ハイスタの売り方は「パンク」なのか?
今週のHot 100
http://www.billboard-japan.com/chart_insight/
突然のリリースが大きな話題となりました。
16年ぶりの新作となるHi-STANDARD「Another Starting Line」が今週1位を獲得。今回、大きな話題となったのがその売り方で、事前告知一切なし。発売日(の前日)に突然CDショップにCDが並ぶというサプライズを演出しました。ちなみに配信はおろかAmazonなどの通信販売もなし。「CDショップに足を運んでCDを買ってそれをプレイヤーで聴くワクワク感」を意図した演出と思われ、配信時代に逆行するその売り方に彼ららしいと大絶賛で迎え入れられました。オリコンでももちろん1位を獲得。その初動売上で13万5千枚を記録し、16年前の前作「Love Is A Battlefield」の初動14万7千枚(3位、ただしオリコンではアルバム扱い)からほとんど変わらないという結果に、多くのリスナーがハイスタを待ち望んでいたことが伺えます。
・・・・・・が、個人的には今回のハイスタの売り方に対する大絶賛にはもやもや感をぬぐえません。
だってそもそも「CDショップに足を運んでもらおう」という発想自体が古臭いおやじ世代的な価値観。ましてや「CDで買ってもらおう」というスタンス自体、CDを制作し流通させCDショップで発売するという旧態依然とした既存のシステムを守ろうとするスタンス。既存の価値観、システムをぶっとばそうとするパンクのスタンスからはむしろ真逆のように思います。これってやり方は異なれど握手券をつけてファンに大量にCDを買わせようとするアイドルの商法と根っこの部分の考え方は一緒なんじゃない?
例えばここのサイトでも以前紹介したことがあるアメリカのラッパーでChance The Rapperというミュージシャンがいるのですが、彼などはいままでリリースした曲はすべて無料での配信。それにも関わらず高い人気と評価をあつめ、ついには有料で販売した作品のみというグラミー賞の規定を変えさせるのではないか、とまで噂されるほど。ある意味、こちらのやり方の方がよっぽど「パンク」なようにも思います。今回の売り方について「配信時代のアンチテーゼ」という評価も見受けられたのですが、その「アンチテーゼ」の結果、「CDで聴く」という昔のスタイルに戻るのって、パンクどころかかなり保守的な考え方だと思うのですが・・・。
2位には先週9位にランクインしていた星野源「恋」がCD発売にあわせて一気にランクアップしてベスト3入り。CD売上・ダウンロード数・ストリーミング数(以下「実売数」)及びPCによるCD読取数で2位、ラジオオンエア、Twitterつぶやき数で1位、You Tube再生回数でも5位と万遍なく上位にランクインしています。ちなみにオリコンでも初動売上10万2千枚で2位初登場。前作「SUN」の5万1千枚(2位)からも倍増という結果に。間違いなく今、もっとも勢いのあるミュージシャンと言えるでしょう。
3位はまだまだ強いRADWIMPS「前前前世」。先週の2位からワンランクダウンながらもベスト3をキープ。ただ残念ながら「なんでもないや」「スパークル」は今週、ベスト10から落ちてしまい、RADWIMPSの複数枚同時ランクインの記録も途切れてしまいました。
続いて4位以下の初登場です。まず4位にも今話題の曲がランクイン。自称千葉県出身のシンガーソングライターピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」が配信オンリーながらもこの位置にランクイン。楽曲としては1分程度のネタ動画で、元底ぬけAIR-LINEの古坂大魔王演じるピコ太郎によるネタ。ただその中毒性ある歌詞が話題となり、あのジャスティン・ビーバーも絶賛。1週間のYou Tube再生回数が世界一を記録するなど、大ブレイクしています。チャート的には実売数は31位ながらもYou Tube再生回数ではもちろん1位を記録。Twitterつぶやき数でも3位を記録しており、初登場で見事ベスト10に食い込んできました。
続く5位にはSEKAI NO OWARI「Hey Ho」がCDリリースにあわせて先週の26位からランクアップしベスト10入りしています。彼ららしいストリングスやホーンを入れてファンタジックに仕上げたポップナンバー。実売数で4位を記録しているほか、ラジオオンエア数及びPCによるCD読取数でも3位を記録しています。オリコンは初動5万9千枚で3位初登場。前作「SOS」の5万7千枚(1位)よりアップ。ただし前作は金曜日発売となっており集計期間が短く初動売上枚数を落としていました。
6位初登場はE-girlsの藤井萩花・藤井夏恋の姉妹ユニットShuuKaRen「UNIVERSE」が先週の37位からアップしてベスト10入り。ちょっと90年代っぽさも感じるEDMチューン。実売数では3位、PCによるCD読取数で7位、Twitterつぶやき数で9位を記録していますがラジオオンエア数は23位と伸び悩みました。なおオリコンでは初動売上5万5千枚で初登場4位を記録しています。
7位にはAAA「涙のない世界」が先週の14位からランクアップしこの位置。実売数は5位、Twitterつぶやき数6位の一方、ラジオオンエア数34位、PCによるCD読取数は73位という結果に。iTunesのランキングを見る限り、配信でもそこそこ売れているようですが、全9種リリースによる複数枚買いの影響もありそう。オリコンでは初動売上4万7千枚で5位初登場。前作「NEW」の3万5千枚(3位)からアップ。
最後9位には男性アイドルグループMAG!C☆PRINCE「Over The Rainbow」が初登場でランクイン。実売数6位以外はすべてチャート圏外という結果に。CDの発売形態は7種同時リリースだったようですが、複数枚買いの影響も大きそう。オリコンでは初動売上4万枚で6位初登場。前作「Spin the Sky」の3万8千枚(2位)からは微増。
今週のHot100は以上。明日はアルバムチャート!
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コメント
ハイスタの売り方はパンクではないかもしれません。どうせならゆういちさんのおっしゃる通り、同じゲリラリリースなら無料配信した方が良かったかな?とも思います。
ただ、彼らは音源を直接手に取って欲しいという想いがかなり強いので…こういう形になったのかなと思います。
実際、個人的にはこのニュースにかなりワクワクさせてもらいましたし、ここまで急いで新譜を買いに行ったのは久々でした(汗)
正直、今勢いのある星野源より売れるとは驚きでしたが、ロック好きとしてはハイスタやRADWIMPSが話題になるのは嬉しい限りです。もっとロックバンドが売れて欲しいんですけどね…長文失礼致しました。
投稿: ASP | 2016年10月13日 (木) 00時12分
今回のゲリラリリース、試み自体は凄く面白いし、情報化社会でSNSも発達した現代だからこそよりプロモーション効果が発揮されてこの結果に至ったようにも思います。
ただ、やはり僕もゆういちさんと似たようなもやもや感ありますね。
音源にこだわる気持ちも分からないでもないんですけど、配信時代に対抗ってあたりがどうにも時代の変化を受け入れられずに、昔の価値観を押し付ける中年みたいに思えちゃって。
配信しないことにより折角、今回のことで興味を持った若い層への間口も狭めてる感じでより一層、CD全盛時代に青春時代を送った人たちだけで盛り上がってるような内輪感を感じでしまいました。どうせならワンコインで出して買いやすくしてみるとか、無料で配信してみるとかもっと幅広い層を巻き込んでほしかったなぁと思いました。音楽へのワクワクって何もCDを買うことだけにあるわけじゃないですからね。
まぁなんだかんだ言いつつアラサー世代の僕は今回のリリースは懐かしく感じましたし興奮したのも事実ですが(笑)
投稿: 亮 | 2016年10月13日 (木) 23時07分
>ASPさん
音源を手に取ってほしいという意図は非常によくわかるのですが、それを含めて正直パンクとは相反するおやじ的な価値観だと思ってしまうんですよね・・・。
ただ、RADWIMPSといい彼らといいロックバンドが売れるというのはやはりうれしいです。個人的には星野源の新譜もかなりいい感じだと思うのですが、ここらへんのミュージシャンにはもっともっとがんばってほしいです。
>亮さん
もやもや感を共有してもらってありがとうございます(笑)。
この情報化された社会の中であれだけ情報を出さずにいきなりリリースというのはすごいとは思うのですが、根本にある価値観がやはりおやじ的なんですよね。
そういう私もすっかりアラフォーで、いまでもCDは毎月多く買っているので、彼らの価値観もいやというほどわかるのですが、逆にその価値観がよくわかるだけに余計に違和感を持ってしまいます。
投稿: ゆういち | 2016年10月15日 (土) 23時27分
お久しぶりです
今回の、ハイスタのゲリラリリースというのは、『配信に対する答え』なのでしょうが、そういう『音源を足で探す喜び』みたいなのが、どうしても懐古趣味にしか見えないというのが、問題なんだと思います
同時期に久々の新作を出した宇多田ヒカルさんのクレバーな感じの方が、良しかれ悪しかれ『今』の感じがします
投稿: yono | 2016年10月18日 (火) 01時55分
>yonoさん
そうなんですよね。配信に対してアンチを提示するのはありなんですが、その結果がどうも懐古趣味なんですよね。少なくともパンクではないと思うのですが・・・。
投稿: ゆういち | 2016年10月22日 (土) 01時18分