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2016年8月 8日 (月)

中川敬の音楽的模索

Title:ザ・ベスト・オブ・ニューエスト・モデル1986-1993
Musician:ニューエスト・モデル

今回紹介するアルバムは1980年代後半から90年代初頭にかけて活躍したロックバンド、ニューエスト・モデルのベスト盤。まあ、彼らについて既に知っているという方には説明するまでもない話かもしれませんが、彼ら、個人的に大好きなバンドの一組で当サイトでもよく紹介しているロックバンド、ソウル・フラワー・ユニオンの前身バンド。同じレーベルメイトだったメスカリン・ドライブと合体する形でニューエスト・モデルは発展的に解散。その後はソウル・フラワー・ユニオンとしての活動が続いています。

以前、ニューエスト・モデルとメスカリン・ドライブのシングルを集めたベスト盤を紹介したことがありましたが本作は純粋にニューエスト・モデルのみのベスト盤。ニューエスト・モデルの作品がインディーズ時代の作品も含めて発表順に並んでおり、ニューエスト・モデルの活動の流れがよくわかるようになっています。

で、今回のアルバム、この「発表順に並んでいる」というのがかなりのミソ。というのは彼らの楽曲、わずか7年の活動の間に劇的に変化しているから。それもニューエスト・モデルの作詞作曲を手掛ける中心人物である中川敬の貪欲な音楽的興味がダイレクトに反映されており、ある意味、彼が自ら理想とするロックを作り上げるための実験場となっています。そしてこのニューエスト・モデルで中川敬が行った「実験」は確実にソウル・フラワー・ユニオンの音楽へとつながっており、そういう意味でも非常に興味深いベスト盤になっていました。

結成直後のニューエスト・モデルの作品はあきらかにソウル・フラワー・ユニオンとは異なる音楽性でした。かなりへヴィーなサウンドを聴かせてくれる、ハードコア的な要素も感じられるパンクロック。そこから徐々にトラッドや祭囃子、ニューオリンズや民俗音楽的な要素を取り入れつつ、徐々にソウル・フラワー・ユニオンのようなスタイルに近づいていきます。

ソウル・フラワーらしさを感じるのは「雲の下」あたりからでしょうか。このあたりから中川敬のボーカルスタイルも定まってきますし、彼の盟友、奥野真哉のキーボードの音色も、今に通じるサウンドになってきています。その次の「ソウル・サバイバーの逆襲」で「ソウル」という言葉がタイトルに登場しますが、初期のパンク色が薄れ、ソウルの色合いも感じられ、ソウル・フラワー・ユニオンに近い作風になってきます。

その後もお祭りのような合いの手が入る「みんな信者」やトラッドの色合いの濃い「杓子定木」など私のようにソウル・フラワー・ユニオンから入った人でも抵抗感なく楽しめる楽曲が多く収録されています。ただその一方、ニューエストで挑戦しながらソウル・フラワーではあまり聴かれないようなタイプの曲もチラホラあったりするのもユニーク。例えば「知識を得て、心を開き、自転車に乗れ!<PART.1>」はどちらかというとボ・ガンボスの方向性に近い感じの曲になっていますし、「渡り廊下にランプを」のようなラテン調の曲もソウル・フラワーではあまり聴かれないタイプ。また「蒼白の祈祷師」はむしろサイケロックの色合いが強く、これもソウル・フラワーの音楽性とは異なります。

ここらへん、初期のパンクロックからソウル・フラワーの音楽へ至るまでの中川敬の音楽的思考の模索を感じられ非常に興味深い印象を受けます。いろいろな音楽を取り入れつつ、取捨選択して完成したロックがソウル・フラワー・ユニオンなんだな、ということを強く感じることが出来ました。

ただ一方で、彼らの初期のパンクロックもまた非常にカッコいい!ブルーハーツからはじまり今に至る、「行進曲」調のリズムのパンクロックとは全く異なるへヴィーなサウンドがズシリと響いてくる骨太なロック。この路線は路線でひとつ完成されており、実に魅力的に感じます。もしこの路線で活動を続けていたとしても、おそらくニューエスト・モデルは伝説的なパンクロックバンドになっただろうなぁ・・・なんてことを夢想してしまいます。

そんな訳で初期のパンク路線もその後のソウル・フラワーに続く路線も魅力的。ソウル・フラワー・ユニオン好きなら文句なしに聴くべきベストアルバムだと思います。なにげにパンクロックが好きならかなり楽しめるアルバムだと思うので、このアルバムにはまって、その後、ソウル・フラワー・ユニオンのアルバムを聴いてみる、という流れでもいいかも。もう30年近く前の作品なのですが、いまなお輝きを全く失っていない作品でした。

評価:★★★★★

ニューエスト・モデル 過去の作品
アーリー・ソウル・フラワー・シングルズ(ニューエスト・モデル&メスカリン・ドライブ)

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