ライブで見て気になったので・・・。
Title:Faransiskiyo Somaliland(邦題 愛しきソマリランド)
Musician:SAHRA HALGAN TRIO
今回紹介するアルバムは、今年8月にライブへ足を運んではじめてその曲を聴いたソマリランド出身のシンガー、サハラ・ハルガンを中心に結成された3人組バンドのアルバム。ライブに足を運ぶまでは全く知らないミュージシャンだったのですが、8月に行われたスキヤキ・ナゴヤのステージで彼女たちのライブに魅了され一気に気になる存在となり、さっそく(といいつつ、ライブから2ヶ月近くの月日が経ってしまいましたが・・・)聴いてみた彼女たちの最新アルバムです。
その時のライブレポはこちら
ソマリランドというのは、国際社会の中ではアフリカ北部の国、ソマリアの中の一部とされている地域。ソマリアは時々日本でも話題になるのですが、内戦状態が続いており、全く統一された国として機能していないいわば「戦国時代」状態が続いている国なのですが、その中で独立を宣言しているソマリランドはソマリアとは対照的にアフリカの中でも珍しい平和で治安のとれた状態が続いている国だそうです。
彼女はもともとソマリランドでシンガーとして活動していたそうですが、内戦状態の中で1992年にフランスへ亡命。その後、国外で活動を続けていく中で、スイスのギタリスト、マエル・サラートとBKO QUINTETとしても活躍しているパーカッションのエムリック・ルロールの3人でバンドを結成したとか。その後、ソマリランドの状態が安定したこともあり彼女は故郷、ソマリランドへ戻ったようですが(その模様を記録したドキュメンタリー映画が本作にDVDでついています)、ソマリランドに戻る前の「記録」的にリリースされたアルバムともいえるのが本作のようです。
ライブで彼女たちの曲を聴いた時の印象としてはサハラ・ハルガンの力強いボーカルが印象的で、かつこぶしを効かせる楽曲はどこか日本の演歌にも通じるような部分を感じ、親近感を抱きました。その印象はアルバムを聴いても基本的にはかわりません。「DAGAL」や「GUNTANA」などはまさしくそういったこぶしを効かせた力強いボーカルを聴かせてくれる楽曲。アルバム全体としても基本的にサウンドはシンプルでサハラ・ハルガンの歌が主軸となっており、哀愁感あふれるメロディーラインは日本人の琴線にも触れそうなもの。いい意味で日本人にとっても聴きやすいアルバムだったと思います。特に「ALAH INU KU DHAWRO」などはアコギの演奏と彼女の歌だけのシンプルな構成。悲しげなメロディーラインと彼女の包容力あるボーカルが心に突き刺さる「歌」を聴かせる楽曲になっています。
ただ一方でアルバムで聴くとライブの時は強く印象には受けなかった「アフリカ」的な部分も多く見受けられます。「HOBAA LAYOOW HEEDHE」をはじめコールアンドレスポンスをメインとした構成にトライバルなパーカッションを入れた楽曲が多く、アフリカの音楽は「アフリカ音楽」と単純に一言では言い表せられない多様性があることは重々承知なのですが、いかにもアフリカらしい構成の楽曲が目立ちます。最後を締めくくる「BOTOR」などはまさにコールアンドレスポンスとパーカッションのみから構成された楽曲で、非常に土着的な雰囲気を感じます。
ソマリランドの伝統音楽に西洋的な音楽を加味したような楽曲は私たちにとっても聴きやすく、またそのメロディーラインは日本人の琴線に触れそうな親近感も。一方ではソマリランドの空気もしっかり伝えてくれるような楽曲になっており、ライブで感じた魅力をCDでも味わえた一方でライブとはまた違った魅力にも気が付かされるアルバムになっていました。
ちなみに上にも書いた通り、彼女が亡命先からソマリランドへ帰還するドキュメンタリー映画のDVDが付いてきます。残念ながら国内盤でも日本語字幕はないのですが、英語字幕はついているのでそれを追いかければなんとなく内容は理解できるかも。亡命前の彼女の姿をうつした貴重な映像や現在のソマリランドの様子も映し出されており、非常に興味深いドキュメンタリー映画となっていました。
そんな訳でアルバムは文句なしの傑作でお勧めの1枚なのですが・・・ただちょっと苦言を・・・今回、ライスレコードからリリースされた国内盤をリリースされていたのですが、国内盤の仕様にはかなりガッカリしました。Amazonでは輸入盤が2,246円に対して国内盤が3,657円と1,000円以上の差があるのですが、違いがライターによる紙1枚の解説のみ。歌詞の和訳もなければ上にも書いた通り、ドキュメンタリー映画の日本語字幕もついていません。
ライスレコードは様々なワールドミュージックを日本に紹介してくれるレーベルでその活動には敬意を表したいのですが、さすがに今回のアルバムに関しては国内盤で1,000円以上金額を上乗せしているのは酷い・・・。ライターによる解説も、ソマリランドの歴史の解説にWikipediaを平気で使用しているし・・・金をとるプロのライターが参考文献にWikipediaを使うなよ(怒)。
そのため、上のリンクはあえて輸入盤の方をはっています。内容的には文句なしの傑作。ただし気になった方は国内盤ではなく輸入盤で十分だと思います。
評価:★★★★★
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