大ボリュームのライブ盤
Title:キュウソネコカミ -THE LIVE-DMCC REAL ONEMAN TOUR 2016/2017 ボロボロ バキバキ クルットゥー
Musician:キュウソネコカミ
めちゃくちゃ長いタイトルが特徴的な本作は、今、特にライブシーンで人気上昇中のロックバンド、キュウソネコカミの初となるライブアルバム。全3枚組というボリューミーな内容で、2016年から2017年にかけて実施した、自身最長となる38公演のライブツアー「DMCC REAL ONEMAN TOUR 2016-2017~ボロボロバキバキ クルットゥ! ツアー~」の音源を収録しています。
ユニークなのはその構成で、Disc1は今年1月31日の大阪・なんばHatchでの公演を収録した内容。代表曲を選曲した構成となっており、ベスト盤的にも楽しめる内容になっています。そしてDisc2、3はその他37か所での公演について1か所につき1曲を収録した内容になっています。
全編疾走感ある楽曲の連続。シンセを加えたギターロックは楽曲によってはパンキッシュに激しく、楽曲によってはシンセを前に押し出したダンサナブルなナンバーに仕上げています。いかにもライブ向けという曲ばかりで、彼らのライブの楽しさがそのまま伝わってくるようなライブアルバムに仕上がっています。
ただ、今回の彼らのライブ盤を聴いてひとつ強く感じたことがあります。それは彼らの曲って、徹底的にライブ向けに機能化されているということでした。
確かにキュウソネコカミはそのユニークな歌詞にも特徴があります。身の回りの出来事を皮肉たっぷりに怒りの表現をまぜてストレートに綴った歌詞は十分インパクトがあります。ただライブアルバムで彼らの曲を聴くと、ライブの中で歌詞はさほど重きをなしていないのではないか、ということを感じてしまいます。
歌詞で何かを主張する訳ではなく、楽曲やサウンドを主張する訳ではなく、ただ徹底的に機能化された楽曲を繰り広げている、今回のライブアルバムで感じたのはそんなこと。良くも悪くもキュウソネコカミの曲にはロックバンドとしての「主張」の希薄さを感じます。
もっともそういうバンド、最近急増しているのではないでしょうか。例えば最近話題のヤバイTシャツ屋さんもそんな傾向が強く感じます。ミュージシャンとして何かを主張するのではなく、ただ徹底的にライブで「楽しめる音楽」を奏でる・・・いわゆるフェス向けといわれるようなロックバンドでそういうバンドが増えているように感じます。
もちろんそういう方向性がバンドとして決して間違っているとは思いません。音楽的な「主張」をせずに単純に楽しむことだけに主眼を置いている方向性も十分「あり」でしょう。ただ・・・そんなロックバンドって、最近ヒットシーンで主流になったアイドル勢に対してすごく不利に感じるんですよね。
なぜならアイドル勢はいうまでもなくプロの作家陣をつかって徹底的にファンを楽しませることを主眼において活動しています。ルックス面も勝負になりません。もちろんキュウソネコカミやヤバイTシャツ屋さんみたいに楽曲面での強度が強ければアイドル勢にも負けないのかもしれませんが、そんなバンドは決して多くありません。
最近、ロックフェスにアイドル勢が参加したりして「アイドルがロックに近づいた」的な言われ方をされることが多いのですが、ロック勢が音楽的な主張を捨てて楽曲で楽しむことだけに主眼を入れ出したという点で、むしろロック勢がアイドル音楽に近づいたのではないか、このライブ盤を聴いてそんなことに気が付かされました。上にも書いた通り、そういうロックバンドも決して悪くはありません。ただそういうロックバンドばかりになったら、正直、ロックシーンはつまんなくなってしまうだろうなぁ・・・そんなことを感じました。
もっともキュウソネコカミに関してはアイドル勢に負けないようなエンタメ性あふれる曲を書いており歌詞にもインパクトがあります。そういう意味では「楽しめるロック」という機能性に特化しても十分魅力的なバンドだと思います。ただ今回のライブ盤を聴くと、機能性にばかり特化したバンドが最近増えている、ということを漠然と考えてしまいました。やはり音楽的にちょっと稚拙でも、主張を感じるようなロックバンドがもっと増えてきてほしいのですが。
評価:★★★★
キュウソネコカミ 過去の作品
チェンジ ザ ワールド
ハッピーポンコツランド
人生はまだまだ続く
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