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2017年7月 3日 (月)

厳しい現実を淡々と歌う

Title:耐えて眠れ
Musician:W.C.カラス

孤高のブルースシンガーとして話題のW.C.カラス。富山で木こりをしながらブルースシンガーとして活躍しているというそのスタイルも大きな話題に。さらに前作ではなんと女優の室井滋とのデゥオ作をリリースしてきたことでも評判を呼びました。

そんな彼の単独名義では約1年4ヶ月ぶりとなる新作。前作「うどん屋で泣いた」ではブルースというジャンルに留まらず、ソウルやフォーク的な要素も強いアルバムをリリースしてきましたが、今回のアルバムでは一転、実にブルースらしいアルバムに仕上げてきました。

例えば1曲目の「汽笛を鳴らせ」はアコギがワンコードで延々とならされる典型的なブルースナンバー。その後も基本的にはアコースティックギター1本でつむがれるブルースの世界が展開していきます。

典型的なのは9曲目の「人生のせいで」。アコースティックギターとボーカルがコール&レスポンスの形式で進む典型的なブルース進行のパターン。歌詞も人生の辛さを淡々として歌ういかにもブルースらしい内容で、特に「女が出て行ってしまった」という歌詞はまさしくブルースの王道パターン。最初、正直戦前ブルースか何かのカバーではないか?とすら思いました。

そんな訳で今回はいかにもなブルースナンバーが並んだアルバムになっているのですが、そんな中、なによりも印象に強く残ったのは歌詞でした。彼の歌う歌詞は人生の悲哀について歌っています。ただ、最近のポップスによくありがちな「厳しい現実の向こうに希望を歌う」というスタイルではなく、ただただ淡々と厳しい現実をちょっとしたユーモラスな表現を加えて歌うだけ。例えば「どうにもねぇ、どうしようもねぇ」はタイトルそのままの歌詞。最後の最後まで厳しい現実を淡々と歌われるだけですし、「今日も何とか切り抜けられた」もタイトル通り、厳しい日々を1日1日過ごしている人たちの姿をそのまま描いている曲になっています。

彼の歌はそんな現実を歌うだけ。決して人生の応援歌でもありませんし、前向きに生きる人々を描いたわけではありません。ただ淡々と歌われるその現実は、いろいろと厳しい毎日を生きている私たちにとっては胸をうつものがあります。ある意味、空虚に希望を歌っている今時のJ-POP応援歌よりも、むしろ「俺もお前も厳しいよな、まあ、がんばろうぜ」とそっと背中を押されているような、そんな感覚を覚えました。

ちなみに本作、「汽笛を鳴らせ」「機関車」「侘しい踏切」など妙に鉄道関連を題材とした曲が多いのも特徴的。これもブルースでは鉄道をよく素材として用いているだけに、王道パターンといえば王道パターン。さらにラスト「DINAH WON'T YOU BLOW」はみなさんよく知っている童謡「線路は続くよどこまでも」を労働歌風にカバーした替え歌・・・・・・・・・かと思ったら、むしろこちらの方が原曲準拠で、「線路は続くよ~」の方が替え歌でした(^^;;おなじみのメロディーがこのアルバムのラストを飾るにふさわしいブルース風にカバーされていました。

そんな訳でブルースシンガーの本領発揮といった感じのアルバム。比較的幅広い音楽を聴けた前作に比べるとリスナー層はもうちょっと絞られそうですが、ただ歌詞についてはおそらく多くの方の胸をうちそうな魅力があります。最近のJ-POPに飽き足らなくなってしまった方には是非ともお勧めしたい「大人の音楽」です。

評価:★★★★★

W.C.カラス 過去の作品
うどん屋で泣いた
信じるものなどありゃしない(室井滋&W.C.カラス)


ほかに聴いたアルバム

WAVE/Yogee New Waves

ここでも何度か書きましたが、最近、いわゆる「シティポップ」的なミュージシャンが話題となって人気を博しています。今回紹介するYogee New Wavesも今、話題になっているシティポップのバンドの一組。東京を中心に活動する男性4人組バンドで、これが2枚目のアルバムとなります。

さすがに話題になっているだけあって、爽やかでメロウさもある心地よいシティポップが並んでいます。はっぴいえんどや山下達郎、サニーデイサービスなどに影響を受けたというその楽曲はまさにシティポップの王道。ほどよくインパクトもあり、またなによりも垢抜けたポップスを聴かせてくれます。

ただ過去の偉大なるミュージシャンたちの遺産を上手くつかいこなしているという印象がまだ強く、Yogee New Wavesだけの個性みたいなものはちょっと薄い印象。まだまだ成長の余地は感じるアルバムでした。とはいえ、今の段階でも間違いなくその実力は感じられる1枚。これからのさらなる進歩が非常に楽しみになるアルバムでした。

評価:★★★★

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アルバムレビュー(邦楽)2017年」カテゴリの記事

コメント

W.C.カラスのアルバムは容赦ないほど救いがない詩世界なのに何故か力が湧いてきます。

投稿: ひかりびっと | 2018年3月13日 (火) 14時22分

>ひかりびっとさん
ご感想ありがとうございました。

投稿: ゆういち | 2018年3月17日 (土) 00時04分

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