ほどよく狂った歌詞が魅力
Title:kitixxxgaia
Musician:大森靖子
大森靖子についてはいままでアルバムを何枚か聴いてきたのですが、正直いまひとつピンときませんでした。狂ったような歌詞の世界観が魅力的・・・といった評価だったのですがいままでのアルバムは、「そんなに個性的か?」と思うほど良くも悪くも優等生的。狂った「ふり」をしているのが強く感じてしまって、音楽誌などの評価と比べていわゆるハイプ的な印象を強く受けていました。
今回のアルバム、もともとは「キチガイア」というタイトルでリリース予定だったそうですが、「キチガイ」という言葉が問題となりタイトル変更。急きょアルファベットで「kitixxxgaia」というタイトルになりました。そういう話題性もともすれば「狙っている」感があり、正直言って今回のアルバムに関してもほどんと期待はしていませんでした。
そして実際に聴いて今回のアルバム。まず結論から言ってしまうと、これが予想外の傑作。正直言ってしまうと、大森靖子の作品の中ではじめて楽しめたアルバムになっていました。
まず1曲目「ドグマ・マグマ」の歌詞から惹かれるものがありました。
「むかしむかしあるところに男と女とそれ以外がいました
むかしむかしあるところに白黒黄色それ以外がいました
むかしむかしあるところにYESとNOとそれ以外があるのに
いつもいつもことあるごと それ以外はなかったことにされました」
(「ドグマ・マグマ」より 作詞 大森靖子)
という歌詞は、ともすれば「中間」「それ以外」を認めない最近の社会を強烈に風刺。かわいらしいポップチューンなのですが、その中に強烈な毒を感じます。
続く「非国民的ヒーロー」は聴いていて神聖かまってちゃん?と思ったのですが、神聖かまってちゃんのの子とのコラボ。作詞は大森靖子本人が手がけ作曲はの子なのですが、このまま神聖かまってちゃんが歌っても違和感のないピッタリなコラボとなっています。社会の枠組みの中に上手くはまりきれない両者の見る世界観は思いのほか近いものであることを感じます。
前半はメロディーラインはポップなのに歌詞が狂ったような歌詞が強いインパクトを受ける作品になっています。「IDOL SONG」はメロディーに関しては今風のアイドルソング。歌詞も素直にアイドルを応援しているような歌詞なのですが、どこか微妙な歪みを感じますし、「JI・MO・TOの顔かわいいトモダチ」もモータウンビートの軽快なガールズポップ風ながらも「乱交」やら「フェラチオ」やら「離婚」やらいきなりドギツイ表現が飛び出したりしています。
メロディーライン的にはポップにまとめつつもその中に強烈な毒を加えてきているのが本作ではより強く感じました。特に前半はその傾向が強く、聴いていてこちらがドギマギしてしまう部分すらありました。
今回のアルバムに関しては多くのゲスト参加も話題に。神聖かまってちゃんのの子もそうですが、「勹″ッと<るSUMMER」ではアイドルグループゆるめるモ!のあのが参加しているほか、「POSITIVE STRESS」はあの小室哲哉が作曲。ただこの曲に関しては大森靖子の色が濃すぎて、あまり小室色は感じませんでした。(サビの入りの部分は小室哲哉っぽい感じはしましたが)
アルバム全体としてアイドルテイストすらあるポップなメロディーが流れていながらも、その中に強烈に狂った部分を感じるのが魅力的な作品。いままでの作品はピンと来なかったのですが、今回のアルバムはかなりはまりました。まあ、個人的な印象で言えば、もっともっと狂っても面白いんじゃないかとすら思うのですが(笑)。いままでネガティブな印象が多かった大森靖子の印象がプラス方向に大きく変わった作品でした。
評価:★★★★★
大森靖子 過去の作品
洗脳
トカレフ(大森靖子&THEピンクトカレフ)
TOKYO BLACK HOLE
ほかに聴いたアルバム
加山雄三の新世界
今年80歳(!)を迎えた加山雄三の生誕80周年を記念してリリースされた企画盤のひとつ。彼の代表曲を様々なHIP HOPのミュージシャンたちがリミックスしたアルバム。サ上とロ吉にスチャダラパー、Rhymesterに水曜日のカンパネラといったメンバーが若大将の楽曲のリミックスを手掛けたほか、ももクロが参加したことでも話題になっています。
ただ正直言ってこのリミックスに関しては加山雄三の曲をつまみ食い的にサンプリングして自分の曲を構築したようなリミックス。正直、個人的に加山雄三の音楽的な魅力っていまひとつわからない部分があるのですが、このアルバムを聴いても加山雄三の音楽が断片的に使われているだけで、その魅力があまりつたわってきません。単なる「素材」として好き勝手やっているといった印象で、あまりリスペクト的なものが感じられなかったのが非常に残念でした。
評価:★★★
2 Tone/蓮沼執太&U-zhaan
音楽家の蓮沼執太とタブラ奏者U-zhaanによるコラボアルバム。蓮沼執太は名前は知っていたものの音源を聴くのはこれがはじめて。U-zhaan目当てに聴いたアルバムだったのですが・・・正直、思ったほどタブラが主役じゃなかった・・・。アルバム全体としてはアンビエントや実験音楽的な要素が強く、ポップな要素は薄め。「スーダラ節」のカバーや「Dryer」などポップテイストの強い曲もあったのですが、全体的にはU-zhaanというよりも蓮沼執太の色が強く出ていたように感じました。
評価:★★★★
U-zhaan 過去の作品
TABLA ROCK MOUNTAIN
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2017年」カテゴリの記事
- 20周年イヤーの最後を締めるアルバム(2017.12.26)
- 5曲中3曲がタイアップ(2017.12.25)
- チャメ~!(2017.12.23)
- 4枚組豪華オールタイムベスト(2017.12.17)
- 赤裸々な本音を強烈なガレージサウンドで(2017.12.16)
コメント