女性としての名前で
Title:Hopelessness
Musician:ANOHNI
Antony&the Johnsonsの中心人物であり、かつボーカルとして活動していたAntony Hegarty。今回の新作は、そのヘガティが「ANOHNI」名義でリリースしたアルバム。このANOHNIという名前ですが、彼女はトランスジェンダーであることを公表しており、その彼女の女性としての名前がANOHNIということ。このANOHNI名義でのリリースには彼女の主張とそして覚悟も感じることが出来ます。
そのANOHNIとして歌っていることも影響しているのでしょうか、今回のアルバムは非常に社会派な歌詞が目立つことも特徴的でした。まず冒頭を飾る「Drone Bomb Me」はタイトル通り、ドローンによる中東でのアメリカ軍の爆撃を示唆した内容になっています。また「たった4度で世界が煮えたぎるのを見たい」と歌う「4 Degrees」は、その内容の通り、地球温暖化をテーマとした内容。歌詞はいずれもウイットに富みながらも、非常にストレートにその主張が伝わってくる歌詞になっています。
しかし、そんな曲のテーマとは裏腹に、楽曲自体に関してはむしろAntony&the Johnsonsよりもポップなメロディーラインを聴くことが出来ます。「Watch Me」なども非常にポップなメロディーラインがインパクトありますし、「Crisis」などもそのタイトルとは逆にポップなメロディーラインはむしろ明るささえ感じてしまいます。
また、Antony&the Johnsonsとは大きく異なるのはそのサウンド。オーケストラを取り入れたストリングスメインのサウンドだったAntony~と異なりANOHNIとしての曲は全面的にエレクトロサウンドを取り入れています。強いビートを楽曲に取り入れてきたり、分厚いサウンドでダイナミックに仕上げてきたり、ある意味「非ロック」的だったAntony~と異なり、サウンド的にはロック寄りに感じられる作品に仕上がっている、ともいえるかもしれません。
Antony&the Johnsonsとしての作品が決してマニアックで聴きづらかった作品というわけではありませんが、今回の作品、エレクトロなサウンドとポップなメロディーラインで聴きやすいアルバムに仕上がっていたと思います。今回のアルバムをあえてポップに仕上げてきた理由はわからないのですが、あえて女性名を名乗ったスタイルで社会派な歌詞を歌うからこそ、よりそんな彼女の主張が伝わるようにポップな作風にまとめたのかも・・・とも思いました。
もっとも、それではAntony&the Johnsonsとしてのアルバムから大きく異なる内容なのか、と言われるとそうではありません。Antony~のアルバムでの最大の魅力だったAntony Hegarty、いやANOHNIのボーカルは本作でももちろん健在。中性的な、この世のものとは思えないような美しくも力強いボーカルに魅了されること間違いなし。もちろん本作、歌詞やポップなメロディーラインも魅力的なのですが、なによりもANOHNIのボーカルに酔いしれることが出来るアルバムでした。
そんなポップ色の強いアルバムなのですが、その中に異質ともいえる不気味な空気を放っているのが中盤の「Obama」という曲。タイトルの通り、アメリカのオバマ大統領について歌った曲なのですが、彼に対する厳しい糾弾のメッセージとなっています。これがまさに憎悪あふれるボーカルとその感情にあったサウンドが実に不気味。ポップな作風の本作の中でかなり異質な構成となっているのですが、それだけ彼女のオバマ大統領の政策に対する失望感が強かった、ということなのでしょう。
個人的には正直、Antony&the Johnsonsのアルバムの方がよかったかな?とも思うのですが、こちらの作品も文句なしに傑作アルバムだったと思います。今後はこのANOHNIとしての活動を続けていくのでしょうか。彼女のありのままの姿をそのまま映し出したジャケット写真も大きなインパクトな本作ですが、その内容についても非常に大きなインパクトのある作品でした。
評価:★★★★★
ANTONY AND THE JOHNSONS(ANOHNI) 過去の作品
The Crying Light
SWANLIGHT
CUT THE WORLD
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