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2017年2月 6日 (月)

あなたの知らない世界

今回紹介する本は、70年代から80年代、日本にインディー系のロックバンドが萌芽してきた頃、そんなインディー勢のさらに地下でうごめいていた音楽シーンの状況を追った一冊、「地下音楽への招待」。1978年に吉祥寺で開店した伝説的なライブハウス「マイナー」を中心軸としてその周辺のフリージャズやサイケロック、パンクロック、アバンギャルド系のミュージシャンの活動について紹介しています。

著者は本人も70年代後半から80年代にかけて数多くのインディー系バンドで活動した剛田武(・・・ジャイアン?)。彼が当時の地下音楽近辺で活躍していたミュージシャンたちや、それにとどまらずイベントのオーガナイザー、この手の音楽を多く取り扱っていたレコード店の店主、音楽雑誌の編集長などにもインタビューを試み、音楽のみに留まらず、その当時のアンダーグラウンドなミュージックシーン全体を読み取ろうとした非常に丁寧かつ奥深い仕事ぶりが目立つ作品となっています。

はっきりいってしまうと私自身、本書で紹介されているアンダーグラウンドミュージックは全く詳しくありません。この本で頻繁に登場する灰野敬二はさすがに知っていますが、本書で「ある程度意識的に日本のロックを聴く者ならば必ずどこかで出会うはずの名前」と紹介されている工藤冬里については残念ながら完全に初耳でした。ただ、本書でもインタビューを受けている竹田賢一率いるA-Musikについては、ソウルフラワーユニオンと組んで曲をリリースしている影響で知っていたのですが・・・。(あと、ソウルフラワーがらみといえばモノノケ・サミットの一員である大熊ワタルが登場してきたのもちょっとビックリしましたが)

また正直言ってこの手のアンダーグラウンドミュージックが好きかどうかといわれると非常に微妙。例えばフリージャズとかオーネット・コールマンや阿部薫を聴いたことはあるのですが、正直全く楽しめませんでしたし、サイケやプログレもポップなメロが入ったわかりやすさがないとあまり好きになれないタイプ。個人的にはミーハーな耳を持っていると自認しているので、おそらくリアルタイムにこういうシーンのことを知っていたとしても興味は持ったかもしれないけどはまれなかっただろうなぁ、とは思います。

ただそんな私でもこの本は非常に楽しめる一冊となっていました。自分の全く知らない世界、あるいはほとんど縁のない世界について垣間見るようなワクワク感を覚えながら読み進めていきました。参考文献の欄などを除き全416ページというボリュームで本自体もとても分厚いのですが、一気に読み進めることが出来ました。次から次へと見ず知らずの固有名詞が飛び出すのですが、それに対して膨大な量の注釈がついているのも本書の特徴。この注釈もまた、当時のシーンを知るのに重要な情報となっています。

ここで紹介されているアンダーグラウンドシーン自体、政治的にもアンダーグラウンドなシーン、例えば新左翼とリンクするような部分が若干あります。暴力をもいとわない極左的な思想には全く共感しないのですが、それでも社会的に「やばい」部分を外からこっそり垣間見るような感覚というのもまた、この本を読むうえで感じたわくわく感の一因のように感じます。

そして音楽を紹介する一冊だけに読んでいく中でどうしても気になるのは彼らがどういう音を奏でていたか、ということなのでしょうが、それも特典CDとして70分以上の音源がついてくるというありがたい仕様となっています。本書で紹介されたミュージシャンやイベントでの貴重な音源が収録されており、現場でどのような音が鳴り響いていたかがわかります。

アンダーグラウンドなシーンの紹介ですが、本書自体はインタビューを中心として理路整然とした構成になっており読みやすさがあるのですが、それを一気に覆すのが第13章の山崎春美へのインタビュー。「私はこの本を認めない」と宣言した彼へのインタビューは、インタビュー記事自体、彼自身により大幅な加筆が行われています。「この本を認めない」とするのはこの本で主軸として取り上げられている園田佐登志に対する反感がメインにあるようですが、その肝心な園田佐登志へのインタビューの中で「この間、山崎(春美)と話して」という一文があり、両者の交流も垣間見れるため、山崎春美のこの檄文も一種の彼なりのパフォーマンスなのかもしれません。

本書で若干残念だったのは70年代80年代のアンダーグラウンドシーンにスポットをあてられて、そのシーンのその後への影響がほとんどわからなかったこと。唯一、第10章で紹介されているアンダーグラウンドなレコード店、モダーンミュージックとのかかわりにおいて坂本慎太郎や、ゆらゆら帝国やORGE YOU ASSHOLEのプロデュースでも知られる石原洋が登場する程度。またこのようなアンダーグラウンドシーンの現在の状況もわからない点も残念に感じました。

そんな気になる点もありつつも、70年代80年代のアンダーグラウンドシーンが手に取るようにわかる力作。おそらくアンダーグラウンドミュージックにほとんど興味がなかったとしても自分の知らない世界を垣間見る快感に楽しめる作品ではないでしょうか。かなり分厚い本書のボリュームや3,000円強というちょっとお高めの値段にたじろいでしまうかもしれませんが、それを差し引いてもお勧めできる一冊です。

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