アラフォー世代感涙の選曲
Title:オニカバー90's
Musician:鬼龍院翔
90年代J-POPをこよなく愛するゴールデンボンバーのボーカル、鬼龍院翔によるカバーアルバム。タイトル通り、90年代のヒット曲をズラリと並べてカバーしたアルバムで、アラフォー世代の私にとってはちょうど中学生や高校生の頃に聴いていたような曲が並んでおり、壺をつきまくるような選曲に、おもわず聴いてしまいました。
ただ、彼自体は今、33歳。90年代というと小学生の低学年か、せいぜい中学生あたりの頃の曲でありリアルタイムで聴いていたといった感じではありません。後追いで聴いたのか、それとも小中学生とはいってもマセた餓鬼だったり上に兄や姉がいる場合はヒット曲を聴いていたりするのでその流れで聴いていたりしたのでしょうか。WANDSの「世界が終るまでは...」などはアニメ「スラムダンク」のテーマソングだったりするので当時小学生だった彼がリアルタイムで聴いていても不思議ではないのですが。
さて今回のカバーアルバム、その選曲を見て食指が動くのはおそらく私と同じアラフォー世代の方ではないでしょうか。ただ一方、思い入れのあるヒット曲がどのようにカバーされるのか気になるかもしれません。しかしその点はご安心を。楽曲はカバーというよりはむしろコピー。原曲そのままのアレンジに歌い方も原曲に沿った歌い方をしています。また鬼龍院翔自体、(一応は?)ビジュアル系ということでビジュアル系特有の鼻にかかったような歌い方をするのですが、今回のカバーに関しては比較的素直な歌い方に徹しています。彼自身、歌唱力はそれなりにあるので聴いていても苦になりませんし、おそらく原曲に思い入れがあるようなアラフォー世代にとっては安心して懐かしい曲の世界に浸れるのではないでしょうか。
また選曲についても誰もが知っているようなあの頃のヒット曲ばかり。「愛は勝つ」「それが大事」「どんなときも。」あたりはいかにも90年代のJ-POP!といった感じ。ただCHAGE&ASKA、B'z、ミスチルといった90年代J-POPの最重要ミュージシャンのカバーがないのは大人の事情なのでしょうか、それとも彼の趣味なのでしょうか。ドリカムあたりはさすがに原曲準拠だと歌えなかったからかもしれませんが。
またちょっと意外だったのは(個人的にファンということで注目してしまうのですが)LINDBERGの曲として「今すぐKiss Me」でも「BELIEVE IN LOVE」でもなく「君のいちばんに...」が選曲されていること。ヒットや知名度という点からは他のに比べると低く、ちょっと浮いてしまっているような印象も受けます。ひょっとしたらこの曲がリリースされたのが彼がちょうど13歳の頃で、この手のヒット曲を主導的に聴き始めるような頃。彼にとって何らかの思い入れがある曲なのかもしれません。
そんなアラフォー世代にとっては非常に懐かしさを感じるアルバムなのですが、正直言ってしまうとカバーアルバムとしては失格です。上にも書いた通り、基本的に原曲準拠のアレンジに歌い方も原曲に沿った内容。はっきりいってしまえばカラオケです。企画の趣旨的にそういう指摘はわかった上であえて「コピー」に徹したのかもしれませんが、プロのミュージシャンとして自分なりの解釈を全く入れない「カバー」を評価することはできません。アルバムとしての評価としては決して絶賛は出来ない内容かと思います。
まあただそこらへんをわかった上で純粋にあの頃の思い出に浸って懐かしく聴くアルバムとしては十分すぎるほど楽しめるアルバムになっていました。ただちょっと気になるのが(前のチャート評のコーナーでも書いたのですが)このジャケット写真。妙にド派手なメイクといい、タイトルの極太ゴシックな書体といい完全に90年代ではなく80年代。リアルタイムにその時代を生きていた世代だからわかるのですが、90年代って、この手の80年代的スタイルがもっとも「カッコ悪いもの」と捉えられていた時代なんだよなぁ。この時代的なギャップをわかっていてあえてやったのか、それともわからなかったのか。前者なら、今の時代、90年代ってこうやって捉えられているのか、とその頃に青春時代を送ったような私にとってはちょっと悲しくなりますし、後者なら「90年代J-POPをこよなく愛する」というのなら曲の背景となったその時代の文化風俗をもうちょっと勉強してほしいなぁ・・・。
評価:★★★
ほかに聴いたアルバム
和と洋/AI
AIのニューアルバムはなかなかユニーク。2枚組となった本作はタイトル通り、Disc1が「和」をイメージ、Disc2が「洋」をイメージしたような楽曲が並んでいます。「和」の方ではゲストに鼓動や姫神といったいかにもなミュージシャンを迎え、和太鼓やら三味線やら「和風」な音を入れつつ、全体的にはいつものAIらしいパワフルなバラード曲がメイン。一方、「洋」の方は、今風のエレクトロサウンドを取り入れた、洋楽からの影響をストレートに取り入れた垢抜けたポップスが並んでいます。
「和」の方はいかにもなお決まりの「和風」な音だったのがちょっと残念だったのですが、全体的にはAIらしい楽曲がきちんと並んでいるため統一感もあり、和風と洋楽風を対比させるという構成もなかなかユニーク。AIの魅力と彼女の音楽的多様性をきちんと出せていた傑作でした。
評価:★★★★★
AI 過去の作品
DON'T STOP A.I.
VIVA A.I.
BEST A.I.
The Last A.I.
INDEPENDENT
MORIAGARO
THE BEST
THE FEAT.BEST
何度でも新しく生まれる/MONDO GROSSO
大沢伸一によるソロプロジェクトMONDO GROSSO。2003年頃から活動休止状態でしたが、このほどなんとオリジナルアルバムとしては14年ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。
全11曲入りとなる本作は、女性ボーカルを中心にMONDO GROSSO初となる全曲日本語によるボーカル曲。ただエレクトロサウンドを中心とした作風で、メロディーをしっかり聴かせる曲もあれば音の一部となっているような曲も。ダビーな曲からトライバルなリズムを聴かせる曲、シティポップな曲などなどバリエーション豊富な作風に大沢伸一の音楽に対する旺盛なスタンスを感じる一方、ちょっと核となるような曲がなくバラバラな統一感のない作風が気になりました。
評価:★★★★
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コメント
私は現在28歳ですが、80年代と90年代の違いは明確にわかりますね。
このジャケットも、80年代ぽいと感じますし。
ですから、現在33歳の鬼龍院氏がその違いが分からないというのはあまり考えられないです。
ただ、90年代前半と後半とではイメージが違って、90年代後半に活躍したアーティストは垢抜けている印象がありましたが、前半に活躍したアーティストは少し懐かしいという印象だったので、その違いはあるのかな…という気はします。
今回鬼龍院氏が選曲しているのは90年代でも前半に活躍したアーティストが中心だと思うので、彼の中でももしかしたら、90年代前半にヒットを飛ばしたアーティストと、後半に活躍したアーティストとでは線引きのようなものがあるのかなと思いました。
投稿: 通りすがりの音楽好き | 2017年7月29日 (土) 01時09分
ゆういちさん、こんばんは。
確かに通りすがりの音楽好きさんの言う通り同じ90年代でも、前半と後半では印象がガラリと変わった感があります。一言で言うと
邦楽の呼び名が“歌謡曲”から“J-POP”に変わった瞬間
という感じでしょうか。
(ちなみにその境目は、ミスチルやオザケンさらにはSMAPがブレークした94年だと言われています)
なので、今回のキリショーの感じはまだ邦楽が歌謡曲と呼ばれていた時代を表現するためにこうしたのではないかと僕は思います。
投稿: 通りすがりの読者 | 2017年7月30日 (日) 05時36分
>通りすがりの音楽好きさん
そうですね。90年代といってもあの10年って結構音楽的な変遷が大きく、それこそ宇多田ヒカルもハイスタも椎名林檎もくるりもBUMP OF CHICKENもギリギリ90年代から活動をはじめていたりします。そういう意味では今回、彼がセレクトしたのは小室系、ビーイング系ブーム以前の曲、より「90年代」というイメージの強い曲がメインですね。特に小室系以前と以後ではヒット曲の雰囲気がかなり変わったので、そういう意味では彼なりにひとつの線引きはあるかもしれないですね。
>通りすがりの読者さん
そうですね。ただリアルタイムで聴いていた世代から言うと、やはりビーイング系から小室系のヒットでガラリと雰囲気が変わったような感じがします。いわばアンチビーイング、小室系として渋谷系やそれに連なるミュージシャンが注目を集め、その流れとして90年代終盤の宇多田ヒカルやら椎名林檎やら、あるいはロケノン系と言われるサブカル系ミュージシャンが人気を博したという流れが大きいような印象を受けます。ただ、90年代初頭の音楽も「歌謡曲」というイメージはないですよ。むしろ当時はまだいかにも歌謡曲的なヒットもシーンの中で根強く、それに対して「歌謡曲=時代遅れのダサいもの」というイメージが10代20代あたりでは一般的な認識でした。そのため、歌謡曲からの脱却を目指していたのが90年代初頭の今では「J-POP」と言われるような楽曲です。まあ今から聴けばかなり「歌謡曲」的ではあるのですが・・・。
投稿: ゆういち | 2017年8月 6日 (日) 23時18分