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2017年4月 9日 (日)

いまだに魅力的

今回は中島みゆき関連の3作品の紹介です。

Title:中島みゆき・21世紀ベストセレクション『前途』
Musician:中島みゆき

まずはこちらはベストアルバム。1996年の「大吟醸」以来20年ぶり、という建付けですが、ただ2002年と2013年にシングル曲集がリリースされているので久しぶりという印象はちょっと薄め。なお21世紀ベストと記載がありますが、実際はあの大ヒットした「地上の星」を含めるためか、2000年以降にリリースされた楽曲が収録されています(ただこの曲が1位を獲得したのは2002年であったため、ヒットした時期という意味ではタイトル通り21世紀ベストと言えるかもしれません)。

中島みゆきといえば言うまでもなく大ベテラン中の大ベテラン。デビューから40年以上が経過しており、2000年以降の曲についても決して全盛期とか勢いがあるという表現は出来ません。実際、このベスト盤に収録されている曲は、まさに中島みゆき節ともいえる彼女らしい定着したスタイルの曲ばかりで目新しさはありません。良くも悪くも大いなるマンネリという言い方は出来るかもしれません。

しかし、それにも関わらず凡百のミュージシャンには足元にも及ばないような凄みをこのベスト盤に収録された曲からは感じることが出来ます。インパクト十分すぎるメロディーラインや60歳を過ぎても衰えるどころかさらなる表現力が加わっているボーカルもその凄みの大きな要因と言えるでしょう。ただそれ以上に凄みの大きな要素であるのがデビュー40年を経て全く衰えることのない歌詞。その表現力、インパクトある言葉の選び方、そこから伝えようとするメッセージ性、どれをとっても日本のミュージシャンの中で指折りの実力の持ち主なのは言うまでもないでしょう。特にどの曲に関しても、世の中の弱い立場の人の心境にそっと寄り添うような曲が多く、多くのリスナーの胸をうつ曲はこのベスト盤にも多く収録されています。

特にTOKIOに提供した「宙船」のサビの歌詞

「その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ
おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな」

(「宙船」より 作詞 中島みゆき)

という人生の応援歌的な歌詞ですが、この短い一文だけでも同じ人生の応援歌的な歌詞を歌う某J-POPシンガーが100年たってもたどり着けないような歌詞だと思います。

中島みゆきといえばオリコンチャートでは4つの年代(1970年代、80年代、90年代、2000年代)でシングルチャート1位を獲得した唯一のソロミュージシャンという記録を持っています。2010年代は残念ながらここまで1位獲得曲はありません。ただこのベスト盤を聴く限りでは彼女の実力、魅力に全く衰えはありません。2010年代はあと3年ですが、タイアップなどの条件がよければあっさり1位獲得曲が登場しそう。その変わらぬ凄みを感じるベスト盤でした。

評価:★★★★★

Title:中島みゆきConcert「一会」(いちえ)2015~2016-LIVE SELECTION-
Musician:中島みゆき

で、こちらはベスト盤と同時リリースのライブ盤。タイトル通り、2015年から2016年にかけて実施されたライブツアー「一会」の模様を収めたライブアルバムです。

こちらに関しても基本的にボーカルに安定感があるよな、ということを実感できます。多分、生で聴けばその迫力あるボーカルにゾクゾクくるんだろうなぁ、ということは音源を通じても感じます。ただ、全体的には原曲通りのアレンジ。若干演奏にダイナミックさが増したでしょうか?あまりに安定感ある上手いボーカルで、基本的に原曲を崩したような歌い方はしないので、ライブ盤ならではのおもしろさというのは比較的低めです。

もちろんライブ盤として出来は悪くありませんし、「旅人のうた」「浅い眠り」のようなヒット曲も収録されているためベスト盤とあわせて聴くには最適な選曲かも。ただ、どちらかというと同時発売のDVDの方が(こちらは見ていませんが)魅力的なような・・・。

評価:★★★★

中島みゆき 過去の作品
DRAMA!
真夜中の動物園
荒野より
常夜灯
十二単~Singles4~
問題集
組曲(Suite)

Title:「歌縁」(うたえにし)―中島みゆき RESPECT LIVE 2015―

そしてそんな中島みゆきのベスト盤&ライブ盤と同時にリリースされたのが本作。2015年11月に行われた「中島みゆきRESPECT LIVE『歌縁』(うたえにし)」を収録したのがこのアルバム。中島みゆきを尊敬する11名の歌手が彼女の曲をカバーしたライブイベント。ライブ自体も非常に反響があったようで、今回、ライブアルバムのリリースとなりました。

中島みゆきといえばボーカリストとしても非常に高い実力の持ち主。その彼女の曲をカバーするにはかなりの力量が必要。それだけに正直言えばあまり期待はしていなかったのですが・・・これがそんな予想をはるかに上回る素晴らしい出来のライブアルバムになっていました。

とにかく素晴らしかったのが1曲目満島ひかり「ファイト!」と2曲目中村中「『元気ですか』~怜子」。どちらも楽曲の中に朗読を取り入れて中島みゆきの歌詞の魅力を前に押し出しているカバーとなっていますが、どちらも感情込めて語る朗読の部分も歌の部分も実に魅力的でゾクゾクするような迫力があります。特に満島ひかりってもともとかの三浦大知が所属していたFolderの一員として歌手としてデビューしていたことは知っていましたが、彼女もこれだけ歌が上手かったんですね・・・Folder時代は三浦大知の歌の上手さばかりに焦点があたっていただけにちょっと意外でした。逆に中村中の朗読も天下一品。彼女、ある意味ポスト中島みゆき的な位置にいる歌手だけに、この組み合わせは非常に相性の良さを感じます。

他にも安藤裕子の「世情」も、彼女のイメージとはちょっと異なる太い声を聴かせる迫力ある歌唱が魅力的。華原朋美の「あのさよならにさよならを」も若干不安定さはあるものの伸びやかなボーカルを聴かせ、他の実力派たちに負けていません。なにげにこのくらい低い音の方が彼女の声に合っているかも?

安藤裕子と同じく「世情」をカバーしたクミコもそのビブラートを生かしたボーカルが魅力的。ここらへん、安藤裕子バージョンとの聴き比べもおもしろいかも。坂本冬美や研ナオコの力強いボーカルはまあ予想通りだったのですが、最後を飾る大竹しのぶの予想以上の歌の上手さにもビックリ。調べたら彼女、過去からコンスタントに歌手としても活躍していたんですね・・・。

おそらく熱烈な中島みゆきファンも納得のカバーアルバムだったのではないでしょうか。大きな反響があったこともうなずける実に魅力的なライブ盤でした。

評価:★★★★★

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