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2017年7月22日 (土)

「月9ドラマ」でブレイクという印象とは反して

Title:PLAY
Musician:藤原さくら

昨年、ほぼ無名の状態ながらもフジテレビの月9ドラマ「ラヴソング」のヒロイン役として抜擢され、一気に注目を集めた女性シンガーソングライター。同ドラマこそ、さほどヒットはしなかったものの、主役の福山雅治が作詞作曲を手掛けた「Soup」が大ヒットを記録し、彼女自身も一躍ブレイクを果たしました。

それから約1年を経てようやくリリースされたニューアルバムが本作。ブレイクのタイミングからするとちょっと遅い印象は受けるのですが、チャート的にはオリコン最高位5位を記録しています。

彼女の楽曲については聴いたことあったのは「Soup」のみ。その曲も決して悪くはなかったのですが、平凡なJ-POPという印象を受けており、そんな高い期待を持って聴いてみたアルバムではありませんでした。なんといってもブレイクの経緯からして、「売れ線のJ-POPシンガー」という印象も強く受けていました。しかし、本作で収録されている楽曲は「月9ドラマでブレイクした女性シンガーソングライター」という一般的なイメージとは大きく乖離したものでした。

彼女の歌っている楽曲はJ-POPという枠組みからははずれている、むしろ洋楽テイストの強いオーガニックな楽曲がメイン。冒頭を飾る「My Way」など、全英語詞でオーガニックテイストの強い作品ですし、「play with me」ではフォーク、「赤」「SPECIAL DAY」ではブルース、「neckless」はロックンロールといった様々なジャンルからの影響を強く感じます。

ピアノやアコギ、あるいはエレピなどをメインとして非常にシンプルにまとめあげたアレンジも実に魅力的ですし、情報過多なアレンジを行う影響にあるJ-POPとは対極的。またスモーキーな雰囲気のあるボーカルも楽曲にマッチして味わいがあるのですが、今時の「売れ線」の傾向とは異なります。

彼女自身、影響を受けたミュージシャンとしてまずポール・マッカートニーをあげており、これはまあ誰もが知っているようなミュージシャンですが、次にあげているのがビル・ジョーンズやケイト・ラズビーといった日本で決して知名度が高いとはいえないフォーキーな女性シンガーたち。またワールドミュージックも好んで聴いているそうで、メインストリーム系のシンガーソングライターとは異なるものを感じます。

それだけにそんな彼女をなぜ月9ドラマに抜擢し、さらに福山雅治作詞作曲の楽曲を歌わせてヒットさせたのか、かなり疑問に感じます。その結果、確かにブレイクしましたがおそらく彼女を最も支持しそうな層は、「月9ドラマ挿入歌」「福山雅治の曲」といったキーワードからもっとも遠くいるような層のはず。事務所的には彼女の実力にほれ込んでブレイクさせようとしたのでしょうが、その時にこのような方法論しか取れなかったという部分に日本の音楽業界の底の浅さを感じてしまいました。

そんな訳で、予想外によかったこのアルバム。月9ドラマ挿入歌でヒットした彼女ですが、上にも書いた通り、むしろそんなキャリアに全く食指の動かないような方にお勧めしたいミュージシャン。タイプ的には彼女も影響を受けたというノラ・ジョーンズや、あるいはジョニ・ミッチェルあたりが好きなら気に入りそうなタイプかと。確かにあの曲のヒットがなかれば今の日本ではブレイクしにくそうな楽曲だとは思うのですが・・・このブレイクの方法が今後の彼女のキャリアにとってマイナスにならなければいいのですが。今後の彼女の活躍に期待したいところでしょう。

評価:★★★★★

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アルバムレビュー(邦楽)2017年」カテゴリの記事

コメント

なるほど。これは偏見なしで一度聴いてみる価値がありそうですね。
彼女の場合、福山作詞作曲のドラマ挿入歌で大々的に推された次が、スピッツのカバーで映画主題歌だったので、彼女自身の曲が全く聴こえてきてないんですよね。なので、ヒットはしても彼女自身の音楽に対して興味持ってない人って結構多いと思います。
彼女の年齢でそんなにしっかりとしたルーツがあって、さらに光る物もあるなら彼女自身の曲で勝負させたらいいのに、事務所の売り方はちょっと疑問ですね…。

投稿: 亮 | 2017年7月23日 (日) 09時33分

ゆういちさん、こんばんは。

藤原さくらについては、Soupのちょっと前にリリースされたアルバムが個人的にはお気に入りです。

まあ、じっくりアルバムを作らせてくれたってゆうのが、アミューズが彼女を使い捨てにしないってゆう証拠だと僕は信じたいです。

(あの事務所は、ヒットを出せたアーティストについては大切にするイメージがあるので)

投稿: 通りすがりの読者 | 2017年7月24日 (月) 01時21分

>亮さん
そうなんですよ。彼女自身、売り方があれだったので偏見を持たれてそうですが、彼女くらいの歳のシンガーソングライターであそこまでルーツ志向のシンガーは珍しいと思います。そういう意味であの売り方がよかったのかどうか微妙ですが・・・。是非、聴いてみてください!

>通りすがりの読者さん
いいアルバムですよね。とりあえずじっくりアルバムを作らせてもらえてよかった感じがします。
アミューズはどちらかというと通好みなミュージシャンの売り方が非常に下手(ex WHITE ASH)ような気もするので心配はしているのですが、これからの彼女にはがんばってほしいです!

投稿: ゆういち | 2017年7月26日 (水) 23時42分

必要最低限の情報量はとにかく詰め込めるだけ詰め込む今のJ-POPの世界からしたらかなり異質ですが、深く心に染み込んでくるかのような作りに彼女のミュージシャンとしての力量の高さを実感しますね。この路線で頑張ってもらいたいです。

投稿: ひかりびっと | 2017年10月31日 (火) 18時03分

>ひかりぴっとさん
この路線でがんばってほしいですね。

投稿: ゆういち | 2017年11月18日 (土) 23時57分

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