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2016年8月15日 (月)

アフガニスタン、コソボ、そしてワシントンD.C.

Title:THE HOPE SIX DEMOLITION PROJECT
Musician:PJ Harvey

イギリスの女性シンガーソングライターによる5年ぶりとなる新作。本国イギリスでは高い人気を誇り、本作もチャート1位を獲得しているのですが、日本ではさっぱり。日本では比較的イギリスのロックバンドの人気が高いため、彼女ももっと注目されてもいいと思うのですが・・・たしかにイギリスのロックバンドのようなわかりやすく日本人の琴線に触れるような美メロを書くタイプのミュージシャンではないのですが・・・。

日本で彼女があまり話題になりにくいのは楽曲に社会派的な要素が強いためかもしれません。前作「Let England Shake」では祖国イングランドの歴史をアルバムのテーマとしていましたが、本作はアフガニスタン、コソボ、そしてワシントンD.C.をめぐり、その戦争の現場を見て、その上でレコーディングにのぞんだという作品。さらにレコーディング風景は一般公開されており、アルバムタイトル通り、一種のプロジェクトとなっています。

確かに歌詞の意味がストレートに耳に入ってこない私たちにとっては彼女のテーマ性はなかなか伝わりにくいものがあります。ただ最後の「Dollar,Dollar」では冒頭、街の雑踏がそのまま収録されており「Dollar」と叫ぶ子供たちの声に彼女が見た現実が伝わってきており、歌詞がわからない私たちにとってもそのテーマ性を感じることは出来ました。

逆に非常に皮肉めいていたのが冒頭の「The Community Of Hope」。非常にポップで明るいギターポップなナンバー。インパクトもありこの曲だけなら前向きさも感じるポップソングなのですが・・・アルバム全体のテーマ性からみて、そのまま受け取れないのは明らかでしょう。

アルバム全体としてはロックテイストのナンバーが多く、いい意味での聴きやすさも感じます。2曲目「The Ministry Of Defence」はいきなりへヴィーなギターからスタート。途中、重厚なコーラスも入り、壮大さも感じるナンバーになっています。

この壮大さもまた今回のアルバムの中で強く感じた要素のひとつ。例えば「Chain Of Keys」でもホーンの入った分厚いサウンドに男性によるコーラスラインが入ったミディアムテンポのナンバーで壮大な雰囲気を感じるナンバー。同じく「The Orange Monkey」でもコーラスラインを重ねることによる楽曲に壮大さを与えています。

アルバムテーマがイングランドの歴史というローカルだった前作から一転、アフガニスタン、コソボ、ワシントンD.C.とグローバル規模のテーマとなった本作。壮大な音楽性はそのグローバル規模というテーマのスケール感から来るのか、とも想像してしまいました。

そのテーマのグローバル性ということからもうひとつ感じたのが楽曲によって様々な音楽的要素を入れてきているという点。例えば「Medicinals」はトラッド音楽の要素を感じましたし、「The Ministry Of Social Affairs」はブルースの要素を強く取り入れています。これも彼女が廻った様々な現場の音楽を楽曲の中に取り込んできているのかな、とも感じてしまいました。

アルバム全体としては正直若干地味かな、という感じもしないではありません。ただ、様々な音楽性を取り入れつつ、全体的にはロック的な要素が強くいい意味で聴きやすさを感じます。その社会派な要素を含めて日本でももっと受け入れられてもいいのに・・・と感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★★

PJ Harvey 過去の作品
Let England Shake


ほかに聴いたアルバム

OX4 -the best of RIDE/RIDE

80年代後半から90年代にかけて活躍したイギリスのギターロックバンドRIDE。シューゲイザー系の代表格としていまなお高い人気を誇る彼らですが、最近では2014年に再結成を果たしています。本作はもともと2001年に海外でリリースされたベスト盤が再結成にあわせて国内盤として再発されたアルバム。ホワイトノイズで埋められたギターサウンドはいかにもシューゲイザーといった感じですが、その音色は非常に美しくメロディーラインもとてもポップで聴きやすい内容。そのドリーミーな世界を楽しめるベスト盤でした。

評価:★★★★★

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