大統領選に対する力強いメッセージだが・・・。
Title:THE PARTY'S OVER
Musician:Prophets Of Rage
日本でもテレビ局で選挙速報が組まれるなど大きな注目をもって迎えられ、その結果に衝撃と失望をもたらしたアメリカ大統領選挙。その選挙にあわせて結成され大きな話題となったバンドがありました。RAGE AGAINST THE MACHINEのトム・モレロを中心として結成されたバンド、Prophets Of Rage。この名前はPublic Enemyの曲から取られたのですが、そのPublic Enemyのチャック・Dも参加。他にもレイジからブラッド・ウィルク、ティム・コマーフォードが参加しているほか、サイプレス・ヒルのBリアルも参加しているというスーパーグループに。レイジのザック・デ・ラ・ロッチャが参加していないのが非常に残念なのですがその豪華なメンバーが大きな話題となりました。
今回彼らは、ドナルド・トランプが共和党代表として選出された共和党大会にあわせて新曲を発表。同じくその党大会が行われたクリーブランドでライブを行うなど積極的な活動が目立ちます。RAGE AGAINST THE MACHINEもニューヨーク証券取引所の前でゲリラライブを行い話題となるなど過激ともいえる政治パフォーマンスが話題となったバンドですが、彼らもそのスピリッツを引き継いだバンドと言えるでしょう。
そんなそれぞれキャリアがあるミュージシャンたちの集まりだけあって楽曲は文句なしにカッコいいです。RAGE AGAINST THE MACHINEを彷彿とさせるゴリゴリなギターリフ主導のへヴィーなバンドサウンドに、チャックDとBリアルの2MCもしっかりと息のあったラップを聴かせてくれます。RAGE好きなら文句なしにはまりそうな内容だと思います。
ただ期待通りではあったものの期待以上ではなかった点がちょっと残念。チャック・DやBリアルを迎えたことであらたなケミストリーが産まれたかといわれると若干疑問符がついてしまいます。また大統領選のあわせて急きょ結成、新曲リリースとなった影響か、本作も純然たる新曲はタイトルチューンの「The Party's Over」1曲のみなのもちょっと残念。もう1曲のスタジオ音源「Prophets Of Rage」はPublic Enemyの曲をバンドアレンジでカバーした曲ですし、残り3曲はレイジやPublic Enemyのカバーのライブ音源となっています。
またもうひとつ、今回のアルバムで気になったことがあります。それは唯一の新曲が「The Party's Over」ということ。ここでいうパーティーはこの曲が発表された段階では共和党の代表として選出されたトランプに対してお祭り騒ぎは終わったというメッセージがあったのと同時に、共和党時代に対して「政党中心の政治は終わった」というメッセージを発したというダブルミーニングがあったものと思われます。
しかし今回の大統領選挙、各種報道から考えるとあきらかに既存政党に対して失望していた人々がクリントンではなくトランプに投票したものと思われます。もちろんProphets Of Rageのメンバーがアンチ・トランプなのは明確なのですが、「政党中心の政治は終わった」というメッセージは見方によってはむしろトランプを支持した人たちに対するメッセージにも捉えられかねないものとなっています。ここにどこかProphets Of Rageをはじめリベラル勢の意識と現実とのギャップを感じざるを得ません。
今回トランプが予想外の活躍を見せ、まさかの大統領に選出されてしまったのはリベラル勢の意識やメッセージと、それを受け取ってほしいと思っている一般市民の問題意識や現実とのギャップが大きな要因のように思われてなりません。今回の「The Party's Over」というタイトルにはそんな「ギャップ」を強く感じてしまいました。
トム・モレロはじめ彼らの積極的な活動には敬意を表しますし、多くのミュージシャンが発したメッセージに反してドナルド・トランプが大統領になったのは私も非常に残念に思います。ただこのアルバムではリベラル勢がいま陥っているある種の落とし穴を感じてしまいます。そして翻って日本でも、リベラル勢が似たような落とし穴にはまってしまっており、ある意味、ドナルド・トランプが出てくる前のアメリカに非常に似たような状況を感じてしまいます・・・。このアルバムでProphets Of Rageのメンバーが発したいメッセージとはおそらく異なるとは思うのですが・・・ただそんなリベラル勢が今、全く人気を得られない理由のひとつをまじまじと感じてしまったアルバムでした。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2016年」カテゴリの記事
- 18年ぶりの新作はラストアルバム(2016.12.26)
- いかにもメタリカらしい(2016.12.25)
- 今後のBON JOVIの方向性を示唆(2016.12.19)
- 中性的なフレンチテクノ(2016.12.13)
- 「映画」のようなアルバム(2016.12.10)
コメント