今のシーンに対するくるりからの回答
Title:琥珀色の街、上海蟹の朝
Musician:くるり
くるりの新作は6曲入りのEP盤。このアルバムで話題となったのが表題曲である「琥珀色の街、上海蟹の朝」でしょう。HIP HOPの要素を取り入れて、かつシティポップ風に仕上げたトラックがいつものくるりのイメージと異なり大きな話題となりました。
これが驚きであるひとつの理由は、くるりはブラックミュージック的要素が少ないバンドであるから。実際、インタビューで岸田繁が「くるりはブラックミュージックを要素を(あえて)入れないバンド」と答えていますし、事実、ブルースやソウル、ファンクといった要素をくるりの音楽からほとんど感じることはできません。岸田繁自体、各種インタビューやコラムなどでブラックミュージックに対するコメントはあるものの、正直言ってどちらかというとポピュラーミュージックの「教養」的に聴いているイメージが強く、おそらくそれほど好きなジャンルではないんだろうなぁ、ということを漠然とですが感じていました。
そういう経緯もあるだけに今回の「琥珀色の街、上海蟹の朝」については少々唐突感もあります。実際、最近の状況として例えばceroが注目を集めたり、星野源がブラックミュージック的要素の強いアルバムをリリースしてきたりとシティポップがにわかに注目を集めてきたりしています。今回の楽曲についてはくるりとしてのそういったシーンに対する回答という意味もあるのでしょう。ただその上で思うのはHIP HOPというスタイルをふくめて「いまさら、くるりがこれ??」といった印象でした。
いや楽曲としては間違いなく非常によくできています。ほどよく入れられたエレピの音色が心地よく、HIP HOPテイストが強い一方、くるりらしいバンド感もしっかりと残しています。なによりも途中のストリングスの入りが絶妙な感じ。シティポップ風ながらもストリングスの使い方といい微妙に黒くなりすぎず、爽やかなテイストを残した感じに仕上げてきています。
ただもし半年くらい前のリリースながら文句なしに「すごいぞ、くるり」になっていたような感じもするのですが、ある程度シーン全体として盛り上がってきている今の段階になって、若干いまさら感があります。なによりブラックミュージックの要素を強く入れつつも、熱っぽさに欠ける一歩引いた雰囲気に、くるりらしいといえばくるりらしいのですが、ブラックミュージック的な視点から見た時にちょっと物足りなさも感じました。
それ以外の曲に関してはシティポップ的な要素はほとんどなく、「Hello Radio」はフォーク風、「Radio Wave Rock」はへヴィーなギターリフのハードロック風とくるりらしい楽曲になっており、ブラックミュージックの要素はありません。シティポップ的な楽曲が「琥珀色の街~」1曲で終わっているところも、「なんとなくやってみました」感を覚えて違和感がありました。
もちろん楽曲自体はくるりらしい高いクオリティーを保った楽曲が並んでおり、彼らの実力を感じるという点は間違いありません。そういう意味で純粋に楽曲的には傑作だったとは思います。ただ・・・どうも本作に関して感じる違和感はぬぐえず・・・ある意味、いままでのくるりからもちょっと感じる部分があった頭でっかちな部分が悪い意味で前に出てきちゃったのかなぁ。ちょっと残念な作品でした。
評価:★★★★
くるり 過去の作品
Philharmonic or die
魂のゆくえ
僕の住んでいた街
言葉にならない、笑顔を見せてくれよ
ベスト オブ くるり TOWER OF MUSIC LOVER 2
奇跡 オリジナルサウンドトラック
坩堝の電圧
くるりの一回転
THE PIER
くるりとチオビタ
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