« 再結成後も勢いは衰えず | トップページ | 今週も初登場は少なめ »

2017年1月10日 (火)

若さゆえの勢いあふれる代表作

Title:Lovin'you -30th Anniversary Edition-
Musician:渡辺美里

1986年にリリースされた渡辺美里の2ndアルバム「Lovin'you」。大ヒットして渡辺美里の名前を一躍有名にした「My Revolution」リリース後に発売されたアルバムで自身初のチャート1位を獲得した作品となりました。当時若干19歳だった彼女ですが、アルバムは2枚組というボリューム。10代の邦楽ミュージシャンで2枚組アルバムをリリースしたケースはこれが初だったそうで、そのボリューム感も大きな話題となった作品です。

昨年、彼女のデビューアルバム「eyes」が30周年記念盤としてリリースされましたがそれに続き今年は本作が30周年記念盤としてリリースされました。リマスタリングの上、Blu-spec CDとしてリリースされ、さらに初回盤には第1回の西武スタジアムでのライブを収録したDVDがついてくる内容になっています。

さて、渡辺美里の最高傑作、と言われた時、おそらくファンの人気は本作か1988年にリリースされた「ribbon」あたりに集中するのではないでしょうか。正直言ってしまうと純粋に楽曲の出来だけで言ってしまうと「ribbon」の方が上。「Lovin'you」は決して「最高傑作」と言えるほどの出来ではありません。

本作は全20曲中16曲を岡村靖幸と小室哲哉が手掛けています。今となっては押しも押されぬ大物ミュージシャンの2人ですが、岡村靖幸はまだデビュー前。小室哲哉にしてもTM NETWORKが「Get Wild」でブレイクする前という、両者とも無名のライター。正直、小室哲哉楽曲にしても大ヒットした「My Revolution」「Teenage Walk」のようなのちの小室メロディーにつながる傑作は多いものの「This Moment」「雨よ降らないで」のような単調なメロディーも目立ちまだまだその才能をフルに発揮されていません。岡村靖幸にしても「Lovin'you」のような名バラードを生み出しているものの、彼の「売り」となる黒さ、ファンキーさはまだ鳴りを潜めています。

しかし、渡辺美里というミュージシャンが80年代後半から90年代にかけて一時代を築いた理由は間違いなくこのアルバムがリリースされたからであり、なおかつ、それゆえにこのアルバムが多くのファンに「最高傑作」と称されているのです。

彼女が80年代から90年代にかけて一時代を築いたのはこのアルバムで歌われた彼女の叫び。彼女がこのアルバムにおいてテーマとしているのは10代ティーンエイジャーという大人と子供の境にいる微妙な世代の人たちの本音。この世代ならではの複雑な心境が前向きなメッセージと共に歌われています。そんなメッセージを当時19歳の彼女が歌う訳ですから非常にリアリティーを持って響いてきます。そしてそんな彼女のメッセージが同世代の若者に絶大な支持を得て、一躍、時代の寵児となったわけです。

このティーンエイジャーの複雑な心境は前作「eyes」でも歌われていますが、残念ながらこのアルバムが最後。その後も若者の本音を前向きなメッセージと共に歌う曲は少なくありませんが、彼女自身が20代30代となっていき、徐々に「普通のラブソング」へとシフトしていってしまいます。そういう意味でも彼女が若者世代の絶大な支持を得た「コア」な部分がつまったアルバムは本作まで、ということになってしまいます。

またメロディーに関しても、上で岡村靖幸、小室哲哉ともにまだまだその才能をフルに発揮していない、と書いたものの、一方でこのデビュー直後のこの時期にしか発揮されないような勢いを感じさせます。小室哲哉自身、この時期の渡辺美里への楽曲提供について、採用されるか相当緊張した旨のコメントを述べていますが、無名のライターだからこその一生懸命さが楽曲からも伝わってきます。だからこそ、楽曲としては後の作品に比べて拙さを感じる部分があっても、それ以上に胸をうつような魅力があふれているのでしょう。

それは渡辺美里のボーカルについても同様。この時期のボーカルは声量はあるものの、後の作品のような表現力はあまりありません。しかし、このアルバムで聴かれる初々しさを感じるボーカルは歌詞の世界にもマッチし、非常にリアリティーがあって響いてきます。

まさに彼女が19歳という年齢で、岡村靖幸、小室哲哉をはじめとした初々しい才能と出逢えたからこそ生み出すことが出来た奇跡の傑作と言える本作。その内容はアラフォーの私が今聴いても、非常に胸をうつものがありますし、当時彼女と同年代だった方はおそらくすでにアファフィフになっていますが、その方にとっても間違いなく胸をうつでしょう。またひょっとしたら、今19歳という方にとっても心に響いてくるものがあるかと思います。

間違いなく渡辺美里の代表作であると同時に80年代の邦楽シーンを代表する傑作アルバム。ちょっと残念なのは30周年記念盤といっても未発表音源などが含まれていないのと、あと西武スタジアムの映像は出し惜しみしないでフルで見たかったな・・・。そこらへん、残念に感じる部分はあるのですが、久しぶりにこの傑作を聴いて、懐かしさを感じると同時に、非常に満ち足りた気持ちとなりました。リアルタイムでファンだった方はもちろん、今のティーンエイジャーにもぜひとも聴いてほしい傑作です。

評価:★★★★★

渡辺美里 過去の作品
Dear My Songs
Song is Beautiful
Serendipity
My Favorite Songs~うたの木シネマ~
美里うたGolden BEST
Live Love Life 2013 at 日比谷野音~美里祭り 春のハッピーアワー~

オーディナリー・ライフ
eyes-30th Anniversary Edition-

|

« 再結成後も勢いは衰えず | トップページ | 今週も初登場は少なめ »

アルバムレビュー(邦楽)2017年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/505136/69117565

この記事へのトラックバック一覧です: 若さゆえの勢いあふれる代表作:

« 再結成後も勢いは衰えず | トップページ | 今週も初登場は少なめ »