生存者のためのアルバム
Title:アダンバレエ
Musician:Cocco
約1年10ヶ月ぶりとなるCoccoの新作。前作ではEDMの曲にも挑戦しリスナーを驚かせた彼女でしたが今回の作品は比較的彼女らしいシンプルな構成になっており、あくまでも彼女の歌を聴かせる内容に。そしてその内容は「Coccoの曲を聴いたなぁ」という満足感のあるものになっていました。
基本的にシンプルなギターロックをバックにCoccoが歌い上げるというスタイルはいままでと一緒。ミュージカル風の「椿姫」やヨーロッパのトラッド風の「Rosheen」なんて曲もあったり、「常情嬢」なんかは「パヤパヤ」なんていう昔の昭和歌謡風なコーラスがユニークなハードロック風ナンバーだったりとそれなりのバリエーションも楽しめますが、なによりもCoccoの歌が印象に残る作品になっています。
今回、CDの帯には「今を生きるすべての生存者<サバイバー>に捧げます。」というメッセージが書かれていますが、今回のアルバムは「生存者<サバイバー>による生存者<サバイバー>のためのアルバム」がテーマだとか。Coccoといえばデビュー以来、自らの命を削り取って歌を紡いでいくようなスタイルを続けており、いつか消えてしまうのではないかという危うさを感じていました。ただ、それを乗り越えた今、「生存者」としてあらたに自らを見つめるアルバムというのが本作、ということなのでしょうか。
実際、今回のアルバムはCoccoらしい現実に対する悲し気な視点を感じつつも、一方では全体的に明るさも感じます。特に最後を締めくくる「ひばり」では
「どうして世界を
諦められよう?
あなたが歌う
歌が聞こえるわ」
(「ひばり」より 作詞 Cocco)
と、非常に明るい未来を見つめたような歌詞で締めくくられますし、終わった恋について歌った「有終の美」でも
「いつだって きっと
ちゃんと 笑ってるよ
私は 大丈夫」
(「有終の美」より 作詞 Cocco)
と前向きに締めくくっています。そんな前向きな感情を歌っているだけにデビュー当初の彼女のような一度聴いたら忘れられないようなどぎついインパクト満点の歌詞はありません。ただ、「生存者」となった彼女は、そんなどぎついフレーズをわざわざ歌う必要が今となってはなくなったのではないでしょうか。
ただインパクトあるフレーズが減ったのは事実ですが、力強いCoccoの歌声に聴きはじめると知らず知らずと惹きつけられる傑作なのは間違いありません。Coccoにしか作れない、彼女の個性がしっかりとつまったアルバムでした。安定感とある種の貫録すら感じられるアルバム。Coccoを聴いた、という満足感を味わえるのと同時に、初期のCoccoでは感じられなかった未来に対する明るさも感じられるそんな1枚でした。
評価:★★★★★
Cocco 過去の作品
エメラルド
ザ・ベスト盤
パ・ド・プレ
プランC
ほかに聴いたアルバム
ANTITHESE/MY FIRST STORY
最近、人気上昇中のロックバンド。本作では初となるベスト10ヒットも記録。ボーカルHiroはONE OK ROCKのTakaの弟ということでも話題に。楽曲はダイナミックなロックナンバー。タイプ的にはONE OK ROCKに似ている感じが。1曲1曲はカッコいいけども似たような曲ばかりで正直、最後の方は飽きてきた・・・。ONE OK ROCKの亜流的なイメージも強く、もうちょっと楽曲のバリエーションとバンドとしての個性が欲しいところ。
評価:★★★
lovefilm/lovefilm
活動休止中のthe telephonesの石毛輝と岡本伸明が、The PatやPINK POLITICSで活躍する高橋昌志とさらにモデルで女優の江夏詩織を迎えて結成した新バンド。the telephonesの後釜的バンドながらもディスコ色は薄く、むしろポップスバンドといった感じ。ポップなメロに男女デュオというスタイルで、どこかN'夙川ボーイズと似たような感じのするバンド。そういう意味では嫌いではないのですが、インパクトという面ではN'夙川ボーイズほどのインパクトはなく、若干二番煎じというイメージも・・・。
評価:★★★★
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