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2017年1月31日 (火)

黒人女性のやるせなさと自立を歌う

Title:A Seat at the Table
Musician:Solange

2016年、非常に大きな話題となったアルバム、それがBeyonceの「Lemonade」でした。夫であるJay-Zの浮気というパーソナルな問題からアフリカン・アメリカンの女性がかかえる社会問題にまで昇華した傑作アルバムはリリース直後から大絶賛を浴び、年末恒例の「2016年ベストアルバム」では軒並み上位にランクインしてきました。

今回紹介するSolangeはご存じの方も多いかと思いますがBeyonceの実の妹。本作はそんな彼女の8年ぶりとなる新作なのですが、これが大絶賛を集め、ビルボードチャートでは自身初となる1位を記録。さらに年末の「2016年ベストアルバム」では姉のアルバムと共に数多くのランキングで上位を記録。全体的にはむしろ「Lemonade」以上に絶賛を集める結果となっています。

この新作、偶然なのかもしれませんし、ある意味必然なのかもしれませんがBeyoneのアルバムと同様、黒人女性としての自立、社会の中で差別され続けるやるせなさがテーマとしています。楽曲の中でもこのテーマ性を強く歌われているのですが、特徴的なのが全21曲中9曲をも占めるインターリュードのトラック。うち2トラックでは彼女の両親が人種的経験を語っているそうですし、また残りのトラックについてはラッパーのマスター・Pによるモノローグにより人生訓と言えるものが語られています。

一方でBeyonceの作品と対照的だったのがBeyonceの作品が力強い、ある意味「怒り」をもって楽曲が綴られているのに対してSolangeのアルバムは、美しい歌声でメロウに歌い上げる曲が続いているという点でした。ある意味「淡々と」という表現もピッタリくるような作風で、その黒人女性としての怒りのパワーがわかりやすく表現されていたBeyonceと比べると、若干の「わかりにくさ」すら感じます。実際、私も最初聴いた時は、この作品、さほどピンと来ませんでした。

ただ、そのやさしさを秘めた歌声がとても美しくて実に見事。必要以上に感情的にならずメロウに歌い上げているがゆえに聴けば聴くほど心に響いてきます。また決して派手さはないのですが、彼の歌声のバックに流れるアレンジも非常に印象に残ります。いわば今時のエレクトロサウンドを主体としたアレンジなのですが、アンビエントテイストのサウンドが静かに流れてくるスタイル。音数を絞りつつも、ベースラインやリズムトラックが力強く響いてくるサウンドは、彼女の歌声と同じく、やさしさを感じつつも一方で力強い芯の強さを感じました。

メッセージ性という観点では日本人としてストレートに響いてこないのが残念なのですが、一方でそういった点を差し引いても彼女のメロウな歌声に徐々にはまっていくような傑作アルバムだったと思います。大絶賛も納得の2016年を間違いなく代表するアルバムと言えるでしょう。

2016年といえば、ご存じの通り、人種差別的な発言も目立ったトランプがまさかの大統領就任ということで大きな話題となりました。ある意味アメリカが秘めている病巣が奇しくもこういう形で表に出てきてしまったわけですが、一方でそんな年にBeyonceに、さらにSolangeが、黒人女性という二重の意味で差別される存在の自立を高く歌い上げた傑作をリリースしてきたというのは実に印象的な出来事と言えるでしょうし、逆にアメリカという国のいい意味での包容力の大きさも感じました。彼女たちのメッセージが今年はより大きな形で実を結べばいいのですが。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Blackstar/David Bowie

2016年になって早々、いきなり音楽ファンに大きなショックを与えたデヴィット・ボウイ急逝のニュース。そんな彼がその死の直前にリリースし結果的に遺作となったのが本作。ジャズミュージシャンを起用して話題となったアルバムは全体的にメロウな雰囲気はあるものの、必要以上にジャズ寄りになることなく、全7曲入りなのですがメロウなメロディーラインを聴かせるような曲からピアノやサックスで賑やかに仕上げたポップ、ドラムのリズムが前に出てくるようなナンバーなど7曲7様。多彩な彼の才能を感じることが出来る作品になっています。

最後の作品がこれだけの充実作というのは実に驚き。逆にだからこそ、このアルバムのリリース直後に届けられたデヴィット・ボウイ死去のニュースが大きな驚きをもって迎え入れられたのですが・・・。最後を飾る「I Can't Give Everything Away」は明るい作風ながらもどこかメロから切なさを感じてしまうあたり、彼自身おそらくこれが最後とわかっていた覚悟の作品だったんだろうなぁ、ということを感じさせてしまいます。多くのメディアに2016年のベストアルバムとして選ばれている本作。正直、香典代わりの評価的な部分もあるとは思うのですが、それを差し引いても2016年を代表する作品という意見には納得が出来る傑作でした。

評価:★★★★★

David Bowie 過去の作品
The Next Day

K2.0/Kula Shaker

1995年にメジャーデビュー。デビューアルバム「K」がいきなり全英第1位となる大ヒットを記録。その当時のブリットポップの流行にのり一躍人気バンドとなったイギリスのロックバンドKula Shaker。その後1999年には解散してしまうものの2005年に再結成。その後数枚のアルバムをリリースしていますが本作は前作「Pilgrim's Progress」から6年ぶりとなる新作となりました。

タイトル通り、デビュー作であり大ヒット作である「K」の続編をイメージさせるような内容。冒頭、いきなりシタールの音色からスタート。もともとインド音楽からの影響が強かった彼ららしい楽曲からスタートします。その後も比較的王道路線のギターロックが多い中、エスニックな雰囲気を醸し出しているのが彼ららしいところ。フォーキーな要素も強く、メロディアスなポップが楽しめる内容になっていました。

彼らのアルバムは一通り聴いているのですが再結成後では一番の出来だったように感じます。良くも悪くも昔の名前で出ています、的な部分は否定できないのですが、昔からのファンにとっては納得が出来る内容だったのではないでしょうか。彼ららしい傑作アルバムだったと思います。

評価:★★★★★

Kula Shaker 過去の作品
Revenge of the king
STRANGE FOLK
Pilgrim's Progress

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