ついてない1日の終わりに聴きたいアルバム
Title:ついてない1日の終わりに
Musician:GAKU-MC
日本のHIP HOP黎明期に活動したグループEAST ENDのメンバー・・・というよりも最近は、ミスチル桜井和寿とのユニット、ウカスカジーとしての活動で知られるラッパー、GAKU-MC。最近はメジャーを離れインディーズで活動を続けていましたが、久々にメジャーに復帰。本作はオリジナルとしては3年ぶり、メジャーでのリリースとしては約7年ぶりとなる新作となりました。
もともとEAST END時代から明るいポップなテイストのラップが特徴的でしたが、本作の大きな特徴としては非常にポップス色が強いということがあげられます。はっきりとしたメロディーラインが流れているポップソングがメインになっておりHIP HOP的な要素は薄め。ラップも言葉をマシンガンのように打ち出すというよりもメロディーにのっかかった形でのスタイルが多く、さらっと聴いていると「あれ?ラップしてたっけ?」なんて思ってしまうほど。本作では「ラップラス」「rap love song」のように「ラップ」を明確に主題に持ってきたような曲も目立つのですが、その割にはあまりラップしてないよなぁ・・・なんて感じてしまいました。
そして本作の最大の特徴はその歌詞でしょう。本作ではいわゆる「人生の応援歌」的な歌詞が目立ちます。それも無理やり前に引っ張り出すような応援歌というよりも「ついてない1日の終わりに」というアルバムタイトル通り、ちょっと嫌な事が続いたような1日の終わりに、そっと背中を押すようなやさしい応援歌が並んでいます。
またそんな歌詞は身の回りをテーマとしたようなリアリティーあるという点も特徴的。特に家族をテーマとしたような楽曲が多く、タイトルそのまま「家族日和」という曲もありますし、タイトルからしてユニークな「シアワセの昼ビール」という曲はその「大人」なタイトルとは裏腹に、子供たちへのメッセージソングとなっています。
人生の応援歌的歌詞といえば悪い意味で昨今のJ-POP的典型的テーマと言えるかもしれません。たださすがに現在45歳、人生経験をつんでいるGAKU-MCの書く歌詞なだけに単純な抽象論ではなくリアリティーもあります。少なくとも歌詞については陳腐な前向きJ-POPという印象はありません。
ただ一方で手放しに絶賛できる歌詞か、と言われるとそれも正直言うと微妙。はっきりいってしまうとあまりに爽やかな歌詞であまりにも毒がない・・・・・・。上に「人生経験をつんでいる」と書いたのですが、それにしても人生のマイナスな面というか影の部分をあまりにも描いていなさすぎじゃないか?とも思ってしまいます。
家族をテーマという部分でも若干のあざとさを感じないではなく・・・。例えば「シアワセの昼ビール」では子供の声を入れているのですが、正直、そのわざと無邪気さを装っているようなセルフをふくめて少々あざとさが鼻についてしまう部分も・・・。アルバム全体としてそういう洗剤で消毒したかのようなわざとらしい毒のさなが気になってしまいました。
もっとも全体的にはメロディーライン主体のポップソングはHIP HOPを聴かない層にもアピールできるようなポピュラリティーがあり、素直なポップアルバムとしては問題なく楽しめる内容であるのは間違いないところ。そういう意味ではファンならずとも、例えばウカスカジーではじめてGAKU-MCを知ったような方を含めて楽しめるアルバムだとは思います。まさにタイトル通り、頭をからっぽにしたいような、ついてない1日の終わりに聴きたいアルバムでした。
評価:★★★★
GAKU-MC 過去の作品
世界が明日も続くなら
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2016年」カテゴリの記事
- ファンによる選曲がユニーク(2016.12.27)
- パンクなジャケット写真だけども(2016.12.24)
- バンドの一体感がさらに深化(2016.12.23)
- 初のフルアルバムがいきなりのヒット(2016.12.20)
- 10年の区切りのセルフカバー(2016.12.17)
コメント