非同期の音楽
Title:async
Musician:坂本龍一
2014年、癌であることを公表。音楽活動を休止し多くのファンが心配した坂本龍一。しかしその後の経過は順調のようで、このたび8年ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。「async」というタイトルは「asynchronization」=「非同期」の略で、自然の本能として同期が行われる中、あえて非同期的な音楽をつくったそうです。
ここでいう非同期的な音楽というのは音が奏でるハーモニーやメロディーをあえて拒否し、音をそれぞれ独立させて自由に鳴らす、という試みでしょうか。「andata」などは坂本龍一らしい美しいメロディーラインのピアノを聴かせてくれるのですが、続く「disintergration」では和音やメロディーを拒否するピアノの音の羅列が続くナンバー。タイトルチューンである「async」はストリングスの音がダイナミックに鳴り響くなのですが、どの音も交わるのを拒否しています。
他にも「walker」は森の音と、そこに歩く足音を録音して使用しています。基本的に同期される自然の音の中で、森の中の足音は、踏みしめる場所によって鳴る音が予測できません。そこで生じる音の非同期に魅力を感じたのでしょうか。他の曲に関しても美しいメロディーの鳴る曲も多いのですが、そんな曲でもバックにはメロディーとは全く関係ない音が鳴り響いており、違和感を覚えるような曲が並んでいます。
そんな実験的な音楽だからこそ、正直言って聴いていて楽しくなったりするような雰囲気はありません。また万人向けではないかもしれません。ただ「非同期の音」という不思議な世界を味わえる(「楽しめる」とは言いません)アルバムになっていました。
思えばここ最近の音楽シーンは、この「同期」という点がかなり強調されているように思います。例えば音楽をバックに素人が踊ってみた動画を動画サイトにアップさせることを前提としたような音楽。アイドルソングも基本的にファンに「同期」させることを目的としていますし、それこそすっかり夏の定番となった「夏フェス」も昨今では各自が自由に盛り上がるというよりも全員一緒に盛り上がるようなパンクロックバンドが主流となっています。
別に教授自体がこのアルバムでそんなシーンに対して積極的にアンチを唱えているわけではないでしょう。ただ、そんな「同期」することを強制させることが多くなってしまった昨今の音楽シーンの中で、あえてこのようなアルバムをリリースするあたり、坂本龍一らしさを感じて非常におもしろく思いました。万人向けのアルバムではないかもしれませんが、非常におもしろい試みを感じた1枚でした。
評価:★★★★★
Title:Year Book 1980-1984
Musician:坂本龍一
で、そんなアルバムと同時にリリースされたのが本作。坂本龍一の過去の作品をまとめたアーカイヴシリーズの第3弾。今回はタイトル通り、1980年から84年に収録された貴重な音源を収録されています。
この時期の坂本龍一といえば1983年に映画「戦場のメリークリスマス」に出演。彼の代表曲として知られる「Merry Christmas Mr.Lawrence」が発表された頃。ちなみに本作にも同作のライブ盤が収録されています。
そんな表舞台での活躍の反面、アルバム全体としては非常にアングラ的な作風に仕上がっています。例えば「Syosetsu」などは劇団員が好き勝手にセリフを発して、そのセリフを収録したような前衛芸術的な作品。ほかの曲も終始、美しいメロディーを奏でるのを拒否するかのような不条理的な調べが流れる曲が多く、どこかダークで怪しげな雰囲気はまさに「アングラ」といった感じを受けました。
80年代のアングラということもあり今聴くと時代を感じてしまうような曲も少なくありません。ただ一方で曲のスタイルとして音と音があえて同期しないような楽曲が多く、それこそ「非同期」な音楽性も感じます。まさに最新アルバムにも通じるような音楽性も感じられ、この時代から坂本龍一の興味はある意味一貫していたのかもしれません。
時代を感じる貴重な音源が多いのでファン必聴の作品。最新作同様、万人受けといった作品ではないのですが、坂本龍一の歩みを知るためには重要なアルバムといえるでしょう。
評価:★★★★
坂本龍一 過去の作品
out of noise
UTAU(大貫妙子&坂本龍一)
flumina(fennesz+sakamoto)
playing the piano usa 2010/korea 2011-ustream viewers selection-
THREE
Playing The Orchestra 2013
Year Book 2005-2014
The Best of 'Playing the Orchestra 2014'
Year Book 1971-1979
ほかに聴いたアルバム
UNDERWORLD/VAMPS
L'Arc~en~Cielのhydeと、Oblivion DustのK.A.ZによるユニットVAMPSの約2年半ぶりのニューアルバム。疾走感あるノイジーなギターサウンドに打ち込みも入り、hydeが歌い上げる耽美的なボーカルがのるいつものスタイル。メタルやインダストリアル色は若干薄くなったようにも思うのですが、基本的にはいつものVAMPSといった感じで良くも悪くも目新しさはありません。ダイナミックなバンドサウンドは楽しむことが出来るのですが。
評価:★★★★
VAMPS 過去の作品
VAMPS
BEAST
SEX BLOOD ROCK N'ROLL
Bloodsuckers
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コメント
VAMPSの新作はどちらかというとゴシックロックな感じがします。
投稿: ひかりびっと | 2017年7月15日 (土) 20時50分
>ひかりびっとさん
ゴシックロックの色も強いですね。
投稿: ゆういち | 2017年7月26日 (水) 23時39分
>ゆういちさん
VAMPSは海外では音楽ファンからメタル扱いされているという噂もあるらしいです。
投稿: ひかりびっと | 2017年7月27日 (木) 09時58分