強いメッセージ性が伝わる傑作
Title:Lemonade
Musician:Beyonce
4月24日に何の予告もなしにいきなりリリースされて大きな話題となったBeyonceのニューアルバム。ビジュアルアルバムという位置づけで1時間以上にも及ぶ映像作品も同時に収録されている作品で、その映像作品の方は、アルバム12曲に対応したPV的な作品が収録されつつ、12曲全体でひとつの作品となっているような内容になっています。
さてそんな突如リリースされたアルバムなのですが、この内容が文句なしにカッコいい!今回のアルバムで話題となっているのが数多くのミュージシャンとのコラボレーション。参加陣にはご存じ元The White StripesのJack WhiteやThe Weeknd、James Blake、さらにはKendrick Lamarといった今を輝く豪華なミュージシャンがズラリと並んでいますが、これがアルバムの中で実に良いスパイスとして機能しています。
アルバムはまずピアノとストリングスを用いた静かで緊迫感あるトラックが印象的な「Pray You Catch Me」「Hold Up」からスタート。この2曲も非常にカッコいいナンバーなのですが、ここから3曲目「Don't Hurt Yourself」へと流れ込む展開が痺れます!この「Don't Hurt Yourself」はJack Whiteがゲストで参加している作品なのですが、Beyonceのシャウト気味なボーカルにへヴィーなバンドサウンドがのるブラックテイストが強いロックなナンバー。Beyonceのいつものイメージとはちょっと異なるだけにアルバムの中で大きなインパクトとして機能しています。
その後の「Sorry」「6 Inch」は今時な雰囲気が強いダークな雰囲気のあるエレクトロトラック。こちらも「6 Inch」ではThe Weekndがゲストとして参加していますが、今時のサウンドを用いつつも基本的にはポップ路線な楽曲がThe Weekndらしさを感じます。
さらにカントリーロック風の「Daddy Lessons」なんていうちょっと意外性あるナンバーを挟みつつ、「Sandcastles」はピアノをバックに力強いボーカルを聴かせる正統派のソウルバラード。ソウルシンガーとしてのBeyonceの実力をこれでもかというほど感じさせるナンバーになっています。
そして後半のハイライトとも言えるのがKendrick Lamarがゲストで参加している「Freedom」。強いビートを前に出したパワフルなトラックに彼女のボーカルも非常に力強いものを感じるナンバー。歌詞の内容はストレートにはわからないのですが、サビの「Freedom」という力強いフレーズの繰り返しに楽曲のメッセージ性が伝わってきそうなナンバー。さらに最後に入るKendrick Lamarのラップも強い印象に残ります。
最近のR&Bから昔ながらのソウル、エレクトロにロック、HIP HOPやカントリーまで幅広い音楽性をちゃんと自分のものとして取り込み、かつ1枚の作品としてまとめあげている傑作アルバム。ただ今回、ここまで「音楽的」な側面のみ取り上げてきましたが、このアルバム、そこに込められたメッセージ性も大きな話題となっています。
まずゴシップ的な側面として話題となったのが夫であるJay-Zの浮気をテーマとしているという話題。1曲目「Pray You Catch Me」は浮気夫への糾弾を歌詞のテーマとしていますし、「Sorry」の中に出てくる「Becky」なる人物がその浮気相手ではないか、と話題となっています。
ただこのアルバムがすごいのは単なる「夫の浮気」というパーソナルなテーマをアルバムの中でアフリカン・アメリカンの女性の問題へと昇華しているという点。
「I break chains all by myself
Won't let my freedom rot in hell」
(鎖を自ら壊して 自由を勝ち取ろう)
と歌う「Freedom」などは非常にストレートながらもアフリカン・アメリカンとしての力強いメッセージ性を感じますし、そのメッセージ性は映像作品からもより強く感じます。特に「Don't Hurt Yourself」では楽曲の中でマルコムXの「アメリカで最も評価されていない人間は黒人女性だ。アメリカで最も危険にさらされている人間は黒人女性だ」というスピーチをサンプリングしつつ、黒人女性たちの笑顔を映し出すという構成には、Beyonceの主張を強く感じることが出来ます。
これらのメッセージ性は比較的わかりやすく、今回このレビューを書くにあたってはいろいろなサイトの情報を参考にはしたのですが、何も情報を得ていなくても、英語のよくわからない私たちでも映像作品を見ればBeyonceのメッセージは何かは伝わってくるのではないでしょうか。
ただそれでも日本人の私たちにとってはメッセージがダイレクトに伝わってこないのはとても残念。それは今回のアルバムがとてもメッセージ性の強い内容なだけに特に感じます。ここ最近、Kanye WestにJames Blake、Radioheadなど突然、配信のみでアルバムをリリースする大物ミュージシャンが続いていますが、CDでのリリースならば歌詞カードについてくる和訳等で彼らのメッセージが伝わってくるものの配信のみのリリースでは歌詞の内容がほとんどわからないのが非常に残念に感じると同時に、このままではますます日本人の洋楽離れが進んでしまうのではないか、と危惧します。和訳を載せているサイトもいろいろとあるにはあるのですが・・・。
今回のBeyonceのアルバムも後日、国内盤がCDでリリースされる予定のようですが、そのリリース時期は今年の夏頃とかなり遅れる見込み。例えば和訳をした歌詞カードだけでダウンロードで先に発売とかできないのでしょうか?500円くらいまでなら買ってもよいと思うのですが。
もっともこの作品、Beyonceのメッセージもさることながらも音楽的な面だけでもすごさを感じることが出来る傑作アルバムだったと思います。間違いなく今年のベスト盤候補と言える傑作。国内盤がリリースされる夏まで待ってもよいとは思いますが・・・全音楽ファンがチェックすべき作品だと思います。これはすごい!
評価:★★★★★
BEYONCE 過去の作品
I Am...Sasha Fierce
4
I AM...WORLD TOUR
Beyonce
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2016年」カテゴリの記事
- 18年ぶりの新作はラストアルバム(2016.12.26)
- いかにもメタリカらしい(2016.12.25)
- 今後のBON JOVIの方向性を示唆(2016.12.19)
- 中性的なフレンチテクノ(2016.12.13)
- 「映画」のようなアルバム(2016.12.10)
コメント
これはビヨンセの最高傑作と言ってもいいでしょうね。
投稿: ひかりびっと | 2017年6月 6日 (火) 10時16分
>ひかりびっとさん
素晴らしい傑作でした!
投稿: ゆういち | 2017年6月10日 (土) 00時36分