弦楽四重奏によるセルフカバー
Title:la RINASCENTE
Musician:KAN
KANちゃんの新作はセルフカバーアルバム。今回のセルフカバーは彼の過去の名曲を弦楽四重奏によるアレンジがほどこされた内容になっており、優雅なストリングスの調べを楽しめるアルバムになっています。タイトルの「la RINASCENTE」とはフランス語で「生まれ変わる」という意味だとか。一時期「フランス人になりたい」とフランスに移住していた彼らしいタイトルになっています。
ちなみにジャケット写真もDonald Fagenの「The Nightfly」のパロディー。まあ、「The Nightfly」のジャケットはよくパロディーに用いられるジャケットなのでパロとして用いるにはちょっとベタなセレクトなのですが、歌詞カードを1ページめくってあらわれる写真はKANらしいお遊びがあらわれます。
さてJ-POPのミュージシャンのセルフカバーでストリングスアレンジを用いてくるというのも正直言ってしまえばよくあるケース。特にオーケストラアレンジをほどこして「ロックとクラシックの融合」と謳い文句のアルバムをつくってくるミュージシャンは昔からゾクゾクと登場してきます。
ただ個人的にこの手のストリングスアレンジアルバムであまり「これ」といった傑作に出会えたことはほとんどありません。一番の理由はその企画の安直さ。原曲をそのままクラシック風にアレンジしただけの結果、ただ単にスケール感を増そうとしたストリングスアレンジが非常に平凡に仕上がったケースがほとんど。ストリングスアレンジとしてもセルフカバーとしても中途半端という出来になってしまっているケースが大半です。
それだけに今回のアルバムに関してもあまり高い期待はしていなかったのですが・・・ただそこはさすがにKANちゃん!私が知っている限りではこの手のセルフカバーアルバムでは一番の出来だったように思います。
ストリングスアレンジによって原曲のイメージが大きく変わった作品はありません。KANの曲の大きな特徴であるピアノの音も変わらず入っています。ただ、弦楽四重奏という最小限のストリングスにおさえられたアレンジは比較的シンプルでムダを感じません。公式サイトの紹介にも「KAN自身による丁寧な編曲」という書き方をしていますが、よくよく練り込まれたアレンジの妙技を感じます。
ご存じ「愛は勝つ」は原曲を持っていたダイナミズムを今回のセルフカバーでも感じられますし、「まゆみ」などは原曲でもストリングスを用いたアレンジでしたが今回のセルフカバーではより優雅さを感じるカバーになっています。また全体的にも楽曲に「優雅さ」を増したように感じた今回のセルフカバー。大衆音楽であるポップソングを貴族的にクラシカルに優雅にまとめているというのもKANらしいある種のユーモアさを感じました。
ちなみに今回のセルフカバーアルバムに書き下ろしの曲が1曲ありますが、イントロ的なインスト作なので過大な期待は不要かと。ただアルバム全体としては彼の名曲をあらたな側面で切りとった非常にユニークなセルフカバーの作品になっていたと思います。KANのアレンジャーとしての才能が光るアルバムでした。
評価:★★★★★
KAN 過去の作品
IDEAS~the very best of KAN~
LIVE弾き語りばったり#7~ウルトラタブン~
カンチガイもハナハダしい私の人生
Songs Out of Bounds
何の変哲もないLove Songs(木村和)
Think Your Cool Kick Yell Demo!
6×9=53
弾き語りばったり #19 今ここでエンジンさえ掛かれば
ほかに聴いたアルバム
Change your pops/雨のパレード
最近注目を集めている新人バンドのメジャー2作目となるアルバム。自らを総合芸術の「創造集団」を名乗っているようで、バンドメンバー4名のほか、デザイナー集団もメンバーを擁するグループだそうです。なんだか「意識高い系」みたいな感じが気になるのですが、ピアノとシンセを主軸としたドリーミーな美しいサウンドに、歌謡曲テイストも感じる哀愁感あふれるメロディーラインにはとても耳を惹くものがあります。ちょっとどこかで聴いたような・・・感が否めず、サウンドにしろメロにしろもうちょっとインパクトが欲しいな、と思う部分は強いのですが、確かにおもしろそうな新人バンドであることは間違いなさそう。今後の成長に期待です。
評価:★★★★
Mr.KingKong/The Mirraz
何の事前告知もなく4月1日にいきなり配信限定でリリースされたThe Mirrazの新作。配信のみでいきなりリリースという形態は海外ではよくあるのですが日本ではまだまだ珍しい感じ。最近はEDM方向にシフトしてしまった彼らですが、この新作はまたパンキッシュなギターロック路線に戻ってきています。
ハイテンポなリズムに早口気味の歌というスタイルも以前のThe Mirrazそのままのスタイル。「ミュージシャンライフ!」や「ボクハ芸能人」のように自虐的に自らの生活を描写するスタイルもThe Mirrazらしさを感じます。ある意味原点回帰的で、世の中を斜めから見たような彼ららしい痛快さも感じるのですが、一方では「飯マズ嫁と僕の物語」のようにネタ的にはユニークなのですが歌詞の内容は薄っぺらい楽曲もチラホラ。早口の歌で歌詞を詰め込んでいるんだから、もうちょっとネタを深掘りしてほしいのですが・・・ここらへんがThe Mirrazがいまひとつブレイクできない原因なのかも・・・。
評価:★★★★
The Mirraz 過去の作品
We are the fuck'n World
言いたいことはなくなった
選ばれてここに来たんじゃなく、選んでここに来たんだ
夏を好きになるための6の法則
OPPOTUNITY
しるぶぷれっ!!!
BEST!BEST!BEST!
そして、愛してるE.P.
ぼなぺてぃっ!!!
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