小説の世界観とリンク
Title:虚無病
Musician:amazarashi
その独特の世界観が高い人気を誇るロックバンド、amazarashiの新作は5曲入りのミニアルバム。「独特な世界観」・・・というのははっきりいってしまうと「中2病的」な世界観。自意識を拡大させ世の中をどこか斜めから見て現実に悲観するという、思春期独特の心の状態。それが彼らの音楽の大きな特徴でした。
今回のミニアルバムに関してはその方向性がさらに振り切れたように感じます。まず「虚無病」というタイトル。いかにも彼らが考えそうなタイトルですし、今回は初回版としてこのアルバムに沿った小説も発表され、初回盤に同封されています。またこの小説の登場キャラクターのビジュアルも紹介されており、ジャケット写真の不気味なキャラクターは小説の登場キャラの一人のようです。
そんな自意識が肥大した中、人とのつながりの中でもがいていく姿が今回のアルバムでは強く描いているように感じます。例えばタイトルチューンとなる「虚無病」では
「夢もない 希望もない 目的もない 味方もいない いない いない
人が嫌い 世界が嫌い 言葉が嫌い 過去 未来 怖い 怖い 怖い」
(「虚無病」より 作詞 秋田ひろむ)
とかなりこの世界でもがき苦しむ姿をストレートに描いています。
ただ一方でその先の生きる希望を同時に歌っており特にそれが印象的だったのが「僕が死のうと思ったのは」。もともと中島美嘉に提供した楽曲のセルフカバーだそうですが、タイトルそのまま自死をほのめかすように曲がはじまりながらも、最後は
「僕が死のうと思ったのは まだあなたに出会ってなかったから
あなたのような人が生まれた 世界を少し好きになったよ」
(僕が死のうと思ったのは」より 作詞 秋田ひろむ)
と逆説的に生きる希望について歌っています。
そんな全5曲のミニアルバムなのですが、どれもかなり情報量が詰め込まれた物語性もある歌詞が特徴的で、どっしりと重いボリューム感を覚える作品。楽曲はバンドサウンドにピアノやストリングスを取り込んで美しい音色で構成されたもの。目新しさはないもののピュアな雰囲気のするサウンドは秋田ひろむの書く世界観にもピッタリマッチしています。
さらに今回のアルバムでは「明日には大人になる君へ」と「メーデーメーデー」ではラップの要素を取り入れた歌詞が心に残ります。ラップのスタイルや言葉の使い方など露骨にTHA BLUE HERBの影響を受けていますが、楽曲の中で物語をつむぎ自らの主張を伝える秋田ひろむのスタイルには最適な方法のように感じました。
そんな訳で5曲入りのミニアルバムながら、というよりも5曲のみのアルバムだからこそ、いままで以上に秋田ひろむの世界がさく裂したミニアルバムになっていたと思います。残念ながらまだ同封された小説は読んでいないのですが(公式サイトで一部公開された部分は読んだのですが)、このスタイルはまたいつかやりそうだなぁ。
評価:★★★★★
amazarashi 過去の作品
千年幸福論
ラブソング
ねえママ あなたの言うとおり
あんたへ
夕日信仰ヒガシズム
あまざらし 千分の一夜物語 スターライト
世界収束二一一六
ほかに聴いたアルバム
FANFARE/JUN SKY WALKER(S)
2012年の再結成後積極的な活動を続け、早くも再結成後4作目となる新作をリリースしたジュンスカ。メロディアスなポップスパンクはそれなりにインパクトもあるのですが、小さくまとまってしまった感は否めず。再結成直後のアルバムはそれなりに社会に対して中指をたてるような「パンク」をしていたのですが、ここ最近の作品はどうも平凡なポップスロックになってしまっているように感じます。演奏は安定感があり、ベテランらしい底力も感じるのですが。
評価:★★★
JUN SKY WALKER(S) 過去の作品
B(S)T
LOST&FOUND
FLAGSHIP
BACK BAD BEAT(S)
eureka/04 Limited Sazabys
今年4月に自らが主催するロックフェスを開催して話題となったロックバンドの新作。本作ではオリコンチャートで5位にもランクインし、今もっとも勢いのあるバンドの一組でしょう。メロコア的な要素の加わったポップでキュートなメロのインパクトは前作より増しており、強く印象に残ります。相変わらずJ-POP的なルーツレスのベタなメロディーラインとバリエーションの少なさは気になるところなのですが、今回はアルバム35分一切飽きることなく楽しむことが出来る作品になっていました。
評価:★★★★
04 Limited Sazabys 過去の作品
CAVU
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2016年」カテゴリの記事
- ファンによる選曲がユニーク(2016.12.27)
- パンクなジャケット写真だけども(2016.12.24)
- バンドの一体感がさらに深化(2016.12.23)
- 初のフルアルバムがいきなりのヒット(2016.12.20)
- 10年の区切りのセルフカバー(2016.12.17)
コメント
BLUE ENCOUNT同様にメロディーラインとバリエーションが増えたら化けるかもしれませんね、04 Limited Sazabysは。
投稿: ひかりびっと | 2017年3月15日 (水) 18時36分
>ひかりびっとさん
確かにフォーリミはメロはポップでインパクトがあるだけに曲のバリエーションが増えればもっとおもしろいかもしれませんね。
投稿: ゆういち | 2017年3月20日 (月) 23時48分