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2017年3月25日 (土)

90年代に一世を風靡

Title:Greatest Hits 1991-2016~All Singles+~
Musician:大黒摩季

アラフォー世代なら説明するまでもない話かもしれませんが90年代に大ブームとなった「ビーイング系」。音楽事務所のビーイングに所属したミュージシャンたちが90年代中盤に次々とブレイクし、ヒットチャート上位を占めるなど文字通り一世を風靡しました。

ある意味画一的なビートロックにサビの先頭に決まって曲のタイトルをもってくるわかりやすい歌詞、良くも悪くも「90年代らしいJ-POP」を象徴するような楽曲を次々と発表し、CMやドラマとの積極的なタイアップや深夜番組帯での大量の楽曲CMの放送など、売り方を含めて後のJ-POPシーンに大きな影響を与える一方で、露骨ともいえる商業主義的なやり方や万人受けを追及するあまり一般的になり薄っぺらくなった歌詞、ワンパターンなメロディーラインやアレンジなど音楽的な評価はリアルタイムも現在もあまり高くありません。

個人的にはリアルタイムでも今でもビーイング系はB'zなど一部を除いて基本的に全くいいとは思わないのですが、ふとしたきっかけてちょっと見方が変わったミュージシャンがいました。それが彼女、大黒摩季。彼女もビーイング系全盛期、「DA・KA・RA」「ら・ら・ら」など大ヒット曲を連発。当時人気だったZARD、WANDS、T-BOLANなどと並んでビーイング系の代表的なミュージシャンとして一世を風靡しました。

彼女のイメージがちょっと変わったのが約4年前にリリースされたビーイング系とavex系のヒット曲を集めたオムニバスアルバム。懐かしさもあり聴いてみた一方、内容にはあまり期待はしていませんでした。実際、良くも悪くも期待どおりの内容だったのですが、その中で「あれ、意外といいな」と思ったのが大黒摩季。ビーイング系の曲の歌詞は万人受けを意識した一方、無難な内容に仕上がっていて薄っぺらさを感じるのですが、その中で彼女の曲は女性の本音をきちんと綴った歌詞が強い印象を受けました。

そんな彼女は2001年に一度ビーイングを離れたものの2016年にはビーイングに復帰。そしてリリースされたのが彼女初となるキャリア通じてのベストアルバム。ビーイング時代のみのベスト盤は何度もリリースしていますが、ビーイングを離れていた時代を含めてのオールキャリアでのベスト盤はこれが初。せっかくの機会という訳で、今回はじめて、まとめて彼女の楽曲を聴いてみました。

彼女のベストアルバムを聴いてまず純粋に感じたのは、1枚目、ビーイング系全盛期に彼女が次々と飛ばしたヒット曲に関しては懐かしいなぁと感じます。正直当時は「またビーイング系かぁ」と苦々しく思いながら聴いていた部分もあるのですが、それでもヒット曲をかたっぱしから聴いていた20年以上前のあの頃を懐かしく思い出してしまいます。

そして大黒摩季の曲をあらためて聴いてみると、女性の本音的な恋愛観をしっかりと描いているな、ということを再認識しました。例えば「あなただけ見つめてる」なんかは好きな人にはまっていって自分をなくしてしまっている女性を一途さと怖さの両面からしっかり描いています。一方では彼女の歌詞のセレクトに関してはちょっと癖があって悪い意味での引っかかりが生じてしまっています。例えば大ヒットした「ら・ら・ら」の2番で「TVやマスコミはいったい誰のもの?」という歌詞からスタートします。彼がいなくて寂しいからテレビをつけている女性の心境を歌っているのですが、その中で「マスコミ」という言葉がかなり違和感。ムダなひっかかりがある割には曲や歌詞の流れにもあっていませんし、言語感覚的に違和感があります。

大黒摩季のWikipediaによると彼女の歌詞には一時期「ビーイング・スタッフ」という表記がされていたことがあるようですが、おそらくいまひとつと思われる彼女の言葉の選び方について周りのスタッフが大きく修正していたのではないでしょうか。ただ逆にこの歌詞のセンスの垢抜けなさが、万人受けする表現を意識しすぎてともすれば非人間らしさを感じるビーイング系の歌詞の中で妙な人間味を感じられ、ひとつの魅力になっているように感じました。

逆に今回の曲から感じるマイナス面としては音楽的にいまひとつルースレスな部分。音楽的にルーツ性が薄いのはビーイング系に共通する特徴なのですが、他のミュージシャンたちは第三者による作曲が多いからか、楽曲に統一感があります。

彼女にしても「DA・KA・RA」「熱くなれ」などロックテイストの曲が多く、いかにも90年代的なハードロックテイストのポップスロックは聴いていて素直に楽しくなれるのですが、ポップ色が強い曲だったり、ベタな歌謡曲調の曲もあったり、特にここ最近の曲に関しては方向性がはっきりしません。全体的にサウンド面ではこれが大黒摩季といったスタイルはあまり感じられず、この点に関しては大きなマイナス要素に思います。

良くも悪くもビーイングらしい雰囲気は感じつつも、その中では他のミュージシャンとは異なる個性も感じられる彼女。ここ最近、その方向性にブレを感じる点、気になるところなのですが、このベスト盤を機に、本格的な再活動となった模様。今後、人気が再燃するのかどうかまだわからないのですが・・・いままでのキャリアを今後の楽曲にどう生かしていくのか、注目したいベテランミュージシャンの一人でしょう。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

来し方行く末/高橋優

途中、ベスト盤のリリースがあったものの、オリジナルアルバムとしては約2年3カ月ぶり、ちょっと久しぶりとなったシンガーソングライター高橋優のニューアルバム。先のベスト盤の感想でも書いたのですが、高橋優といえば熱っぽいボーカルにあわせたかのような力強いアレンジ、さらに歌詞も自己主張たっぷりで「押し」ばかりのスタンスが聴いていてちょっと引いてしまう部分のあるミュージシャン。今回のアルバムもまさにそんな「押し」一辺倒なのがいつもの彼らしい感じ。家族の絆的なものを歌った「産まれた理由」や自らの生き方をゴキブリに例えた「Cockroach」などインパクト満点の歌詞も多く、非常に薄っぺらい歌詞ばかりが目立つ最近のJ-POPシーンの中で頼もしさを感じるのですが、いかんせん聴いていてちょっと疲れてきてしまいます。まあ、その「押し一辺倒」なある種のうざったさが彼の持ち味なのかもしれませんが。

評価:★★★★

高橋優 過去の作品
リアルタイム・シンガーソングライター
この声
僕らの平成ロックンロール(2)
BREAK MY SILENCE
今、そこにある明滅と群生
高橋優 BEST 2009-2015 『笑う約束』

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