HIP HOP史に残る名盤を2010年代に「再建設」
Title:再建設的
Musician:いとうせいこう&リビルダーズ
日本のHIP HOPの草分け的作品として知られるいとうせいこう&TINNIE PUNXのアルバム「建設的」。2016年はそのリリースから30年という記念すべき年で、「建設的」にボーナストラックを加えたCDが再リリースされました。このサイトでもそのアルバムを紹介しましたが、本作はそのリリース30周年記念の企画の一環。「いとうせいこう&リビルダーズ」名義となっていますが、リビルダーズはこの日本HIP HOPの草分け的な存在であるいとうせいこうを尊敬してやまないミュージシャンたちの総称。このアルバムは、そんなミュージシャンたちによる「建設的」のトリビュートアルバムです。
以前の「建設的」の感想でも書いたのですが、「建設的」というアルバムは純粋なHIP HOPのアルバムではありません。アルバムの中でHIP HOPは2曲のみ(昨年再発されたアルバムではボーナストラックとしてHIP HOPがもう数曲追加されています)。他の曲はパンクだったりムード歌謡だったり、ノベルティー的な要素が強く、また時代性も強く反映されているため、HIP HOPが主眼というよりも、「建設的」がリリースされた1980年代の世相をアイロニカルにかつコミカルに取り上げた作品という印象を受けました。
今回の「再建設的」でももちろんノベルティー的な要素は強く残されています。例えば大竹まこと、きたろう、斉木しげるというシティボーイズのメンバーによる「俺の背中に火をつけろ!!」はパンクのパロディーともとれる原曲そのままなコミカルな作風になっています。
ただ今回のアルバム、「建設的」のリリースから30年を経過しており、このアルバムがリリースされたバブル経済絶頂期のあの時代と今とでは時代の風潮としては大きな違いがあります。そのためこのアルバムでは、原曲をそのまま取り上げるというよりも、原曲が持っていた音楽的な要素によりクローズして2010年代の音にアップデートしたカバーに仕上がっていました。
そのため原曲が持っていたノベルティー的な要素が若干薄くなっています。例えば「水の子チェリー」は原曲ではあえて裏声で歌うことにより、子供のアニメソングを茶化したようなつくりになっていましたが、この作品ではジャズアレンジに大幅に作り替え、ノベルティー的な要素を消しています。「だいじょーぶ」も原曲では同じく裏声のボーカルがコミカルさを感じましたが、本作でも同じく裏声のボーカルは残っていたものの音楽的な部分によりクローズアップしたアレンジになっており、ノベルティーな雰囲気はかなり薄れています。
「HEALTHY MORNING」も原曲では虚構な家族をパロった、ある意味バブルらしい時代性感じさせる歌詞になっています。今回のアルバムでもその歌詞はそのまま残ったものの、岡村靖幸によりエレクトロニックなアレンジのサウンドが前に押し出され、歌詞の印象はかなり薄くなっています。
原曲と比較して聴くと、原曲をリスペクトして原曲に沿ったようなアレンジの曲も多いのですが、そのような曲にしてもサウンドは現代風にアップデート。「建設的」で感じたいかにも80年代的といった時代性がなくなり、今聴いても全く違和感なく聴けるアルバムに仕上がっています。
個人的には今の時代に聴くと「建設的」よりもむしろ本作の方が楽しめたようにすら感じてしまいます。もっとも「建設的」はあの時代にリリースされたからこそ意味があった訳で、「建設的」よりもこちらが優れている、という訳ではありません。むしろ「建設的」が本来持っており、ともすればノベルティー的な要素のため影にかくれてしまっていた音楽的な部分を抽出し、時代を超えた今のリスナーにもわかりやすく表現してくれたのが本作ではないでしょうか。タイトル通りまさに「建設的」を2010年代に「再建設」したのが本作。「建設的」も日本音楽史上に残る名盤として聴いておきたい作品ですが、その前にこのアルバムを聴けばより「建設的」も魅力的に聴こえるかもしれません。
評価:★★★★★
いとうせいこう 過去の作品
建設的(いとうせいこう&TINNIE PUNX)
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