「ヤポネシア」という視点から
Title:JaPo
Musician:UA
最近、漠然とあまり名前を聞かないなぁ・・・と思っていたのですが、なんと約7年ぶりとなるUAのオリジナルアルバム。音源としても2010年にリリースされたカバーアルバム「KABA」以来となるだけに、本当に久しぶりとなる新作となりました。
そんな長い間音楽活動を休んでいてどうしたんだろう、と思っていたのですが東日本大震災の後、沖縄に移住、さらにそこで第3子を出産するなどの出来事が重なった結果、長いインターバルが開いてしまったようです。
さて今回のアルバム、タイトルの「JaPo」の元となったのは「ヤポネシア」という言葉。この言葉は作家島尾敏雄によって考案された造語だそうで、日本を「日本国」としてとらえるのではなく、南西諸島を含んで島の連なりとして捉える概念。一般的には沖縄や奄美を礼賛する文脈で使われれることが多く、また日本も太平洋に広く分布する諸島群であり、ミクロネシアやポリネシア地域などの太平洋の島との文化的なつながりを捉える概念として使用しているというイメージもあります。
そんなどこかエキゾチックなイメージの漂うアルバムタイトルですが、楽曲的にもポリリスティックなリズムが展開されるトライバルな楽曲が目立ちます。例えば事実上のタイトルチューンである「JAPONESIA」や「ISLAND LION」などが特徴的でしょう。ポリリズムが展開されるという意味ではアフリカ音楽的とも言えるのかもしれませんが、どこか南国の民俗音楽な雰囲気の漂うユニークなリズムが大きな特徴となっています。
ただこのアルバムが非常にユニークなのは、単純にトライバルなアルバムとだけではとらえられないような様々な音楽的要素を感じさせてくれる点でした。具体的に言うとリズムはトライバルである一方、その他のサウンドについては非常にスタイリッシュなものを感じます。例えば「JAPONESIA」についてもポリリスティックなリズムに対して、そこに加わるピアノの音色には実に洗練されたものを感じますし、「KUBANUYU」もトライバルなパーカッションが大きなインパクトとなっていますが、同時に流れるピアノの音色には都会的な雰囲気すら感じます。トライバルなリズムとスタイリッシュなサウンドという音楽的な多面性が、ヤポネシア=日本の多様な文化性を表現しているようにも感じました。
また印象に残ったのが中盤の「あいしらい」。ピアノとアコギをベースにとても優しい雰囲気のシンプルなポップソング。子供に対する愛情いっぱいの母の視点で歌われた歌詞が非常に心に残ります。リズム主体の他の曲とは雰囲気が異なる楽曲ですが、UAのやさしさと魅力が伝わってくる逸品となっています。
久々のアルバムだったのですが、UAのパワーの衰えも全く感じさせない傑作アルバムだったと思います。「ヤポネシア」という視点から音楽を捉えたアルバムとも言えるかもしれません。その多様な音楽性に聴けば聴くほど新たな魅力が見つかる、とても素晴らしいアルバムに仕上がっていました。
評価:★★★★★
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