強くなりました。個人的に「木枯しに抱かれて」や「あなたに会えてよかった」などは大名曲だと思いますし、特にDisc2以降はアイドル歌謡曲という枠組みにとらわれない個性的な特徴を持った名曲が目立ちます。もちろん彼女に限らず人気アイドルの曲というのは力を入れられているだけに優れた曲が少なくないのですが、彼女の場合はその活動の要所要所、ターニングポイントとなりそうな時期に、その後の彼女の方向性を決めるような名曲が登場してきているような印象を受けます。ある意味最近でも、歌手としての活動が低迷してきていたタイミングでNHKの朝ドラ「あまちゃん」で話題となった「潮騒のメモリー」を劇中歌として歌うこととなり久々のヒットを記録していたりして、本当に歌手として楽曲に恵まれているな、ということをあらためて感じました。

全3枚組、かなりボリューミーな内容ですがバラエティー富んだ楽曲が並んでおり楽しめるアルバムになっていました。基本的に最近は歌手活動が控えめな彼女なだけにどちらかというと懐かしいヒット曲が並んでいるという印象なのですが、それだけにアラフォー以上の世代にとってはその時代時代を思い起こさせる曲が多いのではないでしょうか。ファンでなくても十分楽しめたベスト盤でした。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

Who We Are/Nulbarich

最近、急速に注目を集めているバンド、Nulbarichの4曲入りEP盤。ソウル、ファンクなどの要素を色濃くいれたロックバンドで、楽曲的には最近話題のSuchmosと近いものを感じます。ただ楽曲的にはスモーキーで渋さを感じるSuchmosと比べると、もうちょっとポップで爽快さが強く感じる彼ら。そういう意味では似たタイプとはいえ異なる個性を感じます。ブラックミュージックが好きなら間違いなくチェックしておきたいバンド。これからの活躍に期待できそうなミニアルバムでした。

評価:★★★★★

群青の日々/熊木杏里

デビュー15周年を迎えた女性シンガーソングライターの新作。アコースティックなサウンドのフォーキーな楽曲がメインとなっており、原点に回帰したような作風になっています。全体的に派手さはないものの、メロディーラインはしっかりと聴かせるものとなっており、さらに特徴的だったのが歌詞の世界。シンプルだけどもしっかりとした主張を感じさせる歌詞が並んでおり、特に「国」では熊木杏里版の「イマジン」とでも言うような社会派な内容になっており惹きつけられました。デビューから15年、ヒットという観点ではいまひとつ大きなブレイクがない彼女ですが、もうちょっと評価されてもいいと思うのですが。

評価:★★★★★

熊木杏里 過去の作品
ひとヒナタ
はなよりほかに
風と凪
and...life
光の通り道

飾りのない明日

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