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2017年1月14日 (土)

日本HIP HOPはじめの一歩

Title:建設的
Musician:いとうせいこう&TINNIE PUNX

最近ではすっかり日本にも定着したHIP HOPというジャンル。ただ以前はラップという特異なスタイルからかなかなか日本にも定着せず、また「日本語ラップ」というといまでもネガティブな文脈で語られることもあり、日本においてHIP HOPが定着するまで数多くの先人たちの努力がありました。

今回紹介するアルバムはそんな日本におけるHIP HOPの先駆け的存在として知られるアルバム。タレント的イメージが強いものの、今でも□□□に参加して活動を続けるなどミュージシャンとしての活躍も知られるいとうせいこうが、藤原ヒロシ、高木完が組んだユニットTINNIE PUNXと共にリリースしたアルバムで、日本においてアメリカのHIP HOPを意識してリリースした最初のHIP HOPのアルバムと言われています。

2016年9月21日はこのアルバムがリリースしてからちょうど30年となる節目の年だったそうで、オリジナルに収録された9曲にボーナストラック4曲を含めた全13曲で再発売ということになりました。

このアルバムを聴く前は最初期のHIP HOPということもあり、今聴くと「これがHIP HOP??」なんて感覚になるノベルティー色の強い作品になっているんじゃないかな、と思って聴いてみたのですが・・・1曲目「MONEY」はまさにそんなHIP HOPの作品だったのですが、これが今聴いても予想以上に本場アメリカのHIP HOPマナーにきちんと沿っている、紛うことなきHIP HOPとして仕上がっていました。タイプ的にはBeastie BoysやらRUN D.M.C.やら同世代のHIP HOPとそのままリンクするような音。ギターの音が前に出されていてタイプ的にはロック色も強く、Beastie Boysに近い印象を受けます(ただ彼らのデビューアルバム「Licensed to Ill」は1986年11月リリースで本作より2ヶ月ほど後なんだよなぁ・・・)。

もう1曲「東京ブロンクス」にしてもトラックにちょっとジャジーな雰囲気を感じさせる部分もあり、トラックは今聴いても十分すぎるほどカッコよさを感じさせます。どちらの曲も日本語のリリックもきちんとリズムに載せており、ほとんど違和感がありません。最初期からここまでのレベルに達していたというのは正直ちょっと驚きでもありました。

ただアルバムとしては本編でHIP HOPはこの2曲のみ。他の曲に関しては例えば「俺の背中に火をつけろ!!」はパンク風、「恋のマラカニアン」はムード歌謡曲と、むしろその時代の流行の曲のパロディーのようにも感じました。そういう意味ではアルバム全体としてはノベルティー色も強く、今聴くと時代を感じるような部分もありました。

そういう意味ではHIP HOPのアルバムとしてかまえて聴くとちょっと期待はずれと感じるかもしれません。ただ日本のHIP HOP史において必ず語られる1枚であり、「お勉強」的要素を含めて聴くべき1枚だとは思います。なによりHIP HOPの2曲は今聴いても十分カッコイイ作品。その出来のよさにちょっと驚いてしまいました。

評価:★★★★

Title:業界くん物語

で、同じくいとうせいこうの楽曲で、日本における初のHIP HOPの曲として語られることも多い「業界こんなもんだラップ」。この作品を収録したオムニバスアルバムが「建設的」より1年前、1985年にリリースされていますが、本作がはじめてCD化されリリースされました。

「業界くん物語」はいとうせいこうが講談社に勤務していたころに雑誌「Hot-Dog PRESS」で担当していた漫画。これに派生してビデオやCDがリリースされたそうですが、本作はその企画の1枚ということになります。

さて、本作の1曲目に収録されている「業界こんなもんだラップ」。こちらは「建設的」以上にノベルティー色が強いのですが、楽曲としてはこちらもまたきちんとHIP HOPマナーに沿った本格的なHIP HOP作品。「日本で初のHIP HOP作品」でありながら、そのクオリティーの高さには驚かされます。

ただこのアルバム、曲は事実上4曲のみ。他のトラックはすべてコントになっています。「Hot-Dog PRESS」という名前も、また「業界」という言葉も、あまりにバブルのイメージそのままなのですが、コントの内容もまさにバブル期そのもの。今でも笑いのツボとしては有効で十分笑えるものもありますが、その一方、今となってはかな~り時代を感じるものが少なくありません。今回、31年ぶりに初のCD化ということですが、確かにこれ、わざわざいまさら聴きなおしたいと思わないよなぁ・・・。

もっとも本作に参加したメンバーが非常に豪華なのも特徴的。おそらくリアルタイムでは知る人ぞ知る的な若手だったんでしょうが、今となってはこれだけのメンバーをそろえるのは難しいだろうなぁ。ちなみに「パパ・ママ・アキラ」はエロコントなのですが、聴いた後に参加している演者の名前を知ったら、間違いなく萎えると思います(笑)。

そんな訳で積極的にお勧めしがたい1枚ではあるのですが・・・ある意味、あの時代を知るためには貴重な資料ともいえる作品。少なくとも、音楽トラックに関しては聴きごたえあるかと思います。

評価:★★★

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