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2016年5月 1日 (日)

次のステップへ

Title:海賊盤
Musician:中村一義

約4年ぶりとなる中村一義のニューアルバム。インタビューなどで前作「対音楽」で音楽的キャリアを総括したと答えており、今回のアルバムはその「総括」の先を行くアルバムということになります。いわば中村一義がミュージシャンとして次のステップを踏み出したアルバムと言えるかもしれません。

ただこのアルバムを最初に聴いた時、ちょっと「あれっ?」と感じました。それは中村一義のアルバムとしてはあまりにシンプルなポップアルバムだったからです。いままでの彼のアルバムは作品の中に一工夫というか、単なるポップスではなく彼らしいアイディアを込めた曲が収録されていました。例えば前作「対音楽」ではベートーベンをコンセプトとしたアルバムでしたし、前々作「100s」はバンドという要素を強く入れたアルバム。さらにその前の「ERA」などは彼ならではの遊び心というか実験的な作品が詰まった作品でした。

これらの作品と比べると今回の作品は非常にシンプルに感じます。いわば「普通」のポップアルバム。もちろん、普通であること自体は悪いことではありませんが、中村一義の新たなステップの第一歩としてはちょっと意外な感じがしました。

そんな今回のアルバムですが、シンプルなポップアルバムである、ということの次に感じたのは、本作が非常に明るく、そして前向きな楽曲が並んでいるということでした。1曲目の「スカイライン」もアコギとピアノで軽快にスタートするのですが、途中から合唱も入って祝祭色の強い作品になっています。「世界は笑う」もタイトル通りユーモラスさも感じられる前向きな応援歌に仕上がっていました。

もちろん彼らしいポップなメロディーラインは本作も健在。「GTR」のような軽快なメロディーはとても楽しいものがありますし、「あれやこれや」なども女性ボーカルも入り、美しく聴かせるメロディーラインが耳を惹きます。中村一義のポップス職人としての面は間違いなく本作でも冴えわたっていました。

もっとも「普通」のアルバムとはいっても中村一義っぽさは健在。彼らしい、語感をいかしつつ、あまり歌詞に選ばれないような言葉も巧みに取り入れた歌詞の手法は本作でも見られますし、バンドサウンドにピアノやストリングスを入れてスケール感を出す・・・というとよくありがちな陳腐な手法のようにも感じるのですが、バンドサウンドとピアノ、ストリングスの音の組み方も絶妙で、彼の才能が光ります。

最初、「普通」に感じてしまいちょっと戸惑ったのですが、よくよく聴くと、非常に楽しいポップスアルバムと要所要所に感じる中村一義らしさに多いに楽しめたアルバムだと気が付きました。「天才」と呼ばれて過剰なまでに期待を集めたいままでの重圧からのがれて作り出した、素直で彼らしさが出たポップスアルバムに仕上がっていたように感じます。まさに次のステップにふさわしい1枚と言えるでしょう。これからの彼の活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

中村一義 過去の作品
最高宝
6 REMIX'N BIRDS
対音楽


ほかに聴いたアルバム

DEEPER/ヒトリエ

ボカロPとしても活躍しているwawoka率いるロックバンドの新作。情報量を詰め込んだハイテンポな楽曲が多いというのはボカロ出身らしい特徴的な感じ。以前からその傾向が強く、1曲1曲は悪くないのですが、アルバム全体を聴くと疲れてしまう・・・という印象がありました。残念ながら今回もその傾向が続いており、楽曲も全体的に似たタイプの曲が並んでいます。そろそろもう一皮むけてほしいところなのですが・・・。

評価:★★★

ヒトリエ 過去の作品
イマジナリー・モノフィクション
モノクロノ・エントランス

Butterfly Effect/DJ KRUSH

なんと11年ぶりとなるDJ KRUSHの新作はいきなり1曲目、あの佐村河内騒動で話題となった新垣隆をフューチャー。しかしこれが森の中で響いてくるようなメロディアスなピアノが実に素晴らしい作品に。それ以降も静かで美しい雰囲気のトラックが並ぶ作品に。その中に入っているラップを取り入れた作品や歌モノの作品はどれもインパクト十分な、いい意味でポップさのある内容になっており、幅広いリスナー層へのアピールも可能と思われる作品になっていました。

評価:★★★★★

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