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2016年6月14日 (火)

原子力の両面性も表現

Title:ATOMIC
Musician:MOGWAI

昨年、結成20周年を迎えベスト盤をリリースしたMOGWAIの新作。ただし、今回のアルバムは純然たるオリジナルアルバムではなく、昨年8月にイギリスBBCで放送されたドキュメンタリー番組「Atomic: Living In Dread and Promise」をもとにした作品。以前から彼らはサントラアルバムも何作かリリースしてきましたが、それに準ずる作品といった感じでしょう。

そのため楽曲はMOGWAIらしいという印象よりもまず「サントラらしい」という印象を受けます。MOGWAIといえば最近ではエレクトロサウンドを取り入れた楽曲にも取り組んでいますが、基本的にノイジーなギターサウンドでダイナミックに構成する楽曲がメイン。ただ今回のアルバムではサウンドはダイナミズムを感じるもののノイジーなギターがグイグイと攻めてくるというよりはポップなメロディーとシンセを多用したスケール感あるサウンドでまずは雰囲気を作り出すような楽曲に仕上げているように感じました。

そのため、「実験性」という意味ではちょっと薄味な感じもあり、通常のMOGWAIのオリジナルアルバムを聴く感覚だと若干の物足りなさもある点も事実。もっとも「Tzar」はダイナミックなバンドサウンドを聴かせてくれる、一般的なイメージで実にMOGWAIらしさを感じる作品になっていますし、ラストを飾る「Fat Man」も最後のノイジーなサウンドに重なるピアノの音色が実に美しく、全体的には十分満足感のあるアルバムになっていたと思います。

さて今回のアルバム、上にも書いた通り、「Atomic」というドキュメンタリー番組のサントラを元にしています。「Atomic」=原子力といえばやはり日本人としては広島や長崎への原爆や福島第一原発の事故を思い出します。実際、過去に彼らが広島を訪問した際の経験も今回の作品には反映されているそうです。

しかしその上でアルバムを聴くと、全体的にはむしろ明るさも感じさせる点が非常に意外に感じました。「Little boy」や「Fat Man」などはかなり悲しみを帯びた楽曲になっていますし(またこれらはタイトルからして明らかに広島・長崎の原爆をモチーフにした楽曲でしょうし)、不気味な雰囲気を感じる楽曲は少なくありません。ただ一方で「Ether」のような明るい楽曲も多く収録されています。

これはドキュメンタリー自体が核兵器や原爆、原子力発電所の事故のような原子力の負の側面のみにクローズアップするのではなく、例えばレントゲンやMRIスキャンなど、私たちの役に立つプラスの側面もクローズアップしているからだそうです。このアルバムの収録曲でも「SCRAM」などは明るさと不気味さが同居したような作風が印象的で、まさに原子力というエネルギーの両面性を象徴したような作品になっていました。

そういう意味ではバランスの取れた作風とも言えるのかもしれません。ともすれ「Atomic」というタイトルから想像できるような原子力反対/賛成のような単純な主張は感じられませんでした。

さてそんな本作をまとめると・・・サントラらしい部分は多々あるものの、MOGWAIの魅力もきちんと感じられるアルバムといった感じでしょうか。ファンならとりあえずは要チェックの1枚だと思います。

評価:★★★★

MOGWAI 過去の作品
The Hawk Is Howling
HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL
Live at All Tomorrow's Parties,9th April 2000
Earth Division EP
Rave Tapes
Les Revenants
CENTRAL BELTERS


ほかに聴いたアルバム

Wilder Mind/Mumford&Sons

デビューアルバム「Sigh No More」、2ndアルバム「Babel」共に世界的なヒットを記録した上、グラミー賞も連続して受賞し大きな話題となったイギリスのフォークロックバンドの新作。ただフォークロックだった1st、2ndと比べて今回は「普通の」スタジアムロックになっていました。確かに前作あたりからある種の貫録は感じていたのですが・・・。悪いアルバムではないのですが、Mumford&Sonsらしさはあまり出ていなかったような印象が。

評価:★★★

Mumford&Sons 過去の作品
Sigh No More
Babel

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