まずは美メロとストリングスが耳を惹く
Title:A MOON SHAPED POOL
Musician:RADIOHEAD
デジタル配信により突如リリースされ世間を騒がしたRADIOHEADのニューアルバム。私はCDでのリリースを待っての購入となったので聴くタイミングがちょっと遅れてしまいました。そんな訳で待ちに待ったRADIOHEAD5年ぶりとなる新作。しかし最近は本当に大物ミュージシャンでも配信先行でCDリリースまで時間がかかるアルバムが増えたなぁ。個人的にはやはり歌詞の和訳が欲しいので、そういうスタイルを取られるといろいろと厳しい面が大きいのですが・・・。
RADIOHEADのアルバムといえばアルバム毎に方向性を定め、いつもリスナーを驚かせるような新しい試みのアルバムを次々とリリースしてきました。例えば前々作「In Rainbows」では名盤「OK Computer」との類似性を指摘されるような作品となっていましたし、前作「THE KING OF LIMBS」では当時最先端の流行となっていたダブステップの影響を強く取り込んだ作品となっていました。
しかし今回のアルバムに関していえば、まず捉えどころがない、というのが大きな感想としてあります。今回のアルバムもおなじみナイジェル・ゴドリッチがプロデュースを手掛けていますが、全体的に非常に緻密で凝ったプロデュースワークの作品が多く、楽曲毎に様々なアイディアを詰め込んだような作品になっています。一度聴いただけだと「何だこれは?」といった奇抜なアレンジがないように感じるだけに比較的抑え気味のダウナーなサウンドに感じるのですが、2度3度聴くうちに印象が変わっていく作品となっていました。
まず感じるのはこれまでにないほど美しいメロディーライン。「Desert Island Disk」「Identikit」「Present Tense」とアコースティックベースのアレンジによりトム・ヨークによる美しい「歌」を前に押し出した曲がアルバムの中の要所要所に組み込まれています。決して派手ではないこれらの曲は「核」になるような作品ではないにも関わらず、非常に心に残る作品になっていて、アルバムの中のキーのようにも感じました。
もうひとつ大きなポイントに関したのはストリングスの導入。ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラによるストリングスを本作では導入しています。ストリングスというと一歩間違えるとただ壮大さを醸し出そうとするだけの大味なアレンジになってしまうのですが、そこは心配無用。ストリングスが目立つ「Glass Eyes」にしろ「Tinker Tailer Solder Sailor Rich Man Poor Man Beggar Man Thief」にしろギターサウンドやエレクトロサウンドと上手く組み合わせることにより荘厳さを感じさせつつも、非常に繊細さを感じさせるサウンドに仕上げてきています。
そんな美メロとストリングスをアルバムの軸としつつも、エレクトロなサウンドにアコースティックなギターやピアノの音色などを組み合わせつつ、1曲1曲実に繊細な作品に仕上げている今回のアルバム。アルバム全体として派手さはないのですが、それだけに聴けば聴くほど深みにはまっていくような魅力があります。特にアルバムの中でひとつの核に感じたのが中盤の「Ful Stop」。6分に及ぶ楽曲の中で最初から最後までがひとつにつながっているような構成でリスナーをグイグイと惹きこむような楽曲。抑え気味なサウンドながらもダイナミズムを感じさせる作品で、今回、「ロック」なテイストの薄めの作品の中では珍しく「ロック」的な要素を強く感じる楽曲になっています。
またアルバムの最後を締めくくる「True Love Waits」も実に見事。トム・ヨークの歌をしっかりと聴かせるピアノバラード曲なのですが、物語の美しい終幕を感じさせるようなナンバー。アルバムの最後を締めくくるには実にふさわしい楽曲に仕上がっていました。
いわゆる「ロック」的要素は薄く、最初はちょっと地味目にも感じたのですが、2度3度聴くうちにはまっていくようなそんなアルバム。彼らの最高傑作、といった感じではないものの、間違いなく5本の指には入りそうな傑作アルバムだったと思います。もちろん今年を代表する名盤の1枚になりそうな傑作でした。
評価:★★★★★
RADIOHEAD 過去の作品
In Rainbows
The Best Of
ROCKS:Live In Germ
THE KING OF LIMBS
TKOL RMX 1234567
Radiohead Live at Tramps June 1,1995
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