北関東のヤンキーの日常
Title:EverydayIsFlyday
Musician:Ryugo Ishida
前回に引き続き、今回のアルバムも2016年に評判が良かったアルバムのうち、聴き逃していたアルバム。今回もミュージックマガジン誌の2016年ベストアルバム、日本のラップ/ヒップホップ部門で2位を獲得したアルバムで、リアルタイムでは聴き逃していたためいまさらながら聴いてみました。
今回紹介するミュージシャン、Ryugo Ishidaは茨城県土浦市出身の男性ラッパー。親からの虐待や両親の離婚、身内や身近な仲間の死などといった強烈なバックグラウンドの中で育ち、自身もいわゆる「不良」として荒れていたとか。実際の彼女であるSophieeとのユニットでは「ゆるふわギャング」と自称するなど、彼もまた日本のギャングスタ的な位置づけにあるラッパーの一人だそうです。
先日紹介したBAD HOPもいわばアンダーグラウンド的な位置に生きる人の日常を描いた歌詞でしたが、彼もまた彼自身の日常をそのままリアルに綴っているリリックが大きな特徴となっています。
ただ彼が描いているのはいままであまりスポットがあてられなかった日本の底辺のリアルを描いた、というよりも地方の、それも東京近郊のヤンキーの日常。どちらかというと80年代あたりからよくスポットを当てられていたテーマでもあり、例えば氣志團がパロディーとして取り上げた舞台設定もまさにこれだったりします。
実際彼自身、まさにこの80年代的な不良にスポットをあてた尾崎豊にも影響を受けているようで、今回のアルバムでも尾崎豊の曲のいわばキラーワードである「盗んだバイク」という言葉をつかった「Fifteen」なんて曲が登場したりもします。
そういう意味では彼が取り上げているテーマは日本の音楽シーンでもよく取り上げていたテーマを2010年代の今、HIP HOPというスタイルでアップデートした作品と言えるのかもしれません。この手のテーマはちょっと前までは(それこそ氣志團がパロディーとして取り上げたのが特徴的なのですが)手垢のついたテーマとして忌避すらされていたのですが、一回りして再び新鮮さを感じるテーマとしてよみがえったと言えるのかもしれません。また、それだけ昔も今も普遍的なテーマと言えるのでしょう。
そんなテーマのリリックをエレクトロベースのダークでちょっとけだるさを感じるトラックをバックにラップしていきます。比較的シンプルな音のトラックで、ちょっと退廃的な雰囲気も漂うのは、今の北関東地域の郊外の状況を描写するかのよう・・・といったら偏見でしょうか。彼の綴るリリックのテーマにもピッタリくるようなトラックでした。
そのリリックのリアリティーも印象的ですし、トラックとの相性も抜群。リリックに重い部分はありつつもポップな印象にまとめあげており、いい意味で聴きやすさもあるアルバムでした。年間2位はそれほどなのかなぁ・・・という印象もなきにしもあらずですが、これからの活躍も楽しいになる1枚です。
評価:★★★★★
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