シューゲイザー四天王による22年ぶりの新譜
Title:Slowdive
Musician:Slowdive
90年代前半、イギリスで一世を風靡したシューゲイザーサウンド。いまなおシューゲイザー系のフォロワー的なバンドが数多くあらわれたり、今年はThe Jesus And Mary Chainが久々となるアルバムをリリースし話題になったりと、今なお音楽シーンには多大なる影響を与えています。その中でシューゲイザーの四天王といわれるのがSlowdive(四天王という言い方からして、明らかに日本だけで用いられている言い方でしょうが・・・)。1995年に3rdアルバム「Pygmalion」をリリースした後に解散したのですが、2014年に再結成。そして今年、22年ぶりとなるニューアルバムをリリースしました。
この手の再結成というと、良くも悪くも回顧的に走るケースがほとんど。実際、The Jesus And Mary Chainのニューアルバムもいいアルバムではあったもののどこか回顧趣味的な部分も否めませんでした。このアルバムも正直言えば、昔ながらという部分も少なからずありました。ただ、そんな回顧的な部分がほとんど気にならなくなるほどの傑作アルバムに仕上がっていたと思います。
とにかく全編通して美しいのが薄く幕がかかったように音楽をつづみこむギターのホワイトノイズの音色。非常に空間を生かしたようなサウンドで、その薄い幕の向こうに見えるのは雄大な宇宙空間。音像の広がりを感じる世界観が繰り広げられていました。
ここに加わるレイチェル・ゴスウェルとニール・ハルステッドのツインボーカルが美しいこと美しいこと。特に「Don't Know Why」や「Everyone Knows」ではレイチェルのウイスパー気味のボーカルが幻想的にギターのホワイトノイズと絡み合い、ドリーミーな世界を作り出しており、思わずうっとり聴き入ってしまいそう。
また「Slomo」や「Star Roving」など、ギターノイズの美しい音の世界の向こう側に流れているのはポピュラリティーのしっかりあるいい意味でわかりやすさのあるメロディーライン。まあもともとシューゲイザー系といえば凶暴的なギターノイズの向こうにポップでキュートなメロディーラインが鳴っているというのがひとつの特徴なのでしょうが、その傾向をしっかりとこのアルバムでも感じることができます。
そんな美しいギターノイズにコーティングされつつも一方では「Sugar for the Pill」では80年代のAOR調の楽曲に仕上げていたり、「Go Get It」ではよりノイズを強調したダイナーな作品になっていたり、ラストを飾る「Falling Ashes」では最初、ミニマルなピアノの音色からスタートし、ツインボーカルの「歌」を聴かせるようになっていたりバリエーションは豊富。もともとSlowdiveもアルバム毎に作風を変えてくるバンドでしたが、このアルバムはそんな彼らの幅広い音楽性も感じることができました。
最初から最後まで聴いていてほれぼれとするような幻想的で非常に美しいアルバムでした。22年ぶりの新譜ながらもそのインターバルをまったく感じさせない傑作。個人的には今年のベスト盤候補の1枚。これからはコンスタントに活動を続けてくれるのでしょうか。次の作品も楽しみです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Be Myself/Sheryl Crow
日本ではあまり人気の出ることの少ないカントリー&ウエスタンのポップソングを奏でながらも、日本でも人気の女性シンガーSheryl Crowの新作。ただ楽曲自体は古き良きアメリカ音楽を奏でつつ、ロック寄りの曲も多く、なによりもポップでメロディアスに仕上げているあたり、日本人にとっても親しみやすく仕上がっています。ただ今回のアルバム、目新しいことはなくよくも悪くも無難な出来に。いい言い方をすると安定感あるポップアルバムに仕上がっていました。
評価:★★★★
Sheryl Crow 過去の作品
HITS&RARITIED
Detours
AFRICA REKK/Youssou N'Dour
おそらくアフリカの音楽シーンの中で最も知名度の高いミュージシャンのひとり、セネガル出身のユッスー・ンドゥール。ちなみに日本でも90年代半ばにホンダ・ステップワゴンのCMソングとして「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」のカバーを歌っていたので30代後半以降の世代なら間違いなく彼の歌声を一度は聴いたことあるものと思われます。
そんな彼は2011年頃より政治活動に専念するため音楽活動を休止してきましたが、このたび久々となるニューアルバムをリリースし話題となりました。楽曲はトライバルなパーカッションや西アフリカの音楽によく聴かれるようなカリブ、ラテン系の音楽の影響の強いサウンドが魅力的。ただ一方でメロディーラインは哀愁感漂うポップなものとなっておりいい意味で聴きやすいアルバムになっています。なんでも全世界でのリリースを当初から視野に入れたアルバムで、あえて聴きやすい内容に仕上げているとか。意図的なセルアウトという言い方もできるかもしれませんが、ただしっかりセネガルの音楽の魅力を伝えた内容になっており、アフリカ音楽になじみない方でもいい意味で聴きやすいアルバムになっていました。
評価:★★★★★
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