ベタな90年代J-POP
Title:WE
Musician:家入レオ
これが4枚目となる家入レオのニューアルバム。今回の彼女の作品、大きく変わった点がひとつありました。それは前作までプロデュースを担当し、作曲編曲の多くを担当していた西尾芳彦に変わり、Superflyのメインライターとして活躍している多保孝一が多くの曲の作曲編曲、さらにはプロデュースを担当していること。4枚目にして他の作家と組んで新たな一歩を歩みだしたといったイメージでしょうか。
ただし、基本的な路線はいままでの彼女と大きくは変わりません。イメージとしては90年代初頭のバンドブームあたりのガールズロック路線。以前のレビューでも書いたのですが、いわゆる「おっさんホイホイ」的なよくも悪くもわかりやすさのある楽曲。それは今回のアルバムでも健在でした。
しかしいままでの作品と比べて今回のアルバム、その路線がさらに明確に強まったような感じがします。いままでの楽曲に関しても90年代のJ-POP路線が鮮明であった一方でそれなりに今風のヒット曲路線ともリンクさせたような曲が目立ったのですが、今回の作品についてはもろ90年代J-POP。ある意味懐かしさを感じてしまうほどの楽曲で、90年代バンドブームで出てきた女性ボーカルのロックバンド、例えばプリプリやレベッカ、LINDEBERGあたりにダイレクトにつながりそうな楽曲が展開されています。
今回メインのライターが多保孝一に変わりましたが、彼がメインで活躍していたSuperflyといえば、むしろ70年代のロック志向が強い楽曲が特徴的。そういう意味で90年代J-POP路線は彼の得意分野ではないはず。あくまでも推測ですが、彼が家入レオの楽曲を担当することになり、彼女のいままでの楽曲のイメージから90年代J-POPというイメージをふくらませていった結果、彼がいままで手掛けてこなかったようなジャンルであることもあって、逆に「ベタ」な路線に走ってしまった・・・そんな印象も受けてしまいました。
楽曲によっては90年代というよりも「シティボーイなアイツ」や「そばにいて、ラジオ」のように80年代っぽさすら感じさせる楽曲もあったりして。特に「そばにいて、ラジオ」は福岡のラジオ局のキャンペーンソングという性格上、仕方ないのかもしれませんが、
「いつの間にか忘れてた
大切な思い出と共に
変わらずに そばにいて、ラジオ」
(「そばにいて、ラジオ」より 作詞 家入レオ)
なんて歌詞、悪いけど今21歳の彼女が、そんなにラジオを聴いていた、とは思えないんだよなぁ・・・。なんとなくちょっとわざとらしさも感じてしまいます。
さすがにデビュー当初の彼女のような「中2病」的な要素を感じさせる歌詞はなくなりましたが、前向きな応援歌的な歌詞は良くも悪くも相変わらず。また「中2病」的な歌詞がなくなった代わりに、歌詞のインパクトも少々薄くなってしまったのは残念。ここらへん、20歳を過ぎて大人になってきた彼女がその人生経験の中、いかに新たな歌詞の世界を構築できるかもこれからの課題ような気がします。
そんな訳でアラフォー世代で90年代初頭のバンドブーム時代の楽曲になじんできた私にとっては懐かしさもあり楽しめたアルバムでしたが、いろんな意味で気になる要素も多いアルバムでした。個人的にはこの手の方向性も楽しめるものの、やっぱりもっと「今の音」を追及してほしいと思うんだよなぁ。前作まで感じた安定感がちょっと薄れて、今後のベクトルがちょっとぼやけちゃった感じもする新作。まあ、それがあらたな作家起用の狙いなのかもしれませんが。
評価:★★★★
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