シンプルに聴かせるメロディーが魅力的
Title:プリテンダー
Musician:荒井岳史
the band apartのボーカリスト荒井岳史によるソロ2枚目となるアルバム。今回のアルバムではプロデューサーに□□□の三浦康嗣を起用。前作に引き続き同じく□□□のベースの村田シゲやASPARAGUS、the HIATUS、さらにはMONOEYESとして活動しているドラムスの一瀬正和が参加という豪華な布陣でも話題となりました。
これは前作のレビューでも書いたのですがthe band apartというバンド、個人的に好きなバンドのひとつなのですが、正直ここ最近、マンネリ気味という印象もあり作品の出来はいまひとつ、という印象がありました。しかし荒井岳史のソロ前作「beside」は最近のthe band apartとはうってかわった素晴らしい傑作に仕上がっていました。
そしてソロ2枚目となるアルバム、今回も前作と同様、非常に素晴らしい出来の傑作アルバムに仕上がっていました。おそらくその理由は単純で、シンプルにメロディーと歌詞を主軸に据えたシンプルなポップスに仕上げていたからと思われます。前作は哀愁感あふれるメロディーラインと歌詞がとても魅力的なアルバムになっていましたが今回もその方向性が引き継がれた作品となっていました。
特に哀愁感が強いという意味では中盤の「花火」が聴かせます。切ないメロディーラインはインパクトもありいい意味でのヒットポテンシャルも感じる作品。情景が浮かぶような歌詞も大きな魅力に感じます。薄く重なってくるストリングスも哀愁感を強く醸し出しています。そしてインターリュードを挟み続く「あきらめの街を抜けて」も同じく郷愁を感じるメロと歌詞がインパクト。暖かいイメージのあった「花火」とは対照的にエッジの効いたドラマチックさも感じさせるサウンドも魅力的です。
そんなシンプルに歌詞とメロディーを聴かせる作品がメインとなる中でもバラエティーのある構成になっているのも魅力的。1曲目を飾る「あの夏のイリュージョン」は90年代初頭あたりのJ-POPを彷彿とさせる楽曲。今となっては若干チープさも感じさせるアレンジも、アラフォー世代からするとどこか懐かしさを感じさせてくれます。
「サヨナラを君に言う」はジャジーなアレンジが魅力的な作品。このジャジーな雰囲気はthe band apartにつながる部分があり、the band apartのファンなら気に入りそうな作風。「TMKN」はホーンセッションも入りつつファンキーなダンスチューンになっており中盤のインパクトに。ラストを締めくくる「ワンモアタイム」はゲストボーカルに岩崎愛を起用した男女デゥオ。ちょっと渋谷系っぽい雰囲気がアルバムの中では異色となっていますが、これもまたバラエティー富んだ本作の魅力のひとつと言えるでしょう。
基本的な路線は前作と同様なのですが、シンプルにメロディーの良さが前に出ているだけにマンネリといった印象はなく、素直に心に染みいってくる傑作に仕上がっていました。前作同様、the band apartファンなら間違いなく楽しめる楽曲である一方、the band apartよりも暖かさを感じるメロディーに心惹かれる内容になっています。またインパクトという面では前作よりもより強くなっていた印象も。バンドでの活動以上にソロとしての今後が楽しみになってくるアルバムでした。
評価:★★★★★
荒井岳史 過去の作品
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ほかに聴いたアルバム
Out Of Blue/GOING UNDER GROUND
河野丈洋脱退でついに3人組となったGOING UNDER GROUNDの約2年5カ月ぶりとなる新譜。GOING UNDER GROUNDらしい暖かさを感じさせるギターロックに、ノスタルジックでちょっと甘酸っぱさも感じされる歌詞が魅力的。ラストの「the band」も彼ら自身について歌った曲で、等身大の自分たちを描いている歌詞が実に魅力的。目新しさはないもののGOING UNDER GROUNDの魅力をしっかり伝えてくれたアルバムでした。
評価:★★★★★
GOING UNDER GROUND 過去の作品
おやすみモンスター
COMPLETE SINGLE COLLECTION 1998-2008
LUCKY STAR
稲川くん
Roots&Routes
SHAAA!!!/TOMOVSKY
猫が威嚇した時の声をつかったタイトルがユニークなTOMOVSKYの新譜。ジャケットもかわいらしいです。基本的にはいつものTOMOVSKYと同様、ギター、ピアノ、シンセなどを用いたがらくたのような楽しいポップソングが主軸。そしてTOMOVSKYといえば注目したい歌詞なのですが今回はそれなりにがんばっているものの、どこか怠惰な部分もぬぐえない人間の素直な気持ちを歌ったような歌詞が多く、誰もが共感できるような内容に。ただ「お、こんな視点もあるのか」といったような独自の視点の歌詞が今回は出会えなかったのがちょっと残念。
評価:★★★★
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