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2016年7月 8日 (金)

今、最も話題のラッパーの一人

Title:Coloring Book
Musician:Chance The Rapper

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シカゴ出身のラッパーによる3枚目のアルバム。若干23歳にもなる彼は、今、世界で最も騒がれているラッパーの一人です。彼が注目されている理由、それはもちろんその楽曲自体も話題なのですがそれ以上に注目を集めているのがリリース形態。彼はいままで3枚のアルバムをリリースしていますが、そのいずれもフリーダウンロードによる作品。商業ベースでのアルバムは1枚もリリースしていません。

それにも関わらずアルバムはいずれも大ヒットを記録。本作も、もともとはApple Musicのストリーミングのみでのリリースだったにも関わらず、史上初、ストリーミングのみでビルボードのトップ10入りを果たしています。さらにあまりの話題の大きさから、ノミネートの基準として商業ベースの作品のみとしていたグラミー賞のノミネーション基準すら揺るがそうとしています。

確かにここ最近、フリーダウンロードでアルバムをリリースするミュージシャンも少なくありません。特にHIP HOPでは数多くのミュージシャンが「ミックステープ」という形でフリーダウンロードでのアルバムをリリースしていますし、またU2がニューアルバムをiTunesに無料で先行配信した(そして多くの批判をあびた)ことは記憶に新しいのではないでしょうか。

ただフリーダウンロードでアルバムをリリースするミュージシャンも基本的には商業ベースのアルバムがまずあって、その上で話題づくりや、あるいはミックステープなどはサンプリングなどの権利処理の都合などから無料でアルバムをリリースするケースがほとんどです。しかし彼の場合は意図的に無料でアルバムを公開しています。彼曰く、音楽産業は既に死んだ産業であり、音楽は誰にでも開かれたものである、という明確な意思を持ってアルバムをリリースしています。

ただ、リリース形態には挑戦心を感じさせる一方、アルバムの内容自体は至ってポップ。形態は間違いなくHIP HOPなのですが、はっきりしたポップなメロディーラインを持った楽曲が多く、アルバム自体はいい意味で聴きやすさを感じさせる内容になっています。

例えば「Same Drugs」などはピアノの静かなサウンドをバックに、ソウル風のメロディアスな曲調を聴かせるナンバーになっていますし、「All Night」もラップ部分以外は女性シンガーによるポップなメロディーが流れる作風が軽快で楽しい作品となっています。

またサウンド的にはHIP HOPのみならずソウルやゴスペルからの影響も感じさせる曲もチラホラ。「Summer Friends」の重厚なコーラスラインはゴスペルからの影響を感じさせますし、「Blessings」の核となっている女性ボーカルやエレピのサウンドはスムーシーなコンテンポラリーソウルの雰囲気を感じます。

さらに無料だからといって全く馬鹿にできないのが参加ミュージシャンの豪華さ。1曲目の「All We Got」ではかのカニエ・ウエストがプロデューサーとして参加。重厚なサウンドを聴かせてくれますし、続く「No Problem」ではLil Wayneも参加。さらには「Finish Line Drown」ではT-Painも参加と、豪華な顔ぶれがずらりと揃っています。

このアルバムの出来に関して無料であるということは全く関係ありません。全14曲入り1時間弱。実に聴きどころも多く、いい意味でポップに楽しめるアルバムだと思います。1時間弱という収録時間も非常にちょうど良い長さに感じます。無料ダウンロードあるいはスクリーミングで是非。間違いなく今年を代表する話題作の1枚だと思います。

評価:★★★★★

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