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2017年5月27日 (土)

全曲「GET WILD」

Title:GET WILD SONG MAFIA
Musician:TM NETWORK

出ました!ネタ的な意味でもかなり話題となった本作。全4枚組4時間超以上というボリュームある内容のすべての曲が「GET WILD」というとんでもないアルバム。私の記憶ではもともとネット上で全曲「Lifetime Respect」という三木道山のアルバムが発売されたという嘘情報のネタが発端。その後実際に織田裕二の「Love somebody」やm.c.A.T.の「Bomb A Head」、松崎しげるの「愛のメモリー」など、アルバム1枚が1曲の別バージョンの曲が並ぶというネタ的なアルバムがリリースされました。

本作はある意味、その「アルバム全曲が1曲の別ヴァージョン」の究極的な形態。もともと「GET WILD」はいろいろなアルバムに様々なバージョンが形をかえて収録されていたり、シングル曲としても別バージョンが何度も発売されていたりといろんなバージョンがあることは認識されていました。実際、「アルバム1枚すべて同じ曲」のアルバムの先駆け的な存在として2004年にリリースされたボックス盤「WORLD HERITAGE DOUBLE-DECADE COMPLETE BOX」の中に全曲が「GET WILD」という「ALL the “Get Wild” ALBUM」が既にリリースされていたりしました。

それだけTM NETWORKの代表曲として人気を誇る「GET WILD」というナンバー。ただアルバムの中でのメンバーへのインタビューでも語られているとおり若干不思議な曲で、TM NETWORKで一番売れた曲でもなければデビュー曲でもありません。またファンへの人気投票を行っても、ひょっとしたらこの曲が一番好きというファンは決して多くはないかもしれません。個人的にも同じ「シティーハンター」のエンディングテーマとしても「GET WILD」よりも「STILL LOVE HER」の方が好きかもしれません。

しかし楽曲が登場した時のインパクトとしては他の曲と比べてずば抜けたものがあるのではないでしょうか。何よりも本作がタイアップとなったアニメ「シティーハンター」のエンディングの衝撃は今でも忘れられません。アニメ本編の最後のシーンに重なるようにピアノのイントロが静かにスタート。そのアニメの余韻を残すように楽曲がはじまるのですが、このアニメ本編からエンディングテーマへの流れが鳥肌が立つほどカッコいいものがあります。このアニメタイアップの衝撃が「GET WILD」が話題となった大きな要因なのは間違いありません。

そんな「GET WILD」は時代を経て様々なアレンジを施して変化していきます。今回のアルバムではバージョンがリリースされた順に並んでいるだけに、メンバーが、特に小室哲哉が「GET WILD」に対するスタンスの変化がわかり興味深いものがありました。「GET WILD」が最初に大きな変化を見せるのが89年にリリースされた「GET WILD '89」。原曲に対して宇都宮隆のボーカルのサンプリングが効果的に用いていたりして、よりテクノ色が強くなる本作。小室哲哉本人が「最初に僕が『こうなったら良いな』というアレンジに仕上がった」と語っているとおり、完成形と考えていたのか、その後、TM NETWORKがTMNとなり1994年に解散するまでのバージョンは基本的に「'89」に準拠するバージョンとなっています。

ただ「'89」ではアニメでも印象的だったピアノのイントロが削除されています。おそらく小室哲哉はこのピアノのイントロはあくまでもタイアップ向けで楽曲にとっては本来不必要と考えていたのでしょう。ところがおもしろいことにDISC2以降、再結成後のバージョンについてはこのピアノのイントロが復活しており、「'89」よりもむしろ原曲に準拠したアレンジが多くなります。それだけ「シティーハンター」のエンディングに流れたピアノのイントロからスタートするバージョンがファンにとっては印象的だったということでしょうし、TM NETWORKとしてもそんなファンの意向は無視できなくなってきた、ということでしょう。また94年までの活動についてはメンバーの意向が第一となっていたのに対して、再結成後はそうはいかなくなかった、ということを意味しているのかもしれません。

また「GET WILD」の傾向としてもうひとつ顕著だったのが、最近のバージョンになればなるほどイントロが長くなってくるという点でした。もともと94年の最初の解散時までのバージョンも徐々に長くなっていたのですが、ここ最近ではそれがさらに顕著。Disc3に収録されている2015年以降のバージョンでは20分近い長いバージョンとなっているのですが、10分以上がイントロと、既にイントロ部分だけで別の曲になってしまっています。

その長~いイントロを聴いて気がついたのですが、(うすうす感じていたのですが)正直言って、このイントロ部分がいまひとつつまんない・・・。はっきりいって単調なトランスで、特におもしろみもない単調なリズムが鳴っていて、音としてもはっとするような驚きのある一音がほとんどありません。

その事実にあらためて気が付いたのが今回のアルバム、あの石野卓球によるリミックスが収録されていたため。この石野卓球によるリミックスは、電気グルーヴの最新作「TROPICAL LOVE」に通じるような雰囲気を持ったラテン風のリミックスなのですが、リズムパターンとかも聴かせるものがあり、また宇都宮隆のボーカルをサンプリングしているのですが、このサンプリングもリズムパターンやサウンドとピッタリマッチ。見事ラテン風な雰囲気の曲に仕上がっています。

しかし興味深いのはインスト曲としてはおもしろさを感じない小室哲哉のサウンドがポップスの「アレンジ」として流れると断然おもしろく曲を引き立てているという点。この言い方がピッタリ来るのが微妙なのですが小室哲哉が立っている土俵ってあくまでも「テクノ」ではなく「J-POP」なんでしょうね。本作ではそのことを再認識することが出来ました。

また今回のアルバム、DISC4として「GET WILD」の曲を様々なミュージシャンがカバーしていたのですが、女性ボーカル曲がイマイチで男性ボーカル曲が曲にマッチしていた点も興味深かったです。おそらく原曲が宇都宮隆のボーカルを意識して作られた影響なんでしょうね。カバー曲をこうやって並べることによってその事実にも気が付かされました。

流れてくる曲が次から次への「GET WILD」なのでファン以外にはあまりお勧めできません。ただ楽曲によってバリエーションが様々だったため、4時間以上の長さにも関わらず、意外とダレずに最後まで聴くことが出来ました。またこれがおそらく「GET WILD」という曲が持っている「曲の力」なんでしょう。万人にお勧めのアルバム、という訳ではありませんがファンにとっては間違いなく聴くべきアルバムでしょう。

評価:★★★★

TM NETWORK 過去の作品
SPEEDWAY
TM NETWORK THE SINGLES 1
TM NETWORK THE SINGLES 2
TM NETWORK ORIGINAL SINGLES 1984-1999
DRESS2
QUIT30


ほかに聴いたアルバム

SHISHAMO 4/SHISHAMO

人気上昇中の女性3人組ロックバンドSHISHAMOのニューアルバム。チャットモンチーブレイク以降、ねごととか赤い公園とか女性オンリーのバンドが増えていますね。彼女たちはその中でも非常にシンプルなギターロックが特徴。歌詞も素直な女の子の気持ちをストレートに描いた曲が多く、良くも悪くも癖のないギターロックを聴かせてくれます。サウンドにもメロにももう一癖あればよりおもしろいと思うのですが・・・。

評価:★★★★

SHISHAMO 過去の作品
SHISHAMO 3

LIFE IS A MIRACLE/黒猫チェルシー

黒猫チェルシーといえば最近はバンドよりもボーカル渡辺大知の俳優としての活躍が目立ちますが、バンドとしても活動を再開。約4年3ヶ月ぶり、久々のアルバムがリリースされました。黒猫チェルシーといえば以前からガレージサウンドがメインながらもどこかポップの色合いを強く感じましたが、久々の新作に関してもガレージサウンドをメインとしつつポップで端整にまとめあげているのが特徴的。以前の作品に比べてより「ポップ」としての側面が強調されたアルバムになっていました。もっと多くのリスナー層に受け入れられてもよさそうな印象が。残念ながら俳優渡辺大知の知名度がバンドに及んでいないようで売上的には苦戦しているようですが、今後の彼の活躍次第ではバンドのブレイクもありえそう。

評価:★★★★

黒猫チェルシー 過去の作品
All de Fashion
猫Pack
NUDE+
猫Pack2
HARENTIC ZOO
Cans Of Freak Hits

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