ゆるふわラップ
Title:Mars Ice House
Musician:ゆるふわギャング
ゆるふわギャング。名前だけでかなりインパクトある彼らは最近、おそらく日本のHIP HOPシーンの中でもっとも絶賛されているミュージシャンではないでしょうか。Ryugo IshidaとSophieeという2人とラッパーにディレクターAUTOMATICを加えた3人によるユニット。Ryugo IshidaとSophieeはそれぞれソロのラッパーとして活動していたそうですが、その音楽性に共通するところがあり一緒に音楽活動を開始。自らのラップのスタイルに「ゆるふわ」という名前をつけ、ゆるふわギャングという名前で活動を開始しました。
ちなみに先日紹介した本「ラップは何を映しているのか」の中でも評論家大和田俊之氏がゆるふわギャングについて大絶賛するコメントをあげています。この中でも彼らの音楽的な影響についても言及。彼らはアメリカで今大人気のラッパー、リル・ヨッティの影響を強く受けており、また彼はアメリカで最も注目されているトラップというジャンルの代表的なラッパーだそうです。
彼らのラップはどこか気だるさを感じる力が抜けたラップでサウンドを含めて酩酊感があるのが特徴的。日本のHIP HOPの中でもかなり独特なスタイルを感じるのですが、これを「ゆるふわ」と名付けるあたりに彼らの上手さを感じます。このまったりとした雰囲気のラップが非常に個性的で耳に残ります。またトラップの特徴でもある非常にゆっくりなBPMというのは彼らのラップでも特徴となっており、また楽曲のまったりさ、酩酊感を醸し出すにはちょうどよいリズムとなっています。
また彼らのもうひとつ大きな魅力は、北関東の郊外に住むヤンキー的な若者の生活スタイルを等身大に描いているという点でしょう。「ギャング」という名前の通り、「不良」である彼らですが、ギャングスターラップのような「不良自慢」みたいな感じではありません。Ryugo IshidaとSophieeは音楽的なパートナーであるのと同時に実生活でも恋人同士ということですが、そんな2人だからこそ描けるような2人のパーソナルな世界を描いています。
そんな彼らのラップに登場するアイテムもある意味いかにも北関東のヤンキー的。例えば「Go! Outside」ではプリウスなんていうアイテムが登場していますし、「Dippin' Shake」はあきらかにマクドナルドに対する賛美。最近は「マイルドヤンキー」なる言葉も登場していますが、いかにも東京郊外の若者文化のような雰囲気を醸し出しているのが彼らのラップのリアリティーを生み出しています。
正直、彼らのラップの世界観には必ずしも共感できない部分はありますし、また個人的にも言葉をはっきりと発音するスタイルのラップが好みなので、酩酊感あって日本語がわかりにくい彼らのラップのスタイルはあまり好みではないのですが、それにあらがえないような妙なインパクトと魅力を彼らが持っているのは間違いありません。まだまだ一部で評判になっているようなミュージシャンですが、さらに広く話題になっていきそうな予感のある彼ら。これからの活動も楽しみです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
ミカヅキの航海/さユり
デビューアルバムである本作がいきなりチャート3位を記録した女性シンガーソングライター。「酸欠少女さユり」をキャッチコピーとしてアニメキャラも導入して「2.5次元パラレルシンガーソングライター」を名乗ったりして微妙に痛さを感じるのですが、確かに楽曲的にはオーソドックスなガールズロックで、よくありがちな感じ。孤独な心境を歌ったりして歌詞的にはそれなりにインパクトあるフレーズもあるのですが、確かにこういう「痛い」キャラ設定しないと売れないだろうなぁ、と感じてしまいます。「酸欠少女」だとか「2.5次元」だとかの設定が、いつの日か「忘れたい過去」になってからが彼女の勝負なんだろうなぁ。
評価:★★★
3/tricot
女性3人組ギターロックバンドのフルアルバムとしては2年2ヶ月ぶりとなる新譜。変拍子を取り入れた複雑なリズムにダイナミックなバンドサウンドをのせて、かつメロディーに関してはポップにまとめあげているという実に個性的でおもしろいバンド。ただ前作「A.N.D.」でも感じたのですがメロディーラインはいまひとつインパクト不足で印象に残らないのは残念。一方エモ志向のバンドサウンドに関しては前作に比べてグッと迫力が増したように感じました。
評価:★★★★
tricot 過去の作品
A.N.D.
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コメント
「緩すぎず鋭すぎずのバランス感覚が優れた傑作。」ですね、ゆるふわギャングは。
投稿: ひかりびっと | 2017年11月16日 (木) 18時55分
>ひかりぴっとさん
ご感想ありがとうございました。
投稿: ゆういち | 2017年11月19日 (日) 00時01分