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2016年9月10日 (土)

さらなる深化

Title:できれば愛を
Musician:坂本慎太郎

元ゆらゆら帝国のボーカリストによるソロ3枚目。ソロでのアルバムがいずれも非常に高い評価を得ており、約2年ぶりとなる新作ではゆらゆら帝国時代を含めてキャリア初のベスト10ヒットを記録しました。

そんな高い期待の元にリリースされた新作ですが、今回のアルバムもその期待を裏切らない傑作に仕上がっています。基本的にスタンスは前作からの延長といった印象。ロックというよりもムード音楽的な作風であえて「全員で盛り上がる」ことを拒否する音を奏でることにより全体主義へのアンチをとなえた前作。今回のアルバムに関してはさらにその方向性が深化しています。とことんそぎ落としたサウンドにスチールギターが鳴る、トロピカルさを感じさせるサウンド。ロックバンド的なみんなで盛り上がれるダイナミズムさを拒否。一見すると単なるムード音楽のような見せかけになっているのも基本的には前作と変わりません。

ただ一方、全体主義へのアンチというスタンスが歌詞を通じても明確にあらわれていた前作と比べると本作に関しては歌詞に関してもシニカルさと不気味さを感じつつも、人によっていろいろな解釈が出来そうな歌詞が並んでいます。例えば

「イヌが俺に声かけてきた
ねえ その車に乗せとくれ
キジが俺に声かけてきた
ねえ その車に入れとくれ
いいけどさ きついぞ
さあ中古の車で出かけるぞ」

(「鬼退治」より 作詞 坂本慎太郎)

という歌詞はポジティブな解釈もできそうな一方、今の日本の厳しい現状を描いた歌詞のようにも解釈できます。そもそも今回のアルバム、テーマが「顕微鏡でのぞいたLOVE」だそうで、そのテーマからしていまひとつわかりにくくなっています。

ただそんな中で唯一わかりやすいテーマ性を持っていたのが「ディスコって」

「ディスコは君を差別しない
ディスコは君を侮辱しない
ディスコは君を区別しない
ディスコは君を拒絶しない」

(「ディスコって」より 作詞 坂本慎太郎)

という非常にストレートな歌詞のサビが展開するほか、

「今 女が 男の方に触れた
今 男が 男と腕をくんだ
今 女が 女とキスをしてた
今 男が 男と外に消えた」

(「ディスコって」より 作詞 坂本慎太郎)

とLGBTをストレートに肯定する歌詞が印象的なナンバーになっており、全体的にテーマ性が不明確な楽曲が並ぶ中、彼のLGBTに対する強いメッセージ性を感じることが出来ました。

そんな訳で、新鮮味という観点では前作に比べてさほど目新しさは感じません。ただ前作からより深化したサウンド、どこかユーモラスさがありつつ、シニカルさも感じさせる歌詞は聴けば聴くほど心に響くものがあります。特にサウンドに関しては前作同様、Disc2としてインストバージョンが収録されていますが、一見、ムードサウンド的な曲調でありつつ、インストだけとっても十分音楽として成立していることに気が付かされます。

前作は2014年の私的年間ベストアルバムで2位としましたが今回のアルバムも引き続き、年間ベスト候補間違いなしの1枚。文句なしの傑作です。

評価:★★★★★

坂本慎太郎 過去の作品
幻とのつきあい方
ナマで踊ろう

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