ブルースの名著が再翻訳
ブルースに関して、なかなか素敵な本の和訳が発売されました。さっそく手にとって読んでみましたので今日はその本のご紹介です。
ポール・オリヴァーというイギリスのブルース研究家により1965年に発売された書籍「ブルースと話し込む」(原題 Conversation with the BLUES)。1996年に邦訳版が発売されましたが既に絶版。それがこのほど音楽評論家の日暮泰文氏の和訳により再発売されました。
この本はもともと1960年にオリヴァーが妻とともにアメリカにわたり3カ月間、アメリカはミシシッピ、テネシー、アーカンソーをはじめとして各地で収録したブルースミュージシャンのインタビューをまとめたもの。そのインタビューを通じてブルースという音楽とは何かということを浮き彫りにしようという試みがされています。
インタビューのテーマは多岐にわたっており、ブルースとは何か、といったテーマからスタートし、当時の黒人の暮らしぶりや(音楽以外の)仕事の話、飲み屋での出来事やレコーディングでのエピソード、ステージの話や他のブルースミュージシャンの話など様々。1960年といえば公民権法が成立する(1964年)直前。そういう時代のアメリカの黒人の生活ぶりも感じられる内容になっています。
インタビューはミュージシャン毎にまとめて掲載されている形ではなく、インタビューをぶつ切りにして、似たようなエピソードを並べて展開していくような構成。よく海外のドキュメンタリーなんかで複数の関係者にインタビューを取ったうえでそれをぶつ切りにして、ドキュメンタリーの流れにあわせてインタビューをつなぎあわせていく手法がありますが、まさにそれを紙上でやった感じ。読んでいてなんとなくブルースに関するドキュメンタリー映画を見ているようなそんな気分になりました。
さて私をはじめ多くの日本人がブルースという音楽に魅せられる理由、それは一種の異文化に対するあこがれ。国籍も人種も生活スタイルも違うアメリカの黒人の歌という異文化に対する憧憬が大きな理由・・・そう感じていました。
しかし今回この書籍を読み、ブルースミュージシャンたちの話を聴いているとむしろブルースに惹かれる大きな理由としては歌い手に対する共感が大きな要素ではないか、ということを感じました。ブルースで歌われているテーマはいわゆる日常生活で辛いことがあったり、好きな女性にふられたり、仕事が上手くいかなかったり・・・背景にある文化は私たち日本人とは大きくことなるものの、そこで歌われている根本的なテーマや心境は私たちにも共感する部分が多くあります。
この本の中にもこんな一節がありました。
「そんなレコードのある部分には、聴く人間にブルースをもたらす悲しいことがあったり、人生の傷に触れたり、友だちのことだったり、たった今起きていることを考えさせられたりする。その歌のようなことが起きてなくても、これは他人ゴトではないなと強く思わせもするわけだ。だからこれは気持ちをすごく揺り動かすことで、それがブルースに発展してゆくのさ。」
(ジョン・リー・フッカー 本書p208、209)
さらにこのインタビューの最後はこんな言葉で締めくくられています。
「つらい生き方をしてきたということ、これがあんたをブルーにする。すさんだライフ・スタイル、これがあんたをブルーにする。そこでブルースを歌いだすんだ、ブルースにやられた時にな。」
(エドウィン・バスター・ビケンズ 本書p217)
もちろん純粋な音楽的魅力もブルースに惹かれる大きな要因です。ただ50年以上前のアメリカの黒人であろうが現在の私たちであろうが、辛いこと悲しいことなどがあったりした時に感じる心境は同じ。それを歌にしたブルースに、私たち日本人も強く惹かれるのではないでしょうか。
そういった歌詞に対する共感は、いままでブルースを聴いてきた過程においてももちろん感じてきました。ただその漠然と感じていたことがこの本を読むことにより、より明確にブルースの魅力として気が付くことが出来たように思います。そんなブルースに対する再発見も出来た1冊でした。
ちなみに本書、装丁もまたそそられます。上の写真でわかるかどうかわかりませんが、洋書のペーパーバッグのような装丁。それもまたブルースの本としてピッタリな、なんともいえない雰囲気があったりします。ブルースが好きなら絶対読むべき1冊。読み進めていくうちにいろいろな発見がある実に興味深い1冊でした。
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