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2017年4月28日 (金)

しっかりと「外」も意識

Title:DANCE TO YOU
Musician:サニーデイ・サービス

再結成後は比較的マイペースな活動を続けているサニーデイ・サービス。本作はそんな彼らの約1年10カ月ぶりとなるニューアルバム。製作途中にドラムスの丸山晴茂が体調不良によりサニーデイの活動から離れるといった出来事があり、制作期間もバンド史上最も長い期間が費やされて完成されたアルバムに。ただ、その苦労が報われた傑作アルバムに仕上がっていました。

ここ最近、R&Bやブラックミュージックの要素を取り入れてポップにまとめあげたシティポップのバンドが多く評判を得ていますが、今回のサニーデイはその音楽的要素をシティポップ寄りに大きくシフトしています。いかにも都会的でちょっとエロチシズムを感じるジャケットのイラストもそんなサウンドを象徴するようなものとなっています。

軽快な打ち込みのリズムにちょっと物憂げなボーカルがのる「冒険」などはまさにシティポップへのシフトチェンジを大きく感じる作品でしょう。メロウなメロディーが特徴的ながらもサビの歌詞が妙にインパクトがある「血を流そう」なんかもシティポップ風な楽曲に仕上がっています。このアルバムの中でもっともシングル向けで(実際にリカットされていますし)、良い意味で売れそうなメロディーラインがインパクトある「桜 super love」も爽やかなメロディーが心地よいシティポップな楽曲になっています。

もっとも「シティポップにシフト」という表現を使いましたが、もともとからサニーデイ・サービスは大きな括りではシティポップと評されていたことも多かったバンド。今回の作品では活動再開後の2作品にみられたアコースティック色が薄れ、なおかつ打ち込みを取り入れたことにより、よりシフトチェンジというイメージが強くなった側面もあります。実際、メロディーはなんだかんだいっても曽我部恵一の色は濃く残っていますし、アコギからスタートし哀愁感ある歌謡曲色の強い「セツナ」は初期からのサニーデイの雰囲気をそのまま残しています。

ただ今回の作品、再結成後の2作品とは大きく異なる部分がありました。それはここ最近の作品で強く感じた内向きな雰囲気が全く消えてしまったという点でした。シティポップという最近の流行を追っているという点からまず外向きな姿勢を感じるのですが、楽曲自体がきちんとリスナーを意識してインパクトある作品を聴かせようという姿勢を強く感じます。この作品に関するインタビュー記事で、サラッとつくってしまった前作に比べて「作品作りって、これぐらい大変なんだな」ということを感じたという話をしていましたが、そんな苦労があったからこそなあなあな雰囲気で内向きな作風とならずきちんと広いリスナー層を意識したような作品に仕上がったのではないでしょうか。

ジャケットはどこか暑苦しい雰囲気なのですが、アルバム全体としても「夏」をイメージできるような内容に。爽やかそうなメロディーラインの中に、どこかネチッとした熱を感じるアルバムになっています。この熱量がここ最近のサニーデイ、もっと言ってしまえばサニーデイ解散後の曽我部恵一作品には欠けていた要素。作風的にはちょっと変わったかもしれませんが、内容的には昔のサニーデイが戻って来た、そうとも感じられる傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

Title:桜 super love
Musician:サニーデイ・サービス

で、こちらは「DANCE TO YOU」のメイントラック、「桜 super love」を1曲目にもってきたEP盤。ただし純然たる新曲は2曲のみ。残りは「桜 super love」のリミックスとインスト版、さらには「DANCE TO YOU」収録曲のライブ版に、ちょっとうれしいのはシングル「苺畑でつかまえて」のカップリングでアルバム未収録だった「コバルト」がライブ版ですが収録されています。

新曲2曲に関しては「DANCE TO YOU」の延長線上にあるような作品なのですが、より爽やかな雰囲気の気持ちよいポップチューンに。「DANCE TO YOU」が「夏」がイメージされるようなアルバムだったのに対して、こちらのアルバムは「桜 super love」をはじめ、「春」をイメージされる作品となっていました。

全5曲収録されているライブ音源も魅力的。こちらはオリジナルアルバムに比べてさらにバンド色が強くなり力強い演奏を楽しめる、ある意味サニーデイ・サービスのロックバンドとしての側面を感じられる音源となっています。ちなみに「セツナ」はライブ音源が2バージョン収録。どちらもアレンジ面では大きな差はないものの、2曲目の方がよりアグレッシブな演奏が聴ける内容になっており聴き比べも楽しそうです。

サニーデイのリスナー層のハートに直撃しそうな岡崎京子のジャケット写真も実に魅力的で印象的。「DANCE TO YOU」に引き続き、しっかりと広いリスナー層をきちんと意識した外向きを感じられるアルバムになっていました。「DANCE TO YOU」だけではなくこちらもきちんとチェックしておきたい1枚です。

評価:★★★★★

サニーディ・サービス 過去の作品
本日は晴天なり
サニーディ・サービス BEST 1995-2000
Sunny


ほかに聴いたアルバム

LEGENDオブP-VINE日本語ラップMIX/LEGENDオブ伝説 a.k.a. サイプレス上野

サイプレス上野とロベルト吉野としても活動しているサイプレス上野がDJを行う時の名称、LEGENDオブ伝説。その名前の通り、HIP HOPの「レジェンド」の曲を流しているのですが、本作はレコード会社P-VINEの設立40周年を記念してリリースされたDJ Mix盤。P-VINEからリリースされたHIP HOPの楽曲をミックスした作品となっています。

基本的にはハードコア寄りの作品が多く、アルバム全体としての流れはズッシリと重い感じ。前半はコミカルな作品やアップテンポな作品も並ぶのですが、後半はどんどんとへヴィーになっていきます。ただ最後は再びリズミカルな作品で締めくくり、選曲された楽曲は決してキャッチーな作品ではないものの選曲には惹かれるものがありますし楽曲の流れも非常に上手いものを感じます。日本のHIP HOPの歴史を垣間見れるミックス盤です。

評価:★★★★

LEGENDオブ伝説 a.k.a. サイプレス上野 過去の作品
LEGEND オブ 特選MIX

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アルバムレビュー(邦楽)2017年」カテゴリの記事

コメント

今作のサニーデイはジャケットだけで一味違う予感がしましたよね。
しかし発売当初、ジャケットには惹かれたものの、再結成後のサニーデイには興味が持てなくなっていたので、スルーしてました。
今年になってようやく今作を聞いてみて、ある意味昔のサニーデイが戻ってきたような感じでびっくりしました。(ドラムはほぼいないものの)
今作のツアーに行かなかったことを激しく後悔するような作品でしたね。

投稿: kozy | 2017年4月29日 (土) 00時58分

>kozyさん
そう、再結成後のサニーデイはいまひとつという印象があったのですが、今回のアルバムはいい意味で予想を裏切った傑作アルバムになっていました。これからの彼らの活動も楽しみです!

投稿: ゆういち | 2017年4月30日 (日) 23時56分

再結成後のサニーデイは原点回帰な雰囲気を醸し出していたように個人的に感じていたのですが今回のダンストウユーは一気に雰囲気を変えて来ましたねえ。休止前に出したLOVEalbumの続編のような印象を受けました。パンチドランクラブソングの急かすようなドラム大好きです。

投稿: オジャ | 2017年5月 2日 (火) 00時10分

>オジャさん
確かに「パンチドランク・ラブソング」のドラムはなかなかいいですね!今回はいままでのアルバムと雰囲気を変えてきましたが、結果として大正解だったように思います。これからの彼らに断然期待したくなりました。

投稿: ゆういち | 2017年5月19日 (金) 23時28分

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