まさかの「意欲作」
Title:岸田繁「交響曲第一番」初演
Musician:指揮 広上純一 演奏 京都市交響楽団
くるりの岸田繁が交響曲を書いた・・・昨年、もたらされたこのニュースには非常に驚かれされました。くるりでも「ワルツを踊れ Tanz Walzer」のようなウィーンで録音されたクラシック音楽からの影響を強く受けた作品や、その後のライブでオーケストラをバックに入れてくるなど、もともと岸田繁はクラシック音楽から大きな影響を受けているミュージシャンでした。
もっともロックやポップスのミュージシャンがクラシックに接近するケースは少なくありません。ただそのほとんどのケースが単に持ち曲をオーケストラ風にアレンジしておしまいというケース。くるりのようにクラシック音楽を楽曲の中に積極的に取り入れるケースはほとんどありません。
その上今回のように交響曲を1曲完成させる、などという話はまさに前代未聞。音楽的に専門的な教育を受けたわけでもない彼が交響曲を1曲完成させてしまうというあたりに驚きを感じるとともに、彼のクラシック音楽に対するただならぬ情熱を感じます。
今回の作品は昨年12月4日にロームシアター京都コンサートホールで開催された京都市交響楽団による初演の模様をおさめたアルバム。まず最初は「Quruliの主題による狂詩曲」と名付けられた管弦楽の作品からスタート。こちらはくるりの楽曲を管弦楽の中に取り込んだ作品。ただよくありがちな「くるりの曲をオーケストラ風にアレンジしました」といった感じの曲ではなく、管弦楽の楽曲の中にくるりの曲のフレーズをモチーフとして使用した、といった感じの曲になっており、くるりの曲がうまく曲の中に溶け込んでいます。
さてその後本編である「交響曲第一番」がスタートします。個人的にクラシック音楽に関しては全く詳しくありません。今回、彼の作品をクラシック音楽の専門家が評した場合、どのような感想になるのか非常に興味があるところ。それが「酷評」でもいいので聴いてみたいのですが・・・。
ただ私がまず感じたのは楽曲としては非常にオーソドックスであるという印象を受けました。一般的な交響曲のスタイルを崩すような音やフレーズなどはありませんし、聴いていても悪い意味でのひっかかりはなく、すんなりと聴き進めていけるような楽曲になっています。
楽曲的にもロック的なダイナミズムというよりも、まず流れてくるメロディーラインのインパクトがまず印象に残ります。特に第三楽章に流れる悲しげなメロディーライン、それとは対極的な第四楽章の楽しげなメロディーラインはくるり岸田らしいメロディーセンスの才がキラリと光っています。全体的にはそのメロディーを中心とした優しいフレーズが目立つような作品になっているように感じました。楽曲のダイナミズムよりもメロディーラインの良さというのはくるりにも通じるポイント。そういう意味では岸田繁らしい作品といえるかもしれません。
クラシック音楽的な出来不出来はよくわからないのですが・・・楽曲だけだと★4つといった感じかな。ただ、交響楽を1曲完成させるという彼の意欲と情熱に★1つ追加。これが今後のくるりの活動にどのようにフィードバックされるかも楽しみ。また、今後交響曲第2番、第3番の発表もあるのでしょうか?音楽家岸田繁のこれからも楽しみです。
評価:★★★★★
岸田繁 過去の作品
まほろ駅前多田便利軒 ORIGINAL SOUNDTRACK
岸田 繁のまほろ劇伴音楽全集
ほかに聴いたアルバム
FANTASY CLUB/tofubeats
メジャーから3枚目となるtofubeatsのニューアルバム。いままでのメジャーからの2作品は豪華ゲストが参加した内容で話題となり、楽曲も比較的メジャー志向の派手さを感じるアルバムが続きましたが、本作は目立った派手なゲストもおらず、ほとんどの曲に関して彼がボーカルを取っています。ジャケット写真も地味めですし、いままでの2作品に比べると「地味」という印象を受けるアルバムになっています。
ただそれだけに逆にtofubeatsの本気さを感じます。彼のボーカルは全編、音声加工がほどこされているのが特徴的。やはりボーカルもトラックの一部として考えているからでしょうか。それとも単なるそのまま歌うのが嫌だという彼なりの「照れ」なのかもしれません。テンポとしては比較的ゆっくり目のBPMが多いシンプルなテクノ。ポップなメロディーが流れており、彼ならではのメロディーセンスを感じます。決して派手さはありませんが、tofubeatsの才能がキラリと光るような内容になっており、いままでの作品の中でtofubeatsの本質の部分に一番迫った作品と言えるかもしれません。こういうアルバムをリリースしてくるあたり彼の自信のほどを感じます。彼の実力を感じる傑作でした。
評価:★★★★★
tofubeats 過去の作品
Don't Stop The Music
ディスコの神様
First Album
STAKEHOLDER
POSITIVE
POSITIVE instrumental
POSITIVE REMIXS
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